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異世界チートで友達づくり  作者: マカダミア
2/6

吉崎蒼唯という男

 俺の名前は吉﨑蒼唯。いたって普通の、ではなく、割と特殊な高校2年生だ。

 ひと言で特殊といっても、よくある漫画のような異能の力を持っているわけでも、ましてや学園の人気者でハーレム体質というわけでもない。

 俺は・・・・・・というか俺の親父は、この日本国で知らない人はいないほど有名な極道一家の当主であり、俺はそこのひとり息子、つまりは次期当主なのだ。

 そんないらん肩書きのせいで、俺には最大の悩みがあった。


 ーーー友達ができない!


 うちの『吉﨑組』が無駄に有名なだけあって、俺の名前も次期当主として、当然のように世に広まっていた。

 そんな日本一の極道の次期当主とふざけあえる関係になろうなどと思えるような肝の据わった輩は、俺の近くにはいなかったようだ。

 それに加えて、俺の目つきは親父のが遺伝して生まれつき悪かったのも、友達ができない原因のひとつだったのだろう。

小学生の時ならみんな『吉﨑組』の名前も知らないだろうと思われるかもしれない。だが、全校児童の親達は、『吉﨑組』とのトラブルを防ぐため、純粋無垢な子ども達に「関わっちゃいけない」と教え込ませていたようだ。

 このことは、クラスメートの陰口で知った。どうやら俺と関わると鬼が(さら)いに来るらしい・・・・・・。

 高学年になるにつれ、俺の一家の名前を知り、親の教育がなくても自然と話しかけなくなる。

 中学生の頃には、話しかけてくれる人はだれひとりとしていなかった・・・・・・。

 そんなこんなで俺は、生まれてこのかた16年・・・・・・一度も友達ができたことがないのだ。

 高校生になり、毎日のようにクラスの人や廊下ですれ違う人に声をかけてみたが、みんなそろって財布を置いて謝りながら逃げて行った。おかげ様で、交番の人に「また蒼唯君ですか、いつもありがとうございますね」と当然のように敬語でそんなことを言われる日々を送っていた。


 俺のお袋は2年程前に他界していた。病死だった。

 お袋は人柄が良く、誰に対しても優しく平等に接していた。ついでにいうなら、目つきはキリッとしていたが、決して悪くはなかった。どうせならお袋の方のが遺伝してほしかったと思うくらいだ。


 俺は次期当主として、小さい頃から様々な習い事をしてきた。

 空手、柔道、剣道、日本拳法、合気道。どれも全国で通用するくらいまでは鍛えていた。その他に書道や華道、茶道なんかもひと通り習った。いわゆる『英才教育』というやつだ。

 そのためか、大人が喧嘩相手であってもそうそう負けることはなかった。

 どうして高校生の俺が大人相手に通用するのか分かるかって? たまに柄の悪い大人達とやり合わなきゃいけないからだよ!

 親父の仕事の手伝いでたまに借金の取り立てに同行したりしていた。素直に返す方が稀で、ほとんどの滞納者が親父に敵意を向けてきた。

 そんな自分の意思で借りたのに、恩を仇で返すような輩を俺が親父の代わりに相手したりしていたのだ。


 ーーーあの日もいつものように、親父の仕事に同行していた。


 ◆ ◇ ◆


 「おい親父~、いつまでこんな事しなきゃいけねぇんだよ~」

 滞納者の家に向かいながら、隣を歩く親父(吉﨑源磨(よしざきげんま))にそんなことを言った。

 親父は『吉﨑組』の現当主だ。五十代後半で、一部白髪がかった髪をオールバックに整えていた。年中着ている袴と鋭い目つきによって、そんじょそこらの子どもなら一瞬で泣き出してしまうくらいの雰囲気が感じ取れる。

 「何を言うか。お前は吉﨑組の次期当主なのだぞ」

 「だから~、俺継ぐ気ないって言ってるだろ」

 親父は俺のことを次期当主にふさわしい人間であると完全に認めていた。そのことは息子として大変喜ばしい事なのだが、俺は極道にこれっぽっちも興味がないのだ。むしろ、極道のせいで友達ができないのだから、どっちかっていうと嫌いだった。

 「お前にはしっかりとワシの後を継いでもらわんと困る。何がそこまで気にいらんのじゃ」

 「それは・・・・・・友達ができないんだよ」

 だんだん小さくなる俺の声に、親父は眉をひそめた。

 「何? まだ友達すらできんのか。ワシがお前くらいの歳の時には他校にも友はたくさんいたものだ」

 「え!? 親父友達いたのかよ」

 親父の何気ない言葉に驚愕を隠せなかった。

 聞いた話によると、確か親父は吉﨑組第三代目当主。吉﨑組が世間に認知され始めたのは二代目、つまり俺のじいちゃんの代からだと聞かされた。つまり、親父が子どもの頃から吉﨑組が有名だったということになる。

 そんな俺と同じような状態で、友達がたくさんいたというのは信じられなかった。俺が必死こいて友達をつくろうとしていたのにだ! 許せん・・・・・・それが本当なら、つくり方を洗いざらい吐いてもらわんと気が済まない。

 「いたに決まっておろう。同じクラスだった奴は休み時間になるたびに売店からパンとジュースを買ってきたわい。毎度毎度持ってくるからうっとうしくなって『毎度毎度うっとうしい』と言ったら大げさに土下座までしてきたのを覚えておるのぅ」

