14話 アバター
「ん~~!!」
買い物を終えてリルは伸びをする。
ベールはまだ来てはいないみたいだ。
「まぁ、朝の8時だし」
ご飯を食べたのは一時間前、まだまだ早い時間だ。
だが、早起きするのには理由があった。
「のんびり待ちながら町の探索かなー」
そう、新しいゲームの町を見て回りたかったのだ。
何より……。
「装備だよね!」
新しい防具は悪くはない見た目だろう。
だが、出来れば可愛い装備などがあればいいなぁと考えていた。
それも見た目を変えるだけの物であればなお良い。
そう思って服のマークの店へと飛び込んでみるのだが……。
「まぁ、最初の町だし?」
いい物はないだろう。
そう思いつつも中を物色してみる。
予想通り、いい物はない。
だが、ここに来た理由はもう一つあった。
「鏡、鏡っと!」
アバターの確認のためだ。
一体どんなアバターになっているのだろうか?
ウキウキしながら彼女は鏡を覗き込んでみる。
直後……。
「な、なん……」
固まってしまった。
どこからどう見ても自分なのだ。
どうしてこうなった……そう思うぐらいそっくりだった。
唯一違う点と言えばうさぎのような赤い瞳。
「お、おちつこう、いったん落ち着こう……」
リルは声を震わせながら、唱える。
「ここはVR世界、実際の私を知ってる人は――」
「その声……もしかして姉ちゃんか?」
いたよ……がっくりと項垂れるリルをよそに弟らしき声は笑い始めていた。
「マジかよ、噂で聞いたけど!!」
「何の話!!」
リルは振り返るとそこにはやけに太った姿のアバターがいるではないか……。
「何そのアバター!?」
「姉ちゃんのよりましだっての……つか本当にあるんだな本人そっくりのアバターって!!」
ゲラゲラと笑い始めた彼に対し、わなわなと震え始めたリルは――。
「変なアバターになるより100倍マシだっての!!」
リルはそう叫ぶとダンダンと音を立てながら店の外へと向かう。
いくら何でも、そっくりになるとは思わなかった。
だが、逆に言えば変なアバターになったわけではない。
容姿にはそれなりの自信はあったのだ。
「残念だったな、胸なくて!」
「うるさい!!」
このままセクハラで訴えてやろうか! そう思ったが、周りの視線が集まっていたことでリルは顔を赤くしその場から逃げるように去る。
最悪だ……暫くあの店付近には行けない。
そう思いながら思いっきり溜息をつくと――彼女は大通りに戻ってきていることに気がついた。
「……ここも人いっぱいいるからなぁ」
さっきの騒ぎを見た人が来るかもしれない。
リルはそそくさと移動をしようと足を速めるのだが……。
「あ! リルさん!」
聞き覚えのある声に振り向くとそこには昨日出会った少女ベールがいた。
今、ログインしてきたのだろうか?
まるで子犬のようにパタパタと走ってくると……。
「待っててくれたんですか?」
「あーいや、うん……たまたま通りかかっただけだよ、そもそもログイン時間は知らなかったし」
「あ、ごめんなさい、朝早く起きて宿題を終わらせたんです」
あはは、と笑いながらそう口にする少女を見て、そう言えば自分も宿題があったなぁ……と思い出したものの。
それは後で良いか、と考え――。
「そう? それじゃ、今は大丈夫?」
「はい!」
今は折角教えてもらったダンジョンに向かおうと彼女を連れ――歩き始めるのだった。




