おお、ゆうしゃよ。いりょうほけんにはいらず、ぼうけんにでるとは、なにごとだ!
冒険に出る前には下準備をきちんとしてから行きましょう。
ここは悪の大魔王ドージュリアの城。ついに勇者が魔王と対峙しているところである。
「来るが良い!剣聖オーベルニュの血を引く伝説の勇者よ!」
「お前は絶対に倒す!食らえ!真・奥義、覇王霊山剣!」
伝説の聖剣の切れ味は凄まじい。受け止めた魔王をオリハルコンの杖ごと一刀両断した。
「ぐ、ぐおぉ・・・。見事だ勇者よ」
「悪は倒した。城の財宝はもらっていくぞ」
「我を倒したのだからな。す、好きにするがいい・・・」
3日後。財宝を持ち出す馬車の行列が魔王の城の前で行列を作っていた。
「魔王を退治していただいてありがとうございます勇者様」
「これで国民も安心して暮らせます」
馬車に財宝を積み込んでいる人夫が思わずつぶやいた。
「ああ、これだけあれば一生遊んで暮らせるなぁ。勇者様が羨ましいよ」
と人夫が言うと
「君、勘違いしていないか?こんなに大苦労しても俺の懐には一文も入らないぞ」
と勇者が答えた。
「じゃあ、このお宝は誰の物なのですか?」
「俺を治療した村の医者の総取りだ」
「どういうことですか?」
「俺がレベル1の時にな、金をケチって生命保険と傷病保険に入らずに冒険に出てしまったんだ。そしたら最初の敵が全長5メートル、重さ1トンの大スライムでな。銅の剣で切っても効かない上に怒らせて押しつぶされたんだ。医者の診断は左手と両足複雑骨折、肋骨が3本折れた。全治半年。その間の治療費、入院費、看護費用は全額自己負担。なにせ骨が折れたときはこのケガが治るなら全財産差し出してもいいと思える位痛かった」
「賢いのは冒険に出ない医者ですか」
「悪どい医者だよ。治療の前に治してほしければ『ケガを治療していただけたら、魔王の城の財宝は全部あなたに差し出します』と書類にサインしないと手術を始めなかったんだから。残った右手でようやくサインしたよ」
苦労せずに魔王を退治できる上に、城の財宝は全部独り占め。
勇敢も大事だが、もっと大事なのは賢さ。