神眼
イノシシに追いかけられて絶え絶えだった息も整ってきた頃、ふとあることを思い出した。
ウリ坊と出会う前に気になった《ステータス》のあるひとつの項目についてだ。
そして俺は《ステータスウィンドウ》を起動し、その項目に目を向けた。
固有スキル<神眼>
この世のあらゆるものを視ることのできる神の眼。
『診る』ことで、そのものが持つ能力を見抜くことができ、擬態をも見破ることができる。
相手の《ステータス》を『視る』ことができると同時に、相手の能力値を自分に上乗せすることが可能である。上乗せできる能力値は『視る』時間と比例し、上限は相手の能力値の最大値とする。
視界にあるものの数秒先の未来を『視る』ことができる。ただし、視界に入っていないものには適応しない。
相手の視界を自分と共有することができる。
と、なにやらいろいろと書いてあった。
『固有スキル』というのは、ただの『スキル』とはなにが違うのだろうか……なにやら特別な感じはするが。
そんな事を考えていると、小さなウィンドウが表示された。
『固有スキル』…その人物が個人で保有するスキル。唯一無二であり、他人には習得する事はできない。
なるほど、個性のような物か……みんな違ってみんないいの素晴らしい日本人的精神だ。
だが魅力的であると同時に、唯一無二のスキルであるがため、他人にスキルの使い方が聞けないという事になる。つまりは、自分で試行錯誤しながら効率のよい使い道を模索していく必要があるという事だ。
固定スキルが生まれつき発現するものだと考えると、俺は現段階では赤ん坊くらいのスキル熟年度しかないという事になる。対人戦を考えると間違いなく遅れを取るな……どう考えてもそれはマズイ。あんなバケモノがウロウロしているような世界だ、どうせ人間も生き残るためにバケモノ以上の強さになっているに違いない。
「う~む、とりあえず試せるだけ試してみるか」
そう思い、<神眼>にある効果をひとつひとつ試してみることにした。正直、俺も特殊能力とかに少なからず興味があるしな、少年の頃のひとつの夢ロマンだ。
まず1つ目、『診た』ものの持つ能力を見抜くことができるというものだ。
これは《アイテムポーチ》にしまった時に出てきた説明文とは違うのだろうか。
《アイテムポーチ》にしまえないような大きな物の能力とか診る(・・)事ができるのか? そもそも、《アイテムポーチ》も何ができて何ができないのかも把握しきれてないんだよな。
やる事がいっぱい過ぎて嫌になりそうだ。こんなことならあのジジイにもっといろいろ聞いとくべきだったか。
「はぁ……とにかく、この<神眼>の能力の検証を最初に済ますとするか」
そうぼやきつつも俺は、もたれかかっている木を見上げて<神眼>を使おうと意識を集中させた。
すると視界がうっすらと黄色に染まり、ひとつのウィンドウが出現した。どうやらこの世界の大抵の事は、念じればどうにかなるようだ。
《呪木じゅもく》(食物種)
負のオーラを多く吸収し育った樹木。酸素の代わりに常に呪気を放っている。その呪気を浴びた生物は運気が下がると云われている。
「……ッスーーー、はい?」
いやいやいや、なにこれ? どこからどう見ても普通の木にしか見えないだが!?
幾多の不思議な植物がある中でこの《呪木》
「とはいったものの……<神眼>で試せる事は無くなったんだよな」
というのも、そもそも<神眼>は対人用の『固有スキル』のようだし……。
今できる事といったら、《アイテムポーチ》の検証くらいか。
《アイテムポーチ》は見たところ容量は存在しておらず、個数ではなくアイテムの種類毎に分類されていた。
取り出しに関しては念じれば出てくる。これは《アイテムポーチ》のウィンドウを開いていない状態であっても、取り出したい物のイメージさえあればいつでも取り出せるようだ。
これはこの世界に住んでいる人間が全員持っている能力なのか、それとも俺だけの能力なのか?
