29話 襲撃
装備を確認し終えたリルはベールの手を取り走り出す。
「リ、リルちゃん!?」
「行くよ!」
ベールはまだ戦闘が苦手だ。
そんなことは分かっていた。
しかし、それでも彼女の手が必要だったのだ。
もしこれが大規模な襲撃イベントであれば……。
相手の数によってはリルでは不利だ。
リルは先ほどの戦いで疲労もたまっている、そして何より範囲攻撃がない。
「待って!」
だが、ベールはその手を振りほどくと小さな体を震わせ首を横に振る。
「私、行っても役に立てないよ」
そしてか細い声でそう言うのだ。
しかし、リルはそれを聞きゆっくりと首を横に振った。
それは違うと……。
「聞いて、私はプレイヤースキルに依存してる」
「…………」
「確かにはじめて私を見ると皆目を丸める……チート……ずるしてるって言われたこともあるよ」
嫌味で言われただけだというのは分かっていた。
かつてやったゲームでもそうだったからだ。
しかし、プレイヤースキルに依存するとは致命的な弱点もあるのだ。
「だけどね、私は私の体力以上のことはできない」
「……え?」
「疲れてない限り避けやすいと思うし、攻撃だってそう……でも、私は動けばそれだけ集中するし他の人より疲れやすい……疲労すれば動けない……疲れ果てたらそのまま寝る可能性だってある」
狩りを長く続けたりクエストを連続でこなすというのは彼女にとって不利な話なのだ。
だが、それでもこのクエストを続けた理由。
それは――。
「だからベールが必要なの、頼れる仲間ってさ、あまりいないから、ね?」
特にこの世界ではまだ始めたばかりだというのもあり、全然仲間は居ない。
そんな時に出会った彼女はとても貴重なのだ。
「……お願い、もう少し付き合って?」
「…………う、うん」
リルは彼女の返事を聞くと笑みを浮かべ手を差し出す。
それは昨日と同じ光景だった。
「一緒に行こう!」
「うん!」
彼女と共に走り出したリルは祠の外へと出ると魔物たちを睨む。
ここから戦闘が始まるのだろう。
火の手は上がっているがリルたちが足を踏み入れるまでは魔物たちは動かなかったみたいだ。
「村が……!」
「火矢……もしくはメイジ系がいるね、耐性があるかもしれないから火の魔法はなるべく使わない方がいいかも」
「分かった」
彼女に火属性以外の魔法を習得してもらってよかった。
そう思いながらリルは迫るゴブリンへとフェンリルを振りぬく。
フル装備というだけでATK150というずば抜けた数値を持つだけはあり、ゴブリン程度では掠った程度でHPをもぎとることはできる。
「す、すごい……まるでわんわんナイフみたいな切れ味だね?」
「な、なにそれ?」
いきなり聞いたこともない単語を聞き思わず聞き返すほどには余裕はあった。
「えっとね犬好きな人が作った包丁とかで……すっごい切れ味なんだよ?」
「あーそう言えば弟がなんか同じことを言ってた気がする。なんでもが豆腐みたいに切れるんだって……」
自慢げにそう言っていた弟を思い出しリルは自身の短剣フェンリルと切り裂かれたゴブリンを見つめた。
「でも豆腐のようにって言うかまるで噛み千切ったような切れ方だけどね」
フェンリルというのは名前通りなのだろう。
狼の姿をした魔物にも使われるほど有名な名前だからこそ、こういった痕なのだろう。
「た、確かに……」
「でも、ま……私にはぴったりな武器だよ」
彼女にとってはもう一つの意味でユニークと言ってもいい装備だ。
子供っぽく笑みを浮かべた彼女は群がるゴブリンを退治をし――大きな影が動くのを感じ、顔を上げる。
するとそこにはニヤリを笑みを浮かべる醜悪な顔があり――。
「は、はぃい? 大きすぎない……」
「凄く……大きい……ね?」
そこに居たのはゴブリンリーダーよりも大きな魔物だ。
あれでさえリルの3倍はあるのではないか? と思ったが、それよりも大きいその姿にリルは愕然とするのだった。




