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11話 現実へ

 世界樹の騎士。

 彼女がそれを口にした後、辺りはさらにざわめきだす。


『あれ? もしかしてやっちゃった?』


 リルもそんな彼らの様子を見てだらだらと汗が流れる気がした。

 いや、あの兄の事だやらかす可能性は十分ある。

 同名のギルドで神々の黄昏もやっていたのだから……。


「君は初心者だろう? なんでその名前を……」

「あーうん、まぁ……」


 いやぁーっと笑い始めたリルだったが、ぐらりと視界が揺れる。

 どうやら眠気が来たようだ……。


「だ、大丈夫ですか?」


 ふらついた際にベールに支えられ申し訳ないと思いつつも――。


「ごめん、限界なのでそろそろログアウトしますね」


 目の前の剣士にそう言うと今度はベールへと目を向ける。

 ログアウトというのは流石に理解したみたいだ。


「あ、じゃぁ私も……でも次も会えるんでしょうか?」

「大丈夫、それに明日土曜日だし、もし遊べるならまた遊ぼう?」


 そう彼女へと伝えると「おやすみ」と一言告げリルはログアウトする。

 鮮やかな風景が真っ暗になった所でVRギアを外すとそこはアスカレイドオンラインの世界ではなく現実だ。


「お風呂、入らなきゃ……」


 先に入っておけばよかったと思いつつも寝ぼけ眼で彼女はお風呂場へと向かうのだった。




「こら!! 冬乃!!」

「ん~?」


 もぞもぞと動く冬乃は眉をひそめながら丸まってしまう。

 すると声の主は大きなため息をつきながら――。


「なんて格好で寝てるの、しかもなんでまたここで寝てるの……」


 今度は冬乃の肩を揺すり始める。


「うー」


 それに対し、冬乃は抗議を示すかのように唸り声をあげる。


「お父さんや、秋也(しゅうや)に見られても知らないわよ」

「……!!」


 母のその言葉に冬乃は飛び起き、ようやく自身の格好に気がついた。


「な、なななな!?」


 かろうじて上着は着ていた。

 だが、ルームウェアのパンツは何処に行ったのだろうか?


「またゲームで夜更かししたの?」


 母は仕方のない子ねと言いたげだが冬乃は焦りつつ立ち上がろうとし――。

 足に引っ掛かっていたパンツのせいで盛大に転んでしまう。


「っぅ!?」

「……あのね、周りをもっとよくみなさい?」


 どうやら履く途中で寝落ちしてしまったみたいだ。

 しかし、今度は打ったオデコが痛くそれどころではなく……。


「凄い音したけど、やっぱ姉ちゃんか……」


 新しい声の主はぱたぱたとスリッパの音を立てながら彼女の前を通り過ぎ――。


「み、見るなぁ!?」


 冬乃は抗議するのだが……。

 弟は立ち止まると冷めた目で冬乃を見下ろし――。


「いや、そう言われても見慣れてるし何とも思わないっての……」

「はぁ!?」


 見られるのは勿論嫌ではあったが、たとえ弟でも男に何とも思わないと言われるのはそれはそれで納得できなかった。

 見た目が悪いとは思ってはいないし、寧ろまぁまぁと言って良いだろう。


「こ、この前告白だってされたんだからね!!」

「冬乃の現実知ったら幻滅するだろうな」


 冬乃の講義に対し、弟はそう言いキッチンへと向かっていく……。

 そんな彼に苛立ちが収まらない冬乃は立ち上がろうとし、やはり足をもつれされ再び転んでしまう。


「いったぁ……」

「良い加減した履きなさい!!」


 母に叱られ、顔を赤くしながら冬乃は小さな声で「はい」とだけ呟くとようやく身なりを整える。

 そんな様子には目もくれず、キッチンではジュゥゥゥという何かが焼ける音がし始めた。

 恐らく弟が料理をし始めたのだろう。


「あ、ごめんね秋也……朝ご飯作ってもらっちゃって……」

「いいよ、どうせ姉ちゃんがそこで寝てたから、作れなかったんだろ?」

「うぐ……」


 何も言い返せなくなってしまった冬乃は一人縮こまり――恨めしそうに弟を見る。

 すると――。


「へぇーそんな目で見てくるんなら姉ちゃんの分作らなくていいか?」

「そ、それは勘弁して?」


 冬乃は料理が作れないのだ……ここで弟が作ってくれなければパンを焼くことぐらいしかできない。

 これから宿題をやり、ゲームを再開する予定だというのにそれだけでは足りない。

 いや、それだけはない、家族みんながおいしそうなものを食べていて自分はパンだけなんて我慢が出来るはずがないのだ。


「ほ、ほら秋也、私も始めたでしょ? 手伝うからさ?」


 交換条件を出した姉に対し、呆れた様子の弟は――。


「初心者なのによく言うよ……まぁ、分かったよ、それで手をうってやる」

「あははは……」


 何とか食事はとれそうだと安心していると二人の乾いた視線に気がついた冬乃は再び縮こまってしまう。


「本当謎だよな……家じゃこうなのになんで運動音痴じゃないのか……」

「ゲームの中でもおかしな動きしてるわよね……どこで間違ったのかしら」

「あの、なんかごめん……」


 反論しようがない……冬乃はそう感じ、ただただ項垂れるのだった。

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