16話 最初のダンジョンへ
洞窟に向けて歩く中、リルはぼんやりと考える。
それは隣に居る少女の事だ。
彼女のリアルスキル。
それは一部の男子たちが言い出した事だった。
曰く、彼女は異様に運が良いという事だ。
確かに友達からも彼女と一緒に出掛けたら限定10食のパフェが4人とも食べれたとか聞いたことがある。
だが、そんなのは稀にでもあるだろう。
しかし、試しに宝くじを買ってみさせたら見事に当たったという事だ。
ほかにも彼女に頼めばガチャで良いキャラが当たるとかいう話もある。
その上、可愛らしく性格は悪くない。
当たった宝くじは皆で山分けにし始めたという無欲さもあるらしい……。
「天は二物を与えないって何だろう……」
「何の話ですか?」
「あ、いや……なんでもない」
君のことだよ……。
そう言いたかったが変に刺激をするのもやめておいた方がいい。
そう思ってしまった。
何故なら彼女が一度嫌えば嫌われた人は不幸になるなんて言う話も聞いたことがあるからだ。
こちらに関しては例など聞いたことがなかった。
ただ、リルはそんな眉唾物の話さえ信じてしまいそうになるほどの事が起きたのだ。
先ほどはまさかと笑って見せたが、考えてみればそうだとしか思えない。
ユニーク装備。
確かに強力な装備であり”条件を満たせばドロップ権限”を得られる。
そう……彼女は少し気になったので街の探索中に調べてみたのだ。
そこには確かに権限と書かれていた。
確定じゃないのだ……。
だからこそ、運が良かったと喜んだのだが……。
『私のはドロップ条件が分からない上、多分一回限りのチャンスだと思うし、ベールのはそもそも最初の町付近に一点物がまだ残ってたことが奇跡すぎる』
ユニークとなればゲーマーなら喉から手が出るほど欲しい装備やスキルだ。
そして、このゲームでもそれは同じ。
いつか一つ手にいれられたら……。
そんな淡い期待はあった。
だが、初日でまさかのドロップだ。
「あ、あそこですか? あの洞窟!」
ダンジョンを見つけてはしゃぐ少女を見つつ、リルは考える。
もし、もしもだ……。
本当に彼女がリアルラック持ちだとしたら……。
『このダンジョンでも、何かあるはず』
「リルちゃん?」
「あ、ご、ごめん……多分そうだね、座標もあってるし」
リルは慌ててそう言うとダンジョンへと目を向ける。
単純な洞窟だ……。
だが、油断はできない。
何故なら従来のゲームと違いVRはリアルにできている。
「弓は使えない、か……」
暗い洞窟の中、ましてや狭い空間での射撃は無理があるだろう。
こういった点からも弓職は不遇と言われるのかもしれない。
そう思いながらリルは新しく買った短剣を確認し――。
「ベールもその杖の魔法は使わない方がいいよ、視線切れちゃうから」
「視線が切れる?」
「あー前が見えなくなっちゃうとか、そういう意味かな」
首を傾げる彼女に対し、リルはそう答えつつ……。
「さ、行こうか?」
共に洞窟の中へと足を踏み入れる。
「真っ暗ですね」
「まぁ、洞窟だし、VRはリアルだからね」
リルはそう言うとあらかじめ買っておいたランタンをストレージから出すとトントンっと叩いてみる。
すると明かりがつき……。
「わぁ、そんなアイテムもあるんだねー冬乃ちゃん」
「あのねぇ……」
先ほど危ないな、と思った直後の事でリルはがっくりと項垂れた。
「あ、ご、ごめんなさい」
「まぁ、周り居ないみたいだし良いよ……でも気を付けなよ? 下手なことすると特定してくる人とかいるし……」
「やっぱり、ふゆ……リルちゃんなの?」
謝ったとはいえ気になったのだろうおずおずと視線を向けられたリルは慌てて言い直す彼女に再び苦笑いをするのだった。