一人で検証しているにも関わらず、だんだんと人が恋しくなってきたな……。
マイナスな気持ちを頬を叩いて頭の中から追い出して、検証を続行する。
アイテムをひとつ取り出して少し離れていた所に向かって放り投げ、それに向けて手をかざして意識を集中させる。するとアイテムが青白い光となって消え、《アイテムポーチ》の中へと入った。
距離的に言えばだいたい2、3メートルといったところだろうか。その範囲内で俺が手で持てる物なら収納ができるようだ。
それと同様に取り出しの際も、その範囲内であればどこにでもアイテムを出現させる事ができるようだ。
次はそこら辺に転がっている石ころを拾い上げ、意識を集中させる……しかし、何も起こらなかった。
この事から分かるのは、《アイテムポーチ》にはアイテム名がある物しか収納できないという事だ。
基本的に素材系のアイテムを収納する為の機能なのかもしれないな。
しかし、例外があるようだ。
俺の衣類のように誰かが所有している物であれば、アイテム名に「〇〇(個人名)の〜」という表記になるようだ。
「ふぅ……とりあえずこんなもんか〜」
試せる事はあらかた試せた……と思う。
まだこの世界の常識とかを理解できていない中で、全ての性能を理解したとは言えないが……今の段階ではこのくらいでいいだろう。
「どうしましょうかね、これから・・・・・・」
とは言ったものの、今できる事はひとつしかないんだよな。それに《呪木》の近くから早く離れたいし、何より人に早く会いたいんだよな。
そう思い、またなんとなく足を進めるのだった。
遥か昔ーー。
世界を大きく二つに分断する戦争が繰り広げられていた。
魔王を筆頭とする魔族の軍勢と同盟により結ばれた人類との戦争。
戦力は拮抗し、その戦いは永遠に続くかと思われた。
だが、その戦いは突如として終わりを告げた。
ーーガサガサッ!
俺が最悪の事態に薄々勘づいている中、近くの茂みであからさまに何かが居る様な物音がした。
反射的に物音のした方向に構えたと同時に、俺の目の前に立ち塞がるモノ(・・)を見て、頬を冷や汗が伝った。
「予想的中……って言った方がいいのか? いや、また予想以上だな」
目の前には狼がいたのだ。
しかも超デカい。体長は10メートル程もあり、黒色の体毛に真っ赤な眼光が見える。
身の毛もよだつ程の威圧感を感じる。生半可な気持ちでいたならば、チビってしまうくらいだ。
「逃がしては……もらえなさそうだな」
赤く不気味な光を放っているその眼は、しっかりと俺を見据え、ヨダレをダラダラと流していた。
完全に獲物を狩る捕食者って感じだ。
そんな感情を向けられたのは初めてで、珍しく緊張していたが、予めモンスターが出てきた時にやる事を決めておいたので、それを落ち着いて実行に移す。
まず引いている右足をゆっくりと、そして大きく前に一歩踏み出す。それに加えて構えも逆向きになるが、それは割愛。
問題は相手の出方だ。大狼は俺の動きに連動して一歩後ずさった。
同じように、今度は出した足を一歩引いて元の体制へと戻した。
すると大狼は、一歩程距離を詰めてきた。
……中々賢いな。
相手の力量が不明な時は、適度な距離を保ちつつ相手の出方を伺うのが鉄則だという事をあの大狼は理解していた。
つまりは、今すぐは襲って来ないという証明になりうる。
ここまでが第一ステップ。次の段階はーー。
そう思い、未だにこちらを睨み続けている大狼に向けて<神眼>を発動させた。
種族:《希少種》ベアウルフ
属性:火
レベル:120
攻撃:3450 防御:2900 魔力:500
魔攻撃:2000 魔防御:1800
敏捷:5400 力:2300 魅力:150
運:0
状態:なし
スキル:神速/フレアドライブ/爆炎陣/咆哮/索敵
魔法:火属性魔法«中級»
……強すぎるだろ。
レベルが天と地程の差がある。ウリ坊のように上手くはいかなそうだ……どうするか。
「ッスーーー……ふぅ〜」
やるしかないか。
どのみち、やらなきゃただの餌になって喰い荒らされるだけだ。そんなもん、嫌に決まってるじゃねぇか。
「元吉崎組次期当主、吉崎蒼唯! なめんなよぉ〜犬っころ!」
「ガルルルル……」
生死を分ける戦い……燃えるねぇ、こりゃ。