魔剣
あれからどれくらい時が経っただろう。
「…ん、さっきのは、夢か?」
ポツリと呟いてしまった。
「夢なんかではないぞ。」
「え?」
後ろから話しかけられる。
ビックリして振り返るとそこには綺麗な格好をした女の子が立っていた。
「えっと、誰ですか?」
自分とは明らかに違う身分の格好をした女の子に驚きつつ聞いてみた。
「覚えてないのか?貴様は望みを我に願ったであろう?」
さっきのは夢ではなかったってことなのか?
剣を触った瞬間からおかしな幻を見て…
(あ、もしかして俺死んだ?)
出た答えがこれだった。
「ちなみに我らは一心同体となったのだから貴様の考えていることもわかってしまうが、貴様はバカなのか?
我がそのお主が触った魔剣じゃ。
信じられぬと言うならほれ、見ておれ。」
女の子はそう言い終わると光に包まれ、剣へと姿を変えた。
(我が言っていた意味がわかったか?)
(そして、覚えておるか?)
(貴様の望み)
(我を手に取り願え)
(望みを叶える知識がほしい、と)
俺は、思わず握ってしまった。
そして、その瞬間から世界が変わった。
いや、違う。世界が変わったんじゃない。
変わったのは俺だ。
この世界の在り方。特権階級、王族、貴族、平民、穢人。
今まで当たり前だったことが当たり前ではないこと。
家、食べ物、生活。
「これは?」
(我が知識を共有してやった)
(貴様の願い)
(腹いっぱい飯が食いたいのであろう?)
(これでどうやったらいいかわかったであろう?)
(我にはそれをする力もあるぞ?)
俺は穢人。
特権階級によって作られた存在。
名前を与えず、家を与えず、仕事を与えず、飯を与えず、知識を与えず。
平民でいることにしあわせを感じさせずためだけの存在。
人であり人ではない存在。
「俺は、腹いっぱい飯が食いたい。」
(知っておる)
「俺は、家に住んでみたい。」
(知っておる)
「俺は今までなにも知らなかった。」
(だが今すべてを知った)
「俺は望むものすべてが欲しい。」
(それを叶える力と知識を我は与えた)
「まずは、仲間を解放する。」