 「・・・・・・」

 「ん? どうした蒼唯。急に黙り込んで」

 「・・・・・・親父、それ・・・・・・友達じゃなくて、舎弟だよ」

 そんな会話をしながら、目的の家へ向かった。


 しばらく歩いていると、小さな公園の前を通りすぎた。

 さほど広い公園ではなかったが、休日ということもあって、数人の子ども達がボール遊びをしていた。

 いつの世もこのような光景は微笑ましいものだ。俺は外見に見合わず子供が好きだ。自分でも育ててみたいと思うが、友達すらできない俺では恋人すら夢のまた夢であると半ば諦めている。

 子守をしようにも、俺の顔では怖がられるのがオチなのだ。

 そんなことをダラダラ考えていると、その公園から小学生くらいの少年がボールを追って道に飛び出てきた。

 「危ない!」

 一瞬ヒヤッとして声を荒げてしまったが、道路に出る手前で少年がボールに追いついたので内心ホッとした。

 だが、今の行動は注意しておかねばな。

 そう思い、ボールをお腹に抱えた少年の目線に合わせるためしゃがみ込んだ。自分がやったことに気づいたのか、俺に向かって「ごめんなさい」素直にと頭を下げた。

 「次からは気をつけるんだよ?」

 と優しく頭を撫でてやった。いくら極道でも、素直に謝っている子どもに怒鳴りつける気概は持ち合わせてはいない。

 ちょうどその時だった。


 ーーープゥゥゥウウウ!


 車のクラクションがここら一帯に鳴り響いた。

 ハッと顔を上げると車が猛スピードでこちらに迫ってきていた。目に入ったのは居眠りをしている運転手だった。親父は離れていたが、俺と少年はこのままいったら直撃してしまう。

 「親父ぃ! 受けとれぇ!」

 咄嗟に俺は目の前の少年を後方の親父へと思いっきり投げた。

 幼い頃からいろいろな武道の英才教育を受けてきたためか、こういった咄嗟の判断には長けていた。それが幸いして男の子をいち早く安全な場所に避難させることができた。両親に感謝だな。

 しかし、いくら英才教育を受けたからといっても俺もひとりの人間だ。はやく動くにも限界があった。

 俺も避難しようと思った時には既に、トラックは目の前まで迫ってきていた。


 ーーードォンッ!


 鈍い衝撃音と共に俺の体は宙を舞った。

 痛みはほとんどなく体が宙にあるという感覚だけがある不思議な感覚で、何故か妙な眠気におそわれた。

 「あおいぃぃぃいいい!」

 薄れゆく意識の中で親父の激情に歪む顔を最後に、俺は深い眠りについた。


 ◆ ◇ ◆


 俺は困惑していた。

 俺は少年を助けると同時にトラックに盛大にはねられて死んだ。と思っていたが、まだ俺にはハッキリとした意識があったのだ。困惑もする。

 どうして死んだか分かるかって? それは俺がはねられた後、幽体離脱的なことになって自分の変わり果てた姿を見てしまったからだよ。ありとあらゆる関節があらぬ方向に曲がり、身体中の●●が●●して・・・・・・って、思い出しただけで背筋が凍る。

 まぁとりあえず落ち着こう。人間落ち着いていればなんでもできるんだ。合気道の師範代も毎日のように言っていた言葉だ。

 まず今俺のいる場所だ。見たことも無い、見渡す限り真っ白な空間だ。空間といっても壁は一切見えない不思議な場所だ。

 次に俺の体。最後の記憶にある俺の身体とは違って、傷ひとつないThe健康体という身体のままだった。


 さて、今の俺の状態から考えられる結論はーー。

 「おぉ、目が覚めたか」

 「ッッ・・・・・・!?」

 俺が思考の海に沈みかけたところを引っ張り出したのは、後方からかけられたひと声だった。

 その声を聞いた瞬間、ほぼ条件反射のように右足で円を描きながら半周引き、腰を半分落とす。左手に掌底、右手に拳をつくり脇に引きつけた。左手は縦にし間合いに突き出し相手を見据える。伝統空手の構えのひとつである。

 見据えた先に立っていたのは変な格好をした1人の老人だった。身長は俺の半分くらいで、全身白と青のローブに身を包み、俺の目線位まである木製の杖を着いていた。頭上には光輪があった。目を凝らせば針金のようなものと繋がっているが・・・・・・。そして口を覆い隠すほどの白い髭を持ち、笑っているような仏顔、第一印象は心優しいおじいちゃんといった感じだった。

 「じいさん、あんた何もんだ?」

 だが俺は、決して警戒心を緩めずに淡々と質問した。「見た目に騙されるな」って合気の師範代の言葉だっけか。


 「そこまで警戒するでない」

 「・・・・・・」

 俺の警戒を華麗にスルーして、なにひとつ表情を変えることなく言ったが、俺は決して警戒を解く気はなかった。

 その後のしばらくの沈黙の末、じいさんがふぅとひとつ吐息を吐いて続けた。

 「まったく、なんという覇気じゃ・・・・・・これで17歳とは信じられんのぅ」

 ッッ!? このジジイ俺のことを知ってやがる・・・・・・ほんと何もんだよ。

 内心動揺したが、それを表に出す事はなかった。

 「お主はわしに何者かと聞いたな?」

 「・・・・・・」

 俺は沈黙で答えた。

 「よかろう、わしの正体を明かそう」

 じいさんは一度息をついてから言った。


 「わしは神じゃ」


 「・・・・・・は?」

 俺はその後口を開けたままのマヌケ顔で数分間、文字通り固まっていた。

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