37話 警戒
リル……冬乃はその後ベールたちと別れ現実へと戻ると食事を済ませる。
「宿題……しないと」
時間はまだある。
そう思い教科書を開き宿題を進めていくのだった。
一体教科書の文を移すことに何の意味があるのだろうか?
リルは疑問だった。
「これで作者の気持ちを理解しろって……よくわからないよ」
そう言いつつも宿題を終わらせた彼女はすぐにVRギアを被る。
ログインをするとそこは先ほどの喫茶店だ。
流石にカナリアはもういないが――。
ベールが落ちたのもここだろうと考えたリルはとりあえず席にだけ座ることにした。
現実では注文をしなければいけないがVRでは混んでない限りこうやって待つこともできる。
そう言ったところも気に入っている部分だったのだ。
「やぁ」
後ろで声が聞こえ他にも誰かが待ち合わせしていたのだろうか?
などとぼんやり考えていると声の主はリルのいるテーブルまで来たのだ。
だが、リルは人違いだろうと思っていた。
「あの……間違ってますよ?」
何故なら男性に知り合いはまだいないからだ。
兄さんや弟は別として他の人にはまだ会っていない。
そう思って顔を上げるとそこに居たのは――。
「あ……」
昨日の剣士だ。
彼は笑みを浮かべそこに立っていた。
「……なん、ですか?」
ギルドの剣は断ったはずだ。
そう思いつつ尋ねてみる。
すると――。
「いや、一人でいるのをたまたま見かけてね。ここの食事は美味しいよね」
そう話しかけてくる男性にリルは警戒をしていた。
当然だ。
ここに来ていたのは女性プレイヤーの比率が多い。
何故ならここでは――。
「何が好きなんですか?」
「そうだね、ランチプレートかな?」
「ここスイーツしかなかったですよ」
そう、スイーツ専門店なのだ。
美味しいスイーツがカロリー0で楽しめる。
女性に人気が出るのは間違いない。
勿論そういうのが好きな男性もいるだろう。
だが……彼ははっきりとランチプレート言った。
そんなものは存在しなかったのだ。
「ギルドはお断りしました」
たまたま入ってリルがログインところを見て、どうせ勧誘しに来たのだろう。
そう思ったリルはもう一度断ると彼へと目を向ける。
リルの言葉に彼は微笑み。
「だけど僕はまだあきらめてないからね」
さわやかな言い方ではあるが……なぜか嫌な感じがしたのだ。
だからと言って彼に付きまとうのはやめてくださいとは言えなかった。
何故ならまだそうと決まったわけじゃないからだ。
「…………」
「そう睨まないでくれ」
そんなことしてないです。
リルはそう言おうとしたが、そっぽを向く。
昨日は良い印象があった。
だが、なんか今日は不快感があるのだ……。
それは何なのかは分からない。
だが……偶然この店に入ってくることはあるだろう。
しかし――今回はリルを見かけたから話しかけてきたのだ。
その上、初めて入る店で嘘をついてまでリルと会話をしようとしたのだ。
一度断ったギルドの勧誘であることは間違いないだろう。
「それでなんの用なんですか?」
リルはため息をつきながらそう言うと彼は乾いた笑い声を上げた。
「そう言わずに……」
注文をしたコーヒーを飲み始めた彼は――。
「どうか、考え直してくれないか?」
「考え直すも何もないですよ……私はベールと一緒にギルドを作るんです」
そうリルが口にした時だ。
ちょうどログインしたベールが目を丸め驚いていた。
それもそうだろう。
ログインをした直後に自分の名を呼ぶリルがいるのだから。
「リルちゃん?」
「ベール……良かった行こ?」
彼女が来たことにほっとしたリルは立ち上がるとベールの手を取り歩き始める。
「返事はいつでもいい! ぜひ頼むよ!」
「…………」
それは好意なのだろう。
だが、リルは得体のしれない恐怖を感じていたのだった。
そんな彼女を気遣ってかベールは握られた手をしっかりと握り返すのだった。




