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12話 世界樹の騎士

「よし!」


 冬乃は食事を終えた後に自室へと戻るとVRギアをかぶる。


「アスカレイドオンライン、起動!!」


 彼女がそう言うとゲームが起動し、昨日落ちた大通りの景色が見えてきた。

 視界がしっかりとした後、辺りを見回す。


「っと……あの子は……」


 ベールは入っているだろうか?

 そう思いログインを確認してみるが、彼女はどうやらまだ入ってないみたいだ。

 まぁ、まだ朝だし、仕方ないか……。

 リルはそう思い、武器でも見て見ようと店を探そうと歩き始めたところだ。


「昨日は派手にやったみたいねー」


 ころころと笑いながらリルへと近づいてくる女性がいた。

 大人っぽいアバターでエメラルドのような緑のどこか気の強そうな瞳に長い銀髪を一つにまとめ左からから垂らしている。

 髪型自体は選ぶことは後で可能だというのは聞いていたが……そんなことはどうでもいい。


「だ、だれ?」


 リルは思わず警戒する。

 しかし、彼女は「ふふふ」と笑うとー


「アタシよ、アタシ……カナリアって言えばわかるでしょ?」


 優し気な声で彼女は自らの名前を名乗り始めた。


「カナリア……ってカナさん!?」

「そうそう、また大きく出たものね、世界樹の騎士を超す! なんて……」


 困った妹を見つめる姉のような視線で彼女はリルを見つめてきた。

 しかし、リルは首を傾げる。


「あの、どうしたんですか? 声……」


 そう、彼女……は声が違ったのだ。

 かつてとはだいぶ違うその声にリルは当然戸惑ってしまう。


「手術、とか? でも声までは無理ですよね?」

「一応、出来ることはやってるけど遅かったしね……」


 困り果てている様子の彼女だが、その悩みは聞いていた。

 だからこそ、リルは納得が出来ないのだ。


「でも、探せばあるのよ? 女の子の声になる方法って」

「ボイチェンですか?」

「それじゃ機械っぽいでしょ? つまり、練習したの」


 あっけらかんと答える彼女にリルは固まった。

 それもそうだろう、彼女は確かに精神的には女性だ。

 しかし、その体は男であり、リルと出会った頃は高校生で低い声が印象的だった。


「えええええええ!?」


 ようやく戻ってきたリルは驚き思わず叫ぶが、カナリアという女性は微笑みながら、髪をかき上げる。


「そんなに驚く事かしら? それよりも宣戦布告して掲示板で噂になってるわよ?」

「ぅぅ、それは……」


 何となくだが予想は出来ていた。

 しかし、事実を突きつけられるとこまるものはある。


「それで、今の仲間はリルとあの女の子かしら?」

「そ、そうですけど……」


 リルは頷き答えるが彼女は少し寂しそうな表情を浮かべた。

 一体どうしたんだろうか?


「なんか他人行儀ねぇ……」

「だって、本当にカナさんか分からないですし……」

「こっちはリルを見つけて嬉しかったのに? 貴女だけがアタシの正体を知って、否定もせずに話を聞いてくれたのよ?」


 それは……と言いかけたところでリルは彼女にずいっと近づかれ言葉を失う。


「それは、いきなり言われて混乱したから……とか言うつもり? それはないわね、貴女は何度も悩みを聞いてくれたし、実際アタシを女の子として扱ってくれたのよ、それが嘘だとは思わないわ」

「そ、そうですけど……」


 嘘偽りのない悩みだと思ったからこそリルは否定することはできなかった。


「まぁ、そのお礼とは言えないかもしれないけど、どう? アタシなんて?」

「え……? だって、カナさんは――」


 世界樹の騎士のメンバーじゃないのか? そう思ったのだが、彼女は目を細め、腕を組む。

 やけに大きい胸が目立ちリルはむっとしてしまう。

 何故なら彼女は胸が小さいのだ……しかも、なぜかアバターでもほぼ同じぐらいなのだ。


「な、なんか怖い顔ね」

「ナンデモナイデス、カナさんは世界樹の騎士ですよね」

「アタシは無所属よ、どこもパッとしないし……”兄さん”のギルド一強ってのは面白くないじゃない?」


 それもそうだ、だからこそライバルギルドを作るといったのだ。


「アタシじゃ不足かしら?」

「そ、そんなことないです!」


 彼女は実際頼りになるのだ。

 それにリルもベールもまだ初心者。

 知らないことは多くある。

 早速聞きたいことがあったリルは口を訪ねてみようと考えるが――。


「何か聞きたいことがあるみたいだけど……その前に、その他人行儀な口調はやめて欲しいわね」

「あ、う……わ、分かったよカナさん」


 久しぶりに再会した仲間にようやくいつも通りの様子で話しかけられたことに満足したのだろう満面の笑みになった女性に対し、リルは先ほど尋ねようとしていたことを口にする。


「それで、ギルドを作るのってやっぱりクリスタルの勲章が必要なの?」

「ええ、そうよ……でも以前とは違って譲渡は出来ても売買不可になってるみたいなのよ、代わりにクエストで手に入るらしいけど……」


 難易度が高いんだろうなぁとリルは考え込む。

 そこでチラリとカナリアへと目を向けるが彼女は当然のように首を横に振るのだった。

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