26話 強運を持つ少女
「ここだ……」
連れられた場所は村の中にあった祠だ。
そこは丁寧な作りになっており……何かが祭られているのだろう。
「ここには巨人の神の怒りを抑えるために武具を封印しているのです」
「でも……この短剣は?」
リルは先ほど手にいれたフェンリルを見せると――。
「なぜそれを!?」
「すみませんお父様、ゴブリンリーダーに奪われかけたので私が先に……」
「そうだったのか……それがお前を助けてくれたこの少女の手に……」
彼はそう言うと祠の方へと目を向ける。
そして――ゆっくりと語り始めた。
「巨人の神の怒りは未だ収まらないと言われている……」
「そうなんですか……」
ここまで来て装備を手放さなければならない。
そう理解してしまったリルは意気消沈してしまう。
それもそうだろう初めてたった数時間で手にいれたユニークとはいえ、ゲーム史上初めて手にいれたのだ。
「リルちゃん……」
そんなリルを見て悲しそうな表情を浮かべたベール。
村長はそんな二人を見て――。
「それは!?」
いや、正しくはベールを見て驚いたのだ。
「な、なんですか?」
「その杖だ……それは巫女が持つというフリッグではないか……」
「ふりっぐ?」
また神話の神の名前が出てきた。
リルはそう思いながら彼女を見る。
もしかしたら彼女の武器もなくなってしまうのだろうか?
この場でイベントを進めるのは不利だ。
そう思いため息をつくと――。
「その杖を持ち、祈りを込めれば――巨人の怒りは静まると言われている……」
「……ん?」
だが、会話はリルの思っていたものと違うものだった。
「冒険者様、そして巫女様、どうかこの村を助けてはくれないか?」
「み、みみみ巫女!?」
ベールが驚くのも無理はない。
だが、リルは恐る恐る尋ねてみる。
「もし呪いが……怒りが収まればどうなるの?」
「この村は昔から魔物に狙われておりました……結界のお陰で入ってこられなかったのですが近年弱まっているのです」
「……脅威がなくなるって事?」
村長は複雑な表情をして首を横に振る。
そして――。
「こんなところにある村です。魔物は襲ってくるでしょう……ですが、強力な魔物は目的を失いこの村には――」
来なくなるかもしれない。
そう言いたいのだろうとリルは予測をし――。
「その後、武具はどうなるんですか?」
「君たちの好きにすると良い……いや、その杖と共に強者の元にあったほうが良いだろう……持って行って欲しい」
それを聞いてリルは表情を明るくした。
本来はこの場で武具を預け結界を強化するというイベントだったのだろう。
しかし、ベールが持っていた巫女の杖……フリッグのお陰もありイベントが変わったのだ。
それを確信したリルは――。
「ベール! このクエストを終わらせるよ」
「え? ええ?」
戸惑う彼女に対し、リルは子供のような笑みを浮かべる。
「これ、クリアできれば装備が一式手に入るの! そうすればベールの装備も集めやすくなるし……ギルドだって作れると思う!」
「う、うーん……それってつまり、一緒に遊べるってことだよね?」
うんうんとリルは頷き更に答える。
「そう! ベールの装備集めも手伝わないといけないしね」
元々彼女を見捨てるつもりなんてなかった。
しかし、自分だけ強化しても意味がない。
そう思う節もあったからこそ一つ聞いておきたい事が出来てしまった。
「杖はどうなるんですか?」
「恐らく、その力を失い新たな力を得るだろう……伝記にはそう乗っている」
「具体的には?」
リルが訪ねると――それにこたえてくれたのはミリーだった。
「ニーズヘッグが宿り、その力を破壊と魔に染めると言われています」
「そう……つまり、ベールの強化もできるってことか……」
思わぬ方向に転んだが、リルは確信する。
ベールの強運は本物だと……。




