40.意見の通し方
よろしくお願いします。
「さあ、話は決まったばい。お前ら、そがん血のたぎっとっないば、堂々勝負ばせんね」
その前に、とヴィーはそれぞれの代表者に前へ出るようにと告げた。
「ハッキリ伝えとかんばことのあっ」
大人たちの中からはデジレが慎重に周囲を確認しながら前に出て、若者たちの中からは一人の青年が恐る恐ると前に出た。パメラと行動していたエンゾだ。
「おいは、この領地ば治めようていう気は一切無か。もう貴族じゃなかし、何じゃい武功ば上ぐっ日の来たけんて、また貴族になろうてん思うとらん」
デジレは納得したように頷いていたが、若者たちや大人たちの一部からも驚きの声が聞こえてきた。
彼らは一様に、ヴィオレーヌの知見と能力があれば貴族に返り咲くことは難しくなく、その結果この領地が任されるのは当然だという意識があったのだ。
それは宣伝の結果なのか、日常であった状態を求める心理なのか。
「おいはおいの生き方しかできん。そいとこれ、やれ王国に力ば見せればとか、家ば復興させんばとか勝手かことばっかい言うてから。お前たちの頭ん中に居るとは、いったい誰ね?」
呼吸を整えて、続ける。
「まあ、良か。そがんなっともわかっけん」
被支配者でいることの苦労と同時に、その気楽さというのもヴィーは理解できる。
全て指示された通りに生きていれば安定して生活できることほど、安心していられることなどない。
「おいが全部正しかてん思うとらん。そいけん、おいの言葉にどがんでん納得できんて言うない、力ずくででん説得せんね」
それができると思うなら。
不器用の極みだとヴィー自身も思わないでもないが、王都で国王と貴族がやっているような足の引っ張り合いを真似る必要は無い。
伯爵領程度の人口であれば、決まりごとなどわかりやすいに越したことはないのだ。
「選ばんね! おいば倒して王国相手に喧嘩売るこっちゃい! このまま家さん帰って、全部忘れて寝るこっちゃい!」
ヴィーは後者を選ぶように目いっぱい不公平な選択肢を並べたが、事実である。
そして、デジレには大人たちの手出しは無用であると伝えた。
「ですが、ヴィー様……」
「様はいらんばい。そいよいた、おいが負けたない、後ば頼むけんね」
「……わかりました。ご武運を」
デジレは大人たちを下がらせ、王国兵士たちからも小柄なヴィーがよく見えるように防御態勢を完全に解いた。
けが人の有無を改めて確認し、幾人かは家に帰す。
ここからは、ヴィーの舞台を王国の者たちに見せることが必要になるのだ。
「で、残ったとはこんだけね」
ヴィーの前に立っていたのは、エンゾを含めた五人の若者たち。
その中にパメラの姿が無かったのはヴィーにとっては意外だったが、ボドワンが敗れたと知ったいまは、そちらに興味が向いているのかも知れないと考えた。
問題は、前に立つエンゾたちだ。
「ヴィオレーヌ様……」
「迷うぎいかん。稽古とは違うとやけん、おいば仕留める気で来んね」
「の、望むところです。あなたには失望しました。事ここに至っては、あなたには退場していただいた方が良いのです」
ボドワンというリーダーがいるとエンゾは語り、周りにいる者たちも同意するように頷く。
ヴィーは答えず、刃を返したままの刀を構える。
肩に背負うような八相の構え。そして右足を前にして、やや前傾になるのは、彼女の癖であり、小さな体で重い刀を背負うための工夫でもある。
肩に峰を走らせるようにして鋭い打ち込みも可能になる構えだが、今は刃が肩に触れているのでそれはできないのだが。
しかしながら、それで充分だった。
「うおおおお!」
若者のうち二人が、エンゾの両脇から飛び出してそれぞれの武器を振るって近づいてくる。
これが前世の央一郎であれば、怒りに任せた大振りの一閃でまとめて薙ぎ払ってやるところだが、今の身体では力が足りない。
だから、狙いだけを変える。
「ぎぃっ!?」
「うわぁっ!」
彼らの手の甲や指先だけが浅く切り裂かれた。
峰打ちのために一筋の切り傷を付けただけだが、これが本身であれば指を失っていただろう。
恐るべき正確性。四つの手全てをなぞる完璧なタイミングと速度。
二つの人生を駆け抜けている彼女の、腕力ではない、単なる速さでもない、幼い体で戦い続けるために見出した技だった。
「弱か」
血の付いた刀を振るい、滴を飛ばす。
「我ば通すない、そんだけ強うならんば」
その言葉は、生まれ変わってからもその前も、彼女が自分に言い続けた言葉だった。
1~2日空くかと思いますが、次回もよろしくお願いします。




