104話 購入希望者
翌日、リルは掲示板を見てため息をつく。
何故ならそこには昨日の事が書かれていたからだ。
「うわぁ……」
今は笛を使っていないから鷹は傍に居ない。
だが、リルはそれでも注目の的だった。
「テイムしたんだって……」
「実装されたって言ってもまだ3人しか持ってないってさ」
3人。
その人数にベールやクロネコも含まれているだろう。
ベールに至ってはまだ卵状態ではあるが……。
「し、視線が痛い」
ステータス上昇が無くても誰もが欲しいだろうペット。
それを早々に手に手にいれてしまったのだ。
妬まれても仕方がないだろう。
「…………」
リルがあたりを見回すとじっと彼女を見つめてくる人ばかりだ。
そのうちの一人の女性が……。
「あのさ、ペットを譲ってくれないかな?」
「え……」
彼女はウィンドウを操作し……リルの方へと見せてくる。
「金額はこれぐらいで」
それはこの前ベールが見せてきた金額以上だ。
これだけあればギルドホームなんて簡単に買えるだろう。
しかし――。
「む、無理です!」
リルはすぐに断る。
理由は単純だ。
「ギルドの仲間と一緒に手にいれたんで、譲れません」
ましてやペットだ。
所詮は電子データとはいえ、ペットはペットだ。
自分になついてくれる動物をはいそうですか、と渡す気にはならなかった。
「じゃぁ、これぐらい」
「……だから」
更にお金を積まれたがリルはため息をつき――。
「譲る気はありません、原石と交換すればいいじゃないですか」
そう口にする。
実際原石を使ったとして手に入るかは分からないのだが……。
それでも3人中3人は手に入ったのだ。
「原石?」
「オリハルコン原石です」
そう言うと彼女は眉を顰め――。
「はぁ? あの低ドロップアイテムを手にいれろって言うの!? 貴女が譲ればそれで終わりでしょ」
「……それだけお金があるんなら売ってる人から買えばいいじゃないですか」
なぜ自分にそこまでくれというのだろうか?
リルはいい加減しつこいと思いつつも冷静に言い返す。
すると――。
「私は鳥が好きなの」
「そうですか、でも……あの子は私のペットです」
名前も付けていない。
だが、それでもやはり仲間と一緒に迎え入れたペットを渡す気にはならなかった。
「たった一日でしょ?」
「じゃぁ、現実で犬を飼って翌日に売ってくれと隣の人が言ったら売るんですか?」
「売るわけないでしょ!? ゲームと現実は違うじゃない!」
「……同じですよ、本当に現実と違うならレッドとかそこまで嫌われることはないですよね?」
リルはそう答え、その場から去ろうと歩き始める。
当然のように前をふさぐ彼女を睨み――。
「たとえデータでも、私にとっては大事な子です」
最後にそう言い、その場から走り出した。
AGIが高い彼女に追いつける人間はそうそういない。
何故ならこのゲームでは大体が回避よりも耐えたほうが良いと考える者が多いからだ。
いや、VR全体と言ったほうが良いだろう。
いくらゲームのシステムにアシストがあったとしても現実の身体と離れすぎた身体能力を操りきれる人間がいないのだ。
だからこそ、逃げ切れるとリルは確信していた。
事実女性は追いつけずに途中で立ち止まり何か悪態をついているのが聞こえた。
だが、一度断ったというのに何度もしつこく迫ってきたのは彼女だ。
気にすることはないとリルはそのまま走り続けるのだった。




