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17話 ハイゴブリン

「まさか、本当に会えるなんて!」


 ニコニコとしている彼女はピンと跳ねた触角のような髪を揺らしながらそう口にする。

 それに対しリルもまた笑みを浮かべ――。


「でも、なんでこのゲームを?」


 確かに彼女がゲームを知っているのは理解していた。

 学校でゲームの名をリルが口にしていたからだ。

 この土日に別の人に遊びに誘われた際、別に隠すことでもないし……と思って言っていたのだ。


「えへへ、話が聞こえてきて面白そうだなーって買っちゃった」


 買っちゃった……。

 その言葉にリルは苦笑いをする。

 このアスカレイドオンラインは発売からしばらくは経っているとはいえ人気タイトルだ。

 それに伴い本体であるVRギアもなかなか手に入らない。

 密林通販のサイトでは一桁増えたものが転売されていたのも確認できるほどだった。


「よく、手に入ったね?」

「……うん、お兄ちゃんの友達が欲しがってたらしいんだけど、なんか手に入ったとかで格安で買わないか? って言われたの!」


 強運は本当に実在したんだなぁ……。

 リルはそう思いながらあははと乾いた笑い声をあげた。

 対し、ベールはころころと笑っている。


「……っ!」


 そんな楽しいダンジョン探索の最中、リルは表情を引き締め辺りを見回す。

 左手はベールの前に差し出し止まるように指示をしてだ……。


「どうしたの?」


 すっかり敬語が外れた彼女はリルの行動に驚いたのだろう。

 不安そうな表情を浮かべていた。


「モンスターの気配がする」

「気配? 気配って……これ、ゲーム」


 奇妙な話ではある。

 だが、リルに限っての話ではないのだ。

 VR適正が異常に高いプレイヤーは総じて同じことを言うのだ。

 ほかにもNPCには意識がある、生きた人間と同じだと……。

 そう口にするものも多い。

 そして、モンスターの気配というのは十中八九外れたことはない。

 だからこそ、リルはその感覚を信じていた。


「……来る!!」


 リルの声に合わせるかのように飛び出てきたのはゴブリンだ。

 フィールドに居るゴブリンとは身なりが違う。

 少し整ったような服を着ているその魔物はハイゴブリンというようだ。

 ハイゴブリンは二人を見て獲物が来たというかのように笑って見せた。


「ひっ!?」


 対し、ベールは怯えた声を出す。

 そう……まるで生きているかのように見え、それが自分たちを狙っている。

 そう思ったのだろう、思いかえせばリルと出会った時も怯えていた。

 それだけではない事実ゲームシステム的にゴブリンたちのヘイトはこの場に居るプレイヤーに向かっている。

 つまりはリルとベールの二人だ。


「大丈夫、ベールは後ろに下がって」


 だが、リルは冷静に対処をする。

 ゴブリンなら何度も倒してきた。

 そういう自信があったからではない。


「で、でも!」


 洞窟での戦いにはなれているのだ。

 そして、この洞窟には横道がなかった……。

 ゲームのシステム上後ろから来ないとは限らないが……。


『このダンジョンはあまり入られてない、なら……ここのモンスターの沸き上限に達しているはず』


 ナイフを構え、ハイゴブリンを睨むリル。

 目の前にいるのは5体のハイゴブリンだ。


「数は多い、けど……」


 ハイゴブリンの大きさはだいたい子供ぐらい、一気に攻めてこられてもせいぜい二匹が良い所だろう。

 事実、迫ってきたのは二匹で魔法を唱えるような高位のモンスターはそこにはいなかった。

 接近するハイゴブリンの手には刃こぼれだらけの剣だ。

 振り下ろされ来られた剣をしっかりと瞳に捕らえ、リルはナイフでその剣をはじき返す。


「――っ!!」


 ハイゴブリンは剣をはじかれたことでその動きを止め、硬直してしまう。

 その隙を狙い、リルは首へと向けナイフを振りぬいた。


「……次!」


 血があふれ出てガクリと倒れるハイゴブリンに目もくれず、リルはその場から次の獲物へと目をつける。


「……え?」


 だが、その異変にリルは気がついていなかったのだ。

 ゲームをやりなれている人には当たり前でもあったからだ……。

 しかし、ベールはそれに気がついていた。

 そう、ゲームの中だというのに血が出ていたことに驚いた彼女はそれをじっと見つめてしまった。

 だから気がつく事が出来たのだ。


「リルちゃん、血! 剣に血がついて変な色になってる!!」

「……え?」


 油断。

 そう言って良いだろう。

 リルは慌てたようにその場から飛びのき後ろへと下がると同時にパキンッという音が響き、ナイフは粉々に砕けて行った。


「っ!?」


 一体なにが起きたのか? リルは慌てて壊れたナイフへと目を向けると……。

 最後のひとかけらが消える一瞬、その理由が分かったのだ。


「酸の血!? 武器攻撃じゃ不利って事!?」


 そう、このダンジョンのハイゴブリンは特殊なモンスターのようで、その血にはバッドステータスが付加されていたのだった。

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