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最後の侍、異世界で幼女になる  作者: 井戸正善/ido
第一章:辺境の小さな侍
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13.少女、匿われる

よろしくお願いします。


※方言表記に関するご意見、ありがとうございます。

 結論が出ましたので、あとがきをご確認ください。

「あった。ここだ。間違いないはず」

 小一時間程歩き続けて、コレットはようやく目的の食堂を見つけた。出てきた瞬間を見たわけではないが、位置的にこの店から出て来たのは間違いない。

 道を歩いているうちに誰かに追われている気がしていた彼女は、逃げ込むように店へと飛び込んだ。


「いらっしゃい。……あんた、どっかで見た顔だねぇ」

 皿を片付けながら話しかけてきたのは、恰幅のいい中年女性だった。

 怪訝な顔を見せた女性は、すぐに眼を見開いたかと思うと、手近なテーブルに皿を置くと、コレットの手を引いて店の奥へと連れて行った。

「ちょっと、いらっしゃい」


 表の通りから見えない位置のテーブルにコレットを座らせると、女性は水が入ったカップを置いて、向かいに腰を下ろす。

「あんた、あの小さな子に助けられてた子じゃないの?」

「あ、はい……」

 やっぱり、と女性は店の中を確認するように見回して、今は客がいないことを確認すると、厨房に向かって「ちょっと任せたよ!」と叫んだ。


「あれからどうなったんだい? 騎士や兵士に聞いても何にもわからないし、町の噂でも聞こえてこないから、心配で心配で」

 自分の分の水を注いで一気に飲み干し、女性は興奮した様子で鼻息荒く話している。それこそ、コレットが説明する暇もない。

「そりゃあ、あの日に初めて見た子だし、どこから来たのかも知らないけれどさ、あたしは心配になっちゃって」


 身なりの良さや綺麗な顔立ちもあって、最初に見た時の印象は「どこかの貴族のお嬢ちゃんが冷やかしに来た」と思ったらしい。

「でもねぇ、町で大工やら鍛冶やらやってる男連中みたいにガツガツと、ウチのご飯を食べてさ、おいしそうに笑ってるのを見ちゃったら、悪いようには取れないさ」

「はあ……」


 三十分の出会いをたっぷり一方的に話し続けること同じく三十分。

 ようやく話に区切りがついたところで、女性から本題に入った。

「それで、あの子はどうなったんだい?」

「無事……だと思いますけれど、宿に居る間にどこかに消えちゃって、私も誰かに追われているみたいで、逃げて来たんです。ここなら、ヴィーが……あの子がどこに行ったか分かるかと思って」


「そうかい……あの子はヴィーっていう名前なんだね」

 エプロンを豪快に捲って目元をぐりぐり押さえて、女性は感慨深げに呟いた。

「それにしても、とんでもなく強い子だったねぇ。今でも界隈の連中が話しているよ。そこいらに居る兵士や騎士よりもずっと立派で強かったってさ」

 しかし、その事にも腹が立つらしい。


「みんな過去のことみたいに言うんだよ? 冗談じゃない! あんなに可愛くて強い子は、どこでだって生きていけるんだから」

「あ、それわかります! 高価な人形みたいに可愛らしい見た目で、ものすごく強いんですよ! 私も助けられて思ったんですけれど、本当に逞しくて頼りになるっていうか……」

「気が合うねぇ! アタシに子供はいないけれど、息子がいたらあんなお嫁さんを連れてきてくれたらって思うわ!」


 話が妙な方向へとずれていくのだが、コレットも対抗心を燃やして次々とヴィーのエピソードを語る。

 短い期間だが、ヴィーと過ごした濃密な時間は目の前に居る食堂の女性に負けてはいないはずなのだ、と。

「寝顔なんて天使じゃないかと思うくらいに透き通って無垢なのに、敵が来たらスパッと動いて、あっという間に行動を決めちゃうんですよ。もう可愛いやら格好いいやら」


「そんなに! どこか変わってるとは思ったけれど、どこかで特別な訓練でも受けたのかねぇ」

「本人は、王都にしばらくいないといけないって言ってたんですよ」

「そうなの? 見ない子だから、どこか遠くから来たのかも知れないね。聞いたことも無いような、ひどい訛りだったから」


 それが玉に瑕、と言いたいところだったが、二人供彼女の話し方については好意的だった。むしろそれくらいの欠点が無いと怖い。それが二人の共通する結論である。

「でも、どこの出身なのかねぇ。王都にはあちこちから人が来るし、店に来た客の中には聞き取るのも大変なくらい変な王国語を使うのも居るけれど、あんな感じなのは聞いたことがないし」


 王国は広い。

 長い歴史の中で多くの小王国が併呑されて成長した国家であり、地方領主が治める土地では未だに『地元では元の国の言葉で、共通語として王国語を使う』という場合も珍しくない。

 地元言葉に引っ張られて、妙な発音になっている者は沢山いるのだ。


「きっと今頃貴族の誰かに気に入られて、末はそこの御子息の奥様なんて話が進んでいるんじゃないかとアタシは睨んでいたんだけれどね」

「それが……私を助けてから、一緒に狙われるようになってしまって……」

 宿ではぐれたのもそれが原因ではないかと考えていることを、コレットは正直に話した。

「だから、早く見つけて無事なのを確認したいと思っているんです」


「確認して、どうするつもりなんだい?」

「謝ります。それと、まだちゃんとお礼もできてないから、それも……。それが終わったら、また一人で旅に出ます。王都にいると、他に人にも迷惑がかかるかも知れないし」

「あんた、それは間違っているんじゃないの?」

「えっ?」


 女性は立ち上がり、奥の厨房に向かって何かの言葉を投げると、すぐに戻って来た。

「そんな風に逃げ出して終わる話なら、あの子が一生懸命戦って守ることは無いんじゃないの? 町の外まであんたを追ってこないとも限らないから、どうにか始末をつけようとしているんじゃない?」

