100話 生産職の想い
「これどうしよう……」
リルはため息をつきながら件の装備を実体化させる。
見れば刃こぼれしているようにも見える。
「結構使い込んであるねー」
「武器って使い続けてると壊れたりするんですか?」
その武器を見てベールは首を傾げつつ尋ねる。
確かにそう言ったゲームもある。
しかし、このゲームでもそうなのか? と言われるとリルははっきりと答えられた。
「消耗して壊れるって事は無いよ」
「スキルによる破壊、バッドステータスによる破壊なんかはあるね」
それはベールも知っていることだ。
何故ならゴブリンの時そうだったからだ。
「多分元の持ち主は新しい装備を手にいれてるだろうし、盗んだやつは在庫処分できてラッキーって感じかな」
「だろうね」
はぁ、とため息をついたリルはベールへと目を向ける。
するとベールは心底残念そうではあったが……。
「それじゃ私達でこれをどうにかするしかないね……」
「シィにあげなよ、きっと喜ぶ」
「シィさんに?」
ベールは首を傾げたままだったが、リルは一瞬考えた後にハッとする。
何故それに気がつかなかったのか……。
そう思いつつ――。
「そうか、これも材料になるんだ」
「そういう事! まぁ、幸い良い武器じゃなかったんだし、持ち主見つからないならそれしかない」
彼女の言葉に頷いたリルは武器を持って早速奥へと向かう。
シィに渡すためだ。
「んー?」
気配に気がついたシィはリルの方へと目を向けると手に持っているクレイモアへと視線を動かす。
そして――。
「それは……トートの言ってた武器?」
「です……持ち主が見つからないし、良い物ではなかったので材料に使ってください」
そう言うとシィは武器を手に取り――。
「確かに……良い物ではないね……」
しかし、シィは首を横に振る。
「え……」
「これは受け取っておく……だけど私が自分で持ち主を探すよ」
なんで?
そう思ったリルは驚きのあまり声に出せなかった。
するとシィは少し笑い。
「これ多分最初に作った武器だよ……」
「最初の武器……それって……」
生産職になったばかりの人が作った武器。
それは思い出の品と言っても良いだろう。
だからこそ、その武器に込められた思いをただのデータだと材料にする気はなかったのだろう。
彼女の気持ちを理解したリルは――。
「分かった……だけど、誰かに襲われそうになったら絶対に教えて」
「勿論ー」
にへらと笑みを浮かべながら手をぶらぶらとさせたシィはそう答え、リルは不安になりつつもそれ以上は何も言わないことにした。
生産職には生産職にしか分からないことがあるのだ。
ただ、そんなリルにも一つだけしっかりとわかることがあった。
初めて作った物だからこそ材料に使いたくないというものだ。
銘が入っていないのも慣れていないからこそ、入れ忘れたのだろう。
そんな可能性だってある。
「それじゃその武器、お願いしますね。あとこれも」
リルはそう言うと昨日拾った原石以外のアイテムを渡し……。
それを受け取ったシィは少し笑みを浮かべて頷いた。
「うん!」
リルは彼女の返事を聞くとベールたちのいる店の方へと戻っていく。
「どうだった?」
クロネコはやけに時間がかかった事が気になったのだろう。
リルが戻るなりそう尋ねてくる。
「うん、実は――」
シィに言われた通り伝えるとクロネコは椅子に深く座り――。
「まぁ、シィがそうしたいなら……しかたないか」
「仕方なくないですよ! やっぱり初めて作った物って大事ですよ!」
ベールは笑みを浮かべながら少し強めにそう口にし……リルはこんな一面もあるんだなぁと彼女をじっと見つめ――。
「な、なに?」
「ううん……なんでもない」
そう言うと少し笑うのだった。




