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36話 女子会

「美味しい!」

「うわぁ……!」


 二人の少女はアップルパイを口へと運ぶと感動の声を上げる。

 確かに現実顔負けの味だ。

 しかもVRでならいくら食べても安心なのだ。


「でも大丈夫かな?」

 

 そんな中ベールは不安そうにつぶやく。

 なにか心配事があるのか?

 リルが彼女の方へと目を向けると――。


「お昼前なのに食べて……現実で食べれないって事に」

「安心して、そうはならないわ……確かにゲーム内で空腹を感じるし食べれば一時的に満たされるわ」


 それにこたえたカナリアは指を一本立て――。


「だけど現実で食べれなくなると問題よね? あくまで一時的にそれも空腹が続けば長く持たないし、危険だと判断されたら強制ログアウトよ?」

「そう、だから食事制限ダイエットしてる人とかは良く落ちたりするんだよね」


 この問題はVRゲームが流行りだした時から上がっていたのだ。

 仮想世界で食事をとることで脳が錯覚し満腹中枢を刺激する。

 これにより現実で拒食症のような者が起きるのではないか? と……。

 そうなれば当然VRゲームはここまで浸透できなかっただろう。


 だからこそ、開発者はその問題をあらかじめ考え、危険領域内であれば強制ログアウトするようにしてあったのだ。

 つまり、例え休みで朝からゲームをしていても食事を抜いて長時間やるという事は不可能なのだ。


「集中力がすごい人はそれでも長時間やってる人はいるけど……限界はあるみたいだね」


 リルはそういうと今度はデザートピザを一口食べてみる。

 外はカリカリ、中はとろとろのマシュマロにチョコソースが絡み何とも言えない味が広がっていく。


「これも最高だよ!」

「ふふふ……そうでしょう?」

「た、食べ過ぎなんじゃ?」


 ベールはやはり心配なのだろう。

 そういうが――。


「ところが、このVRでの食事システムって医療現場でも使われてるんだよ?」

「……そうなの?」

「うん! 例えば糖分摂取量を決められてる人がどうしても食べたいって言った時とか」


 リルが口にしたことも事実であった。

 食べたという事実があれば満足する人がおり、その為に喫茶店で食事をするというVRソフトがあるのだ。

 そういったソフトのお陰でリルたちは美味しいデザートが食べられていることは言うまでもない。

 なぜなら、中途半端な味では患者が満足しなかったからだ。


「それで……リル、装備が変わってるけどやっぱりレアアイテムがあったのかしら?」

「うん! 武器はベールのも私はフル装備がそろった感じかな?」


 現状どの程度が最強装備なのか分からない。

 だが、今の時点では壊れていると言ってもいいほどの火力を持っているリルは――。


「それで、どんな装備?」

「ギルドハウスとかが手に入ってからね?」


 この場では伏せておこうと考えたのだ。

 何せこの店には多くのプレイヤーがいた。

 彼らは何も気にしていないようにしているが、チラチラとリルたちを見ていたのだ。


「美味しかったー!」


 最後の一切れを口へと運んだリルはカフェモカで喉を潤す。

 これだけ甘い物を取ってもカロリーは0だ。

 その事に感謝をしつつ……ベールの方へと目を向けると。


「ねぇリルちゃんってよくスイーツ誘っても中々こないって言われるの……」

「勿論VRで食べれるからだよ?」


 先ほど話に出た食事システムソフトは一般で出回っており、リルも持っていた。

 食事をするには課金が必要ではあるが、好きな時に好きなスイーツを食べれるのは魅力的だった。

 唯一欠点があるとすればVRギアを持っている友人が少なかったという事だけだ。


「でも、あのソフトはもう良いかな? バイト代飛んじゃうし……こっちの方ならベールたちと一緒に食べれるし」


 寂しさはあった。

 だからこそ、アスカレイドオンラインにこういった場があった事にリルは素直に喜んだのだ。


「そうね、やっぱりみんなで食べたほうがおいしいわよね」

「なんだろう? 誘われた時に行った方がいいんじゃないかなーって思うの私だけ?」


 それを言われては元も子もないが……。


「……弟が」

「うん?」

「弟の奴が食べたもの全部太ももに言ってるんじゃないか? ってバカにして笑うから……」


 リルは現実の弟を思い出した後……こっちの世界での彼を思い出す。

 すると――。


「ああ、うん……姉弟だからか、貴方にはいつも厳しいわよね? でも優しい時もあるんだからそう邪険にしないで上げてね」


 共通の知り合いであるカナリアは遠い目をしながらそう口にし、ベールは呆然としていた。


「分かってるけど! いつも太もも太いって言われるんだよ!?」

「それは……いくら弟さんでも」

「酷いよね……」


 がっくりと項垂れたリルにベールはそっと肩に手を置き――。


「リルちゃんはこっちでも現実でも可愛いよ?」

「……ありがとう、ベール」


 慰めの言葉としてリルはそれをありがたく受け取ることにした。

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