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異世界チートで友達づくり  作者: マカダミア
3/6

異世界へ

 俺はまたも思考が停止し、頭の中が真っ白になっていた。

 トラックに撥ねられて死んだと思ったら無傷で見たことのない空間にいて、変な格好したジジイがいきなり「わしは神じゃ」とカミングアウトし出す始末。誰であろうと今の俺の立場なら困惑するに決まっている。

 だがこのジジイの自称神発言には、妙な信憑性があったのだ。なぜなら俺は自分が死んだ事を自覚していたからだ。死んでから会うものといえば、神様や仏様、閻魔様とかその辺だ。自分の死後の姿を見た俺からしてみれば、あながち信じられんでもない。

 「・・・・・・本当に神様なのか?」

 しばらく間を開けてから再度確認を取るように質問するとジジイは「そうじゃ」と頷いて返した。


 まぁこのジジイが神様っていうのは信じてやらんでもないが、ひとつだけどうにも気になる事があったのだ。それはーーー

 「じゃあその頭の上にあるのは?」

 この光輪らしきものだ。明らかに後頭部から針金のようなものが伸びているのだ。信じたくても、信じられなかった。

 「あ〜これ? これは〜、なんというか・・・・・・か、神様の証みたいなやつじゃよ」

 なんか歯切れが悪いな。よし、試してみるか。

 そう思って俺は警戒を解いてジジイの方へゆっくり歩いて行った。

 「な、なんじゃ・・・・・・?」

 戸惑うジジイを無視して俺は頭上にある光輪らしきものを鷲掴み、腰を使って体全体で巻き込むように全力で光輪を引きちぎった。

 しばらくの沈黙が流れる。時間にして1分くらいだろうか。その間、驚愕のあまり顎をしまうのを忘れているジジイを俺は、ニヤニヤと不気味な笑顔をつくったまま観察していた。こうゆう人の驚愕した顔って面白いから何時間でも見てられるよな。

 「な・・・・・・なん、じゃと!?」

 「証が取れたようですが? 神様」


 それからまたしばらくして、ジジイが正気を取り戻した。

 「そ、そうじゃ! 光輪は〜、違ったかのぉ〜・・・・・・た、確かこのローブじゃったな〜」

 明らかに怪しい。しかしひとつのことばかり追求していたら、話が全くもって進まないので渋々納得してやった。

 ため息をひとつ吐き腕を組んで話を進めた。

 「で、神様とやら? 死んで尚、黄泉の国に行かせてくれないとはどういうことですか? 俺に成仏するなってか? 嫌がらせですか〜、コンニャロ〜?」

 「成仏をするしないの問題じゃないんじゃよ。そもそも今のお主には到底できん」

 「成仏できないってどうゆうことだよ」

 「まぁ今から全て説明してあげるから待ちなさい」

 そう言ってジジイはコホンと咳払いを1回してから順を追ってひとつひとつ説明した。


 ◆ ◇ ◆


 「まず人間は『人間の三大欲求』と呼ばれるほどに、実に欲深い生物なんじゃよ。その他にも『二大欲求』や『八大欲求』というものもあるんじゃよ。そんな欲の絶えない人間が死ぬと何が残ると思う?」

 「・・・・・・心残り、とかか?」

 「そう、いわゆる『未練』というやつじゃな。その未練が強すぎる者は成仏できずに霊体として現世に残り続ける」

 「その事はなんとなくわかる」

 死んだ人間が幽霊になって化けてでるのは小さい頃から見てきたからわかる。そういった心霊ものを観るのは避けてたけどな・・・・・・。

 「まぁお主も薄々分かってはおるのじゃろうが、お主には現世への未練があるんじゃよ」

 「俺の・・・・・・未練?」

 「死んでも叶えたいと思った望みはないか?」

 そう言われて、顎に手を添え自分に問いかけた。死んでも叶えたい望み、これだけは叶えたいと思った夢、絶対に成し遂げたかった願い。

 「あっ」

 考えてたどり着いた答え、いや、考える必要すらなかった事が、たったひとつだけあったのだ。それは、

 「と、友達が欲しい・・・・・・とか?」

 「うむ・・・・・・プふッ」

 「わ、笑うなぁぁぁあああ!」

 くそぉ、17歳で友達0人ってそんなに、いやおかしいか。うん、やめよう。自分で言ってて泣きたくなってきた。あまりにびっくりしたから目から冷や汗が垂れてきやがったぜ・・・・・・畜生!


 「じゃがのぅ、お主の未練は少し特殊なんじゃよ」

 「特殊? そりゃあ、17年間友達いねぇやつは特殊以外の何者でもねぇよ、下手すりゃオンリーワンだよ、ニュータイプだよ? なめんじゃねぇぞ、コラァ?」

 「割り切って変なテンションになっておるぞ。まぁ確かに、お主は唯一無二の存在に近い。17年間普通に生きてきても友人ができないのはある意味奇跡の産物じゃ」

 このジジイやけに傷口に塩塗り込んできやがる。

 「じゃがそんな産物だからこその、デメリットというのも存在する」

 「デメリット?」

 予想外の単語に思わず聞き返していた。その言葉に対してジジイはゆっくり頷いてから、俺の疑問に答えるように話を続けた。

 「普通の人間の未練というものは霊媒師に成仏させてもらうか、現世に留まり、生者にとりついて未練以上の幸福感をあじわう事で絶たれる」

 生前は霊媒師だの除霊師だのを全く信じていなかったんだが、あの人達ってちゃんと仕事してたんだな。正直詐欺師と同じような認識だった。

 「じゃがお主のその未練は17年間ほぼ毎日のように望んでいたものじゃ。当然、莫大な量の執着心を含んでおるはずじゃ」

 言われてみれば確かに、毎日のように友達を作る方法を模索していたような……でも全部失敗に終わったけどな!

