25話 巨人の武具
「それは嘗て――」
かつてこの世界には神々がいた。
その神々は使徒を作り出し、彼らを戦わせ遊んでいた。
使徒とは人の事であり、人は本来感情など持ち合わせてはいなかったのだ。
だが、その中である神……巨人の血を引く男は悪戯で人に感情を与えた。
その感情とは……憎悪、死への恐怖……巨人の男の使徒はその感情から生き残るために必死になって考え、そして感情のない人を殺す。
巨人の使徒は異常な力を得たのだ。
その事に気をよくした巨人は自分と子供、そしてその母親の名を与えたいくつかの武具を使徒へと与えた。
そう……神からの承りものを得たことによる幸福……。
そして、自分たちが正義であるという自信と一緒に……。
「…………ねぇリルちゃん」
「なに?」
「これ……神様悪い人じゃ?」
「だろうねー」
いまだに続く話を聞き流しながらリルたちは会話をする。
本当の神話ではないが、巨人の男とは間違いなくロキの事だろう。
ロキと言えば悪戯が好きな神であり、邪神とも言われる男だ。
オーディン側の神を罠にはめ殺し、更には復活できないようにしたという話も聞いたことがある。
「そして!」
男が声を張り上げた瞬間、リルとベールはびくりと肩を震わせる。
NPCとは思えない熱の入りようだったからだ。
これを吹き込んだ声優さんはどれだけ熱弁をしていたのだろうか? などと考えてしまうぐらいには……。
「巨人の神の不正に怒りを感じた神々は彼と同じことをした!」
「……ま、まだ続くんだこれ」
一体いつまで話が続くのだろうか?
リルは考えながら彼を見つめる。
変なポーズは繰り返し行われ――。
「なんだか……シュンさんに似てるなぁ……」
かつて出会った一人の男性キャラを思い出す。
彼もまた変な仕草をしながら熱弁をするのだ。
「だが!」
「…………長いです」
そんな中、疲れてしまったのかベールは少し気を落としたような声でそうつぶやき――。
リルは乾いた笑い声をあげる。
「あのー」
そして、彼へと話しかけてみるのだが……。
特に反応もなく一方的に会話は続いて行く……。
仕方がないとリルとベールはその場に座り込み……彼の説明が終わるまで話をすることにしたのだ。
だが――。
「という訳なんだよ!」
「今終わるの!? 思いっきり話の途中だったでしょ!?」
なんだかかつても同じようなツッコミを入れた!
リルはそう確信しながらもそう言わざるを得なかった。
「こ、これがVR……ネットゲームの会話、なの?」
「絶対違うから……」
こんな会話イベントがあるはずがない。
そう思いつつリルは尋ねてみる。
「それで他の武具は奪われたんですか?」
「いや、取られてしまったのはアングルボザだけだ……しかし、その武具は特殊でね……使い手を選ぶんだよ」
使い手を選ぶ……。
その言葉にリルは首を傾げたが……すぐに納得する。
アングルボザは決して壊れることはない、譲渡することもドロップすることもないのだ。
その設定が恐らくは使い手を選ぶと言われる理由なのだろう。
「君は邪神に選ばれたんだろうな……こっちに来るがよい」
「いや、キャラブレブレになってるんだけど!?」
ますますあの人に似ている。
というか本人が台詞とモーションをつけたのではないか? とリルは疑い始めたが……。
「あの、父がすみません……」
「ああ、うん……」
申し訳なさそうに喋るミリーという少女に対し、ひきつった笑みを返す。
「もう少しお付き合いいただけますか?」
「……なんだろう、これゲーム作った人のお願いっぽく聞こえるんだけど……ねぇ、リルちゃんそう思わない?」
ベールの言葉にリルは頷き。
「うん、多分そうだね」
そう言いつつ、新たに出たウィンドウへと表示された受諾の項目をタッチするのだった。




