2話 アスカレイド・オンライン
「すごい! これ本当にゲーム!?」
今までやったVRゲームはどこか現実ではない感じがしていた。
しかし、彼女はそこにある確かな現実に感動していた。
右を見ると滑らかに視線が動き、左を見ればまた動く……。
更にはくるくると回ると同じように景色も回っていくのだ。
「うわぁ……」
見ればリルと同じくたった今始めたのだろう。
彼女と同じように辺りを見回している人がいた。
だが、そうなるのは当然だ……。
そこにあるのはもう一つの現実世界と言っても過言ではないほど綺麗で広大な世界だったからだ。
「よ、よーし!!」
彼女は一人意気込むと早速フィールドに出ることを考える。
発売してからもう結構経っていることから、街のすぐそばにはプレイヤーが少ない。
それゆえリソースを気にすることなく戦えると考えた。
その前に装備の確認をし始めるのだが……。
「えーと初期装備は……まぁ、ありきたりだね……矢と罠は当然消耗品か……」
ストレージには罠20個、矢50本と書いてあるのをみてうんうん、と頷いた。
続いてステータスを確認すると
【リル】
アサルト Lv1
HP56 MP12
STR1
VIT1
AGI72
DEX30
INT1
LUK1
ATK5+24/7+10
1の項目は初期値であり、当然初期装備では補正値はないようだ。
ATKの項目にあるのは恐らく5+24というのは短剣での攻撃時。
そして10の方は弓だろう。
どうやら数値から見て能力値を3で割った数が攻撃力に乗るようだ。
「流石にそのまま乗ることはないか」
彼女はそう言いながら辺りを見回す。
先ほど同じぐらいに出てきた初心者はもういないみたいだ。
しかし、たった数人増えたところで何も問題がないと考えた彼女はゆっくりと歩き始める。
「それじゃフィールドに移動っと!」
笑みを浮かべてそう言うと、いつの間にか走り出し――未知なる世界を楽しむのだった。
町の外は緑豊かな場所だった。
そこにはオレンジ色のスライムがぴょんぴょんと跳ねて移動をしている。
それを追いかける様々な職業。
冬乃……いや、リルと同じ初心者だろう。
だが、彼女はそんなスライムを見ては――。
「うーん、もうちょっと離れてみよう」
そう判断し町からさらに離れてみる。
すると、物陰からなにかが飛び出してくるではないか……。
先ほどのスライムはすれ違ったところで襲ってはこなかった。
しかし今度は違うのだ。
物陰から飛び出してきたのは緑色の子供。
「ゴブリン!」
そう、そこに居たのはRPGではおなじみのゴブリンだ。
ゴブリンは粗悪なナイフを構えるとゲゲゲと笑い、リルへとそれを突き立てようとする。
しかし、AGIを優先しているリルはそれを咄嗟に避け――。
「行ける!!」
そう口にするとナイフを鞘から滑らせゴブリンへとお見舞いする。
綺麗に吸い込まれ行く銀色の線は見事にゴブリンに傷をつけ――。
「まだ!!」
初心者にしては見事な動きで魔物へと攻撃を続ける。
ゴブリンは決して強い魔物ではない。
しかし、アクティブと呼ばれる魔物だ……近づけば攻撃される。
それを知らないプレイヤーは焦り判断が遅れる事だろう。
しかし、この手のモンスターの事はリルは知っていた。
そう……自分で探して叩くよりも敵が探してくれるのを待っていたのだ。
そして、普通初心者はここまで来ないと考え、行動に移した。
当然彼女も初心者ではあるのだが……そこは別のゲームで培ったプレイヤースキルを駆使し、見事ゴブリンを撃破して見せるのだった。
「お! れべるあーっぷ!」
弱いとはいえ格上の魔物を倒したことで大量の経験値を得た彼女はLv2になったようだ。
「よし、まだまだいるよね? ここで待ってようっと」
そして、下手に動けば囲まれる危険もあると判断し、恐らくはゴブリンの活動範囲ギリギリのその場所で座り込み次の獲物が来るのを待つのだった。
すると、彼女の思惑通りゴブリンたちは現れ――そして、彼女の経験値として消えていくのを繰り返す。
「順調だね」
満面の笑みを浮かべた彼女は鼻歌を歌いながらレベルを上げるのだった。