 「このまま現世に送り込めば何千年何万年、もしくはそれ以上の間成仏はできん」

 「マジかよ」

 「長い間、『友達を求める幽霊』として語り継がれるのは嫌じゃろ?」

 「ぐぬぅ・・・・・・」

 確かに、心霊番組の特集とかで「友達ができず無念に亡くなった可哀想な青年の霊」という風に報道されるだろう。つまり俺の友達いない歴=年齢の黒歴史が全国に発信されるということになる。それだけは絶対に避けなければならない!

 「ど、どうにかできねぇんか?」

 「ひとつだけ方法はある」

 「ほんとか、どんな方法だ!?」

 ジジイのその言葉はまるで、砂漠を何日もさまよった末やっとの思いでたどり着いたオアシスのように希望に満ち溢れていた。あぁ神よ。

 「簡単な話じゃ、お主をーーー」

 ジジイがそう言うと、俺は自然に生唾を呑んだ。頬を汗がつたるのがわかった。

 「お主を異世界へ転生させる」

 「・・・・・・は?」

 それから、またも静寂が空間を支配したのだった。


 ◆ ◇ ◆


 あれから俺はジジイに詳しく説明してもらった。

 ジジイが言うには、未練が残っている人間を記憶を残したまま転生される事で、その未練を自分で吹っ切れて効率がいいらしい。異世界に送る理由は簡単な話で、同じ世界線に送ることができないらしいのだ。なるほど、人間の支配者側の神でもいろいろ考えてるんだな。

 「まぁそのまま転生しても前世と同じ運命を辿る可能性があるからのぅ、異世界へ転生する際の望みを叶えてやろう」

 「転生する際の望み?」

 「そうじゃ、普通に考えれば未練を断つのに必要なものじゃな」

 俺の未練を断つために必要なもの、か。友達がどうやってつくったらいいから分からなかったから、何が必要とかはよく分からんな。こういう時は逆に考えてみるのがいいんだよな。友達をつくる時に邪魔なもの。

 「・・・・・・おいジジイ、俺の容姿とかは変えられるのか?」

 ひとつだけ思い当たる事があった。17年間もの間、俺を苦しめてきたコンプレックス。それは、

 「性別等の大きな変更でなければ可能じゃが、具体的に指定すれば変えられるぞ」

 「そうか、なら・・・・・・俺の目付きを良くしてくれ」

 異世界に転生することで必然的に『吉崎組』を知っている人はいなくなる。しかし俺のこの目付きがある限り近寄り難い印象は消えないのだ。親父から受け継いだ目付きだけど仕方ない・・・・・・友達をつくるためだ、許せ親父。

 「本当にそれでいいんじゃな?」

 「あぁ、問題ない」

 「そうか。じゃが、そうなるとひとつやっておかなきゃいけない事があるんじゃ」

 「やっておかなきゃいけないこと?」

 そしてジジイは一度頷いてから詳しい説明をしてくれた。


 「お主ら人間には組み込める遺伝子情報の数が決まっておるんじゃよ」

 「どういうことだよ」

 「簡単にはゲームの装備欄のようなものじゃな。人間のひとつひとつの部位(パーツ)に決まった分の空きストックがあるんじゃよ」

 なるほど、俺の『目付きの悪さ』の遺伝子情報が消えるからその空きを埋めなくちゃいけないってことか。こう考えると人間って奥深いな。

 「まぁ急に言われても分からんと思うからの、こっちで必要なものは入れておくとするかのぅ」

 「お、おう。助かる」

 正直何を入れたらいいとかそういう事はすぐには思いつかなかったので有難い助け舟だ。


 「よし、説明としてはこんなもんじゃろ」

 「もういいのか? 俺としてはまだ不安が消えないんだが・・・・・・今から行く世界の常識とか」

 「まぁどうせ今この場で言っても分からんじゃろ、それは自分で体験して徐々に覚えていった方がいいじゃろ」

 なるほど、言語を学ぶならその土地に行った方が効率的ってことか。まぁ言語とかの少々のズレはジジイがなんとかするって言ってたし大丈夫か。

 「では、お主を異世界へおくるぞ」

 「・・・・・・(ゴクリ)」

 俺は生唾を呑んで少し身構えた。身震いをし全身の筋肉に妙に力が入る、すぐにこれが緊張だと分かった。だが同時に体中に流れるワクワク感が抑えきれなくなり、頬が緩む。

 とても懐かしい感覚だった。小さい頃の武道の大会前と似たような感覚。応援する沢山の観客に緊張し、今までの自分の鍛え上げた実力を発揮できるというワクワク感が織り交ざった感情・・・・・・心地いい。思えばこの感覚が癖になったから稽古で手を抜く事が無くなった気がする。

 そう思っている間に視界はみるみるうちに光で埋め尽くされていった。俺はそのまま静かに目を閉じた。



 青年を異世界へ送り届けてその場に1人残った老人が、青年の引きちぎった光輪を手に取る。

 「・・・・・・まさか神具を素手で奪い取るとは」

 そう言って老人は、1人頬を緩めた。

 「彼ならば止めてくれるかもしれんな・・・・・・」

 遥か昔に犯し、今はもう、手を打てなくなってしまったかつての過ちを・・・・・・。

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