9話 邪神のささやき
『WIN』
何ともシンプルではあったが、勝利を収めたことを知らせる表示にリルはほっとする。
そして、振り返るとキョトンとしている少女へと近づき――。
「さっきの魔法なに?」
「えっと、なんかすごい魔法です」
いや、それは分かってるから……。
そう頭の中でつぶやきながら彼女の持っている装備へと目を向ける。
恐らくそれがあの魔法の原因だろう。
「あ、この杖ですか? なんかいつの間にか持ってたんですよ!」
今度は屈託のない笑みを浮かべた少女にリルはクスリと笑う。
どこかで見たような気がしたからだ。
いや、実を言うと今日もその笑みを見ていた。
クラスメイトの少女だ……やけに運がよく、だがそれを本人は気にするそぶりもない。
それどころか近くに居る人たちも総じて運がよくなるというリアルチートの持ち主だった。
『髪の色黒くすれば、そっくり……もしかしてあの子が……いやいや、それはないか、ゲームやったことないって言ってたし、アバターが本人そっくりになるなんて聞いたこともないし』
リルは一人そんな事を思い浮かべていたのだが――。
「ひ、卑怯だ!!」
男の声が聞こえ再び深いため息をつく。
「なにが?」
リルたちが不正をしていないのは見ていた人たちが知っている。
だというのにこの期に及んで卑怯とは何だろうか?
「パリィとかトンデモ魔法とか……ありえないことをしやがって!」
「パリィはプレイヤースキルだし、魔法は装備の影響でしょ? それを卑怯って言われたらゲームはできないよ」
事実、リルもやめてきたゲームはあった。
そのプレイヤースキルが高すぎて不正を疑われることがあったからだ。
今回もそうなるのか……そんな事をぼんやりと考えていたら。
「君達の方が卑怯じゃないか?」
リルたちの前に現れたのは先ほどの剣士だ。
彼はやれやれと言った風に首を振ると――。
「君達の装備、物理カット70%の物だろう? それをどこで手にいれた?」
「はん! 買ったものに文句を言われたくはないね!!」
買ったもの。
確かにそうなんだろう……しかしカット70%とはかなり強力な装備だ。
『対して私の火力……どんだけなの』
あきれ果てるリルをよそに剣士は男たちへと指を突きつけ。
「初心者が買えるわけがない、恐らく相手に時間を与えておきながら、自分たちはギルドに加入、そこから装備を借り、決闘を申し込む、武器だって恐らくはヒューマンキラーのスキル付きだろう?」
「だったらなんだよ」
「彼女たちに最初から勝たせるつもりなんてなかった。その武器なら相手に掠ってしまえばそれで終わりだからだ」
それを聞きリルはぞっとした。
それもそうだろう。
スキル付きの武器がないとは思わなかったが、まさか相手がそんな恐ろしい物を装備していたとは思わなかったからだ。
「ああ? それが何が悪いんだ? そいつらが横殴りしたのがいけないんだろ」
話は平行線だ。
そう思っていたのだが……。
「さっきの話を聞く限りそうは思わない、それに君たちの入ったギルドは”邪神のささやき”だろ? ここに居る大抵のプレイヤーの敵だ……」
「プレイヤーがプレイヤーの敵なんですか?」
「うん、いわゆる悪い人たちの集まり、だよ」
質問に答えながらリルは面倒なのに絡まれてしまったなぁと考えつつ――。
剣士へと目を向ける。
堂々とした態度から彼はきっとトッププレイヤーなのだろう。
『もしかしたら兄さんを知ってる人かな?』
そんな彼の背を見ながらぼんやりと考えるのだった。




