39.切り裂く影
お待たせいたしました。更新再開です。
よろしくお願いします。
「ふうけもんどもが! 道ば開けんね!」
若者たちが自分に向けて殺到してくるのを前にして、ヴィーは激高しながら背の高い相手を押し分けて前に進む。
彼女が登場したことを何か自分たちに有利なことのように思っているのか、彼女を歓迎する若者たちは、ぶつかることなく立ち止まって、道を開いた。
ざざっ、と草が風に掻き分けられるかのように人が割れていく中を、ヴィーは駆けた。
「おおっヴィオレーヌ様!」
「ヴィオレーヌ様が来られた!」
歓喜の声に、たまらず舌打ちをする。
腰の刀を左手にて押さえたまま、もし目の前に誰かが立ちふさがろうとしようものなら、一刀の下斬り捨ててしまわんばかりの形相だ。
「コレット、どがんでんなかぎ良かばってんが……!」
若者たちが考えていることに、ヴィーは一つも共感できなかった。
これは彼女が前世から忠義というものを広い意味で理解できていたからであり、領地のみを見て、しかも自分を頂点とするような狭い視野で話をされても到底同意できないからでもある。
ふと、ヴィーの周りから人が消えた。
「ヴィオレーヌ様だ!」
という呼び声は、背後の若者たちからも、前面の大人たちからも聞こえてくる。
今、彼女は対立する二つの集団の間に居るのだ。
「なんばしよっとか……」
見ると、屋敷の門は少しだけ開き、奥からは兵士達が幾人も殺気立った表情で顔をのぞかせている。
いくつかの窓を覆う木戸には矢が突きたち、明らかに屋敷へと向けた攻撃が行われたことを示していた。
つまり、もうこの土地の者たちは代官と敵対してしまったのだ。
「くそがぁっ!」
悪態を吐いたヴィーは、二つの勢力の間で刀を抜いた。
そして、まず切っ先を向けたのは若者たちへ向けてだ。
「わがどんが何ばしよっとか、わかっとっとか! 人ば神輿んごと担ぎ上ぐっぎんた、どがんでんなっててん思うとっとか!」
さらに、振り返って大人たちへも大音声を上げる。
「かんところで何ばしよっとか! さっさと前に出て、屋敷から離れんか! 誰に何ば見しゅうでさんところでボサッと突っ立っとっとね!」
全方向に、全ての旧伯爵領民へとヴィーの怒りは向いていた。
どうしてこうなってしまうのか。
何故、自分たちの首を絞めるような真似を揃ってやらかしてしまうのだろうか。
領地の中で対立するのは良い。だが、その結果として共倒れになってしまうような方法を選んでしまうのは何故なのか。
そして、憎んでいる相手はヴィー自身でもある。
自分という存在が居なければ、ヴィオレーヌという反逆者の娘が居なくなれば、新たな支配者の下で領民たちは悪影響を受けることは無いと思っていたのに。
「代官殿! 聞こゆっね! おいの声は届いておられるか!」
両勢力に睨みを聞かせながら、ヴィーは声をかけた。
「聞いているとも。安全な場所でね」
遠くからだが、代官の声が聞こえてくる。恐らくは建物の中からだろう。想像以上に平静な様子の声音が、思わずヴィーの顔をほころばせる。
同時に、信用できると思った。
彼は、戦を知っている。
「ここはおいに任せてくれんやろうか! 片付けばしてから、改めて詫びば入るっけん!」
「ふむ……少し待ってくれないかね。確認しておきたいものでね」
「確認?」
全権を握る代官が判断することのはずだが何の話だろうか、とヴィーが首をかしげている間に、返答が出た。
「良かろう。我々に“これ以上の”被害が出なければ、飲めなくはない」
他にも条件はあるが、この状況を落ち着かせてからの話でも良いという返答だった。そして、ヴィーにとって重要な情報がある。
「コレット君は無事だ。安心したまえ」
「そがんですか……」
ヴィーは安堵の息を吐いた。
そして、右手に提げていた刀を握り直し、峰打ちへと切り替える。少しだけ、冷静になれたらしい。
「では、少しばっかい待っとってくれんですか」
ヴィーは告げた。
すぐに片付けるから、と。
ありがとうございました。
お仕事の都合で週末は少し空く可能性がありますが、
ちゃんと続けますので、よろしくお願いします。
 




