31話 疲労
リルがスキルの名を叫び放った矢は光を帯びまるで流星のように飛んでいく……。
だが、ゴブリンキングはこれに対し武器をふるい、矢をはじき返してしまった。
「――っ! まだ!!」
しかし、リルの放った矢は武器のユニークスキルだ。
効果はまだ続いている。
MPを消費し矢のコントロールを得るとゴブリンキングへと再び向かわせた。
「小細工を……」
ゴブリンはそう言い、再び剣をふるうが――今度は飛ばされることもはじかれることもなかった。
とはいえ、初めてやる操作だ。
『意外と、難しい』
集中力をどんどんと消費していく……。
それは彼女自身ひしひしと感じとっていた。
同時に感じるのは焦りだ。
リルは確かにプレイヤースキルが高い。
それはどのゲームにおいても強みだ。
しかし、同時にそれは弱点でもある。
特に今のような状況では……だ。
疲労をしてしまえば人間は当然ミスが増えていく……。
それはリルでも避ける事が出来ないものだ。
そして、リルは先ほどのボス戦からここまでほぼ休みがなく動いている。
当然疲れてきてもおり……。
「っ!」
やっとの思いでゴブリンキングへと矢を貫かせた。
敵のHPバーの現象を見てほっとした一方、まだこれを続けなければならないという現実を突きつけられ呆然とする。
確かにHPは減った。
それも微々たる量ではなく想定以上のダメージだ。
これなら数回やれば確かに倒すことはできる。
しかし、何度か矢を当てた後……。
「グォォォォォォ!! 人間、貴様らぁぁぁぁぁぁ!!」
HPが減ったことによる行動変化が起きたのだ。
武器を捨て四足歩行で近づいてくる巨体は先ほどよりも速く……。
リルの目の前にその巨躯を近づけるのに数秒はかからなかった。
「は?……え?」
呆けた声を出すことしかできない少女の前にその巨体は迫り――。
『なにこれ? 早過ぎでしょ? それに……なに、この目……』
リルは目の前に迫った血走った瞳、怒りに染まったその表情を見てしまった。
それらはどう考えてもデータなどでは言い表せないほど恐ろしい物だった。
いや、リルは自分へと向けられたものではないにせよ、現実でここまで怒っている人を見たことがあったからこそ理解した。
これは――人同じだと。
「このっ!!」
恐怖を感じたリルは全身に鳥肌が立つ感覚に襲われつつもの飛びのく……。
これはゲームだ。
クエストだと言い聞かせる物の身体は震えてしまい。
『うまく動けない……かろうじてかわせたけど、次は……』
次は無理だ……そう思いそうになりリルは慌てて首を横に振る。
ここで折れてしまったらだめだ。
そう思いつつ、震える身体へと鞭をうつかのように――。
「高速設置!」
ホッピングトラップを設置したリルはそれを踏み抜き一気に距離を取り――。
「スナイプアロー!!」
続けて矢を放つ。
同時にベールの魔法もキングへと向かっていく……。
キングはそれを避けることもなく拳をふるいはじき返してしまうが、リルは続けてファールバウティを放ち……。
「良し!!」
どうやら今の攻撃とベールの魔法の一部はしっかりと通ったようだ。
キングのHPはバーから見て1割程度だろう。
どうやらこれ以上の行動変化はないようだ。
だが、もう矢を操るほどのMPも気力もない。
かろうじてできるのはスキルを一発使えるぐらいだ。
つまり頼りはベールの魔法……。
「ベールお願い!!」
「う、うん、わかった」
魔法を唱えようとしたベールだが、発動しないことに目を丸めてしまう。
そう、彼女はMPが底をつきていたのだ。
だが、それは初心者でなくてもよくあるミスだ。
「大丈夫、ポーションでMPを回復して」
すぐにそう伝えるが慌ててポーションを使おうとしたベールはそれを落としてしまい。
その隙にキングはあろうことか彼女の方へと向かっていってしまう。
「……え?」
今までリルを狙っていたはずのキングが自分に向かってきて呆けてしまったベール。
しかし、すぐに気を取り直しその場から逃げようとするが、彼女の足では間に合わない。
それを理解したリルは再び高速設置を使い――。
「こ、のぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ヨルムンガルドを投げ、フェンリルを鞘から滑らせるとスキルの名を叫ぶ。
「ビューレイストォォォォ!!」
一撃、二撃と続いて行くが、急激にスキルによるアシストが失われていくことを感じたリルは深呼吸をし、意識を集中をしていく。
すると止まりかけたスキルは三撃目、四撃目へと続いて行き――。
「まだ……まだ!!」
五撃、六撃目を放ったところで止まり、リルはがくりと膝をつく……まだ、戦わなくてはいけない。
そう思った彼女は立とうとするのだが力が入らず、視界は霞み始め……そのまま倒れこんでしまうのだった。