「あ……」


「あの子もきっと、あんたを探しているのよ、コレット。あんたと同じように」

 話している間に、厨房から野菜がゴロゴロ入ったスープと、黒パンが運ばれてきた。暖かな湯気を立てているスープから、とても美味しそうな香りが漂う。

「奢りだから、食べていいよ。食べ終わったら、しばらくこの店の奥に泊っているといい。町の連中に話をしておいて、あの子が来たらすぐに連絡が来るようにしておくから」


「そんな、お店に迷惑をかけるわけには……」

「迷惑じゃあないよ。あたしにも、あの子のために何かしてあげなくちゃいけないのさ。それに……」

 女将はエプロンの大きなポケットから数枚の銀貨と銅貨を取り出すと、テーブルに広げた。

「あの子には、食べた分のお釣りを渡さないといけないしね。まったく、安くて美味いが売りの店なのに、こんな大金受け取ったら、評判がた落ちになっちゃうわよ」


 コレットを助けに飛び出す際、ヴィーはお題として金貨一枚をテーブルに放って行ったらしい。

「釣りを用意するのも苦労するぐらいの金額、いつまでも預かったままじゃ困るのよ。だから、あんたがここにいてくれれば、そのうちお釣りを渡す機会も訪れるってわけさ」

「ああ、ヴィーがやりそうなことですね。でも、だからって私がタダでお世話になるわけにはいきません……ひえっ!?」


 背負っていたバッグを開いて手を突っ込み、お金を探そうとしたコレットは、奇妙な感触に気づいて慌てて手を引っ込めた。

「どうしたんだい?」

「何か、憶えの無いつるっとした感触が……」

 紐を完全にほどいて思い切り開いたバッグの中には、数枚の着替えと自分の財布の他に、入っているはずの無い数枚の金貨と、どこかで見たような、半球状の宝石が転がっていた。


「これって……」

「あの子の剣についていた宝石にそっくりだねぇ」

「というより、それそのものですよ、これ。どうして……痛っ!?」

 困惑するコレットの肩を、女性が力強く叩いた。

「決まりだね! こんな高価なものをホイホイくれてやるはずがないさ。きっと預けておいただけなんだから、ちゃんと帰ってくるって約束の証なんだよ!」


「約束……」

 そうと決まれば、行動は早い方が良いとばかりに、女性は早々に寝具と根回しに奔走し始める。厨房の者たちもあれこれ言いつけられ、てんやわんやだ。

 後は任せて、食べていて良いと言われたコレットは、恐る恐るスープに口を付けた。

「美味しい……。ヴィーが大金を惜しみなく置いていくのもわかる気がする」


 実家の料理は美味しかったけれど、こういう野菜の味がしっかりとするような食べ方はしなかったと思い出しながら、コレットは久しぶりに安堵の食事を楽しめた。


    ☆


「私はエリート。私はエリート……」

 自己肯定の呪文をブツブツと呟きながら町を歩くブリジットの手には、追跡のための魔石が握られていた。ヴィーがイアサントから渡された剣にはめ込まれていた、今はコレットの手にある魔石へと導く半球状の片割れだ。

「騎士訓練校で優秀な成績を収め、尚且つ家柄も良くなければ入れない王城勤務の近衛騎士……」


 イアサントから命じられた内容に「否」とは言えなかった彼女は、“追跡能力者”として芝居をしながら、ヴィーたちを案内している。

 魔石は片割れがある方向に僅かな力で引っ張られるようになっているので、手に握って軽く引かれる方向を感じ取ることで使用するのだが、ブリジットはそれを隠して、奇妙な小芝居付きで探索を始めた。


「むぅうん! 私の魂と同調せし魔石よ! 我が探しものへと導き給え!」

 などとオリジナル呪文を声にした時には、ヴィーに勧められなくても腹を切って自害したくなった。

 ヴィーとオディロンが感心して見ていたのも、イアサントが必死で笑いをこらえていたのも、彼女が舌を噛み切るために口を開けるのには充分だった。


「私はエリート……のはず……」

 未遂で済ませるための呪文は次第に弱々しくなっていく。

 実際に彼女は一握りしか存在しない王城詰めの近衛騎士であり、しかも女性ながら正式に実家の貴族家を継ぐことを許されたほどの秀才でもある。

 婿を取って子爵となる予定であり、大過なく勤務を終えればあとは幸福で穏やかな領地での暮らしが待っている。


「……止まってください」

 仕事はできるブリジットは、魔石の微妙な反応の違いを感じ取り、一行の動きを止めた。

「見つけたか?」

 イアサントの問いに、ブリジットは頷いて答える。

「かなり近いです。方向からして、あの店ですね」


 王城からそこそこ近い場所で良かったと心の中で拳を握りながらブリジットが指差した先は、コレットが匿われた店だった。

ありがとうございました。


※ヴィーの台詞が無かった!

ので、本文中で表記がありませんでしたが、今後ヴィーの方言については、

『ハードコア佐賀弁を書いて、全文の標準語訳をルビで書く』

ことにいたしました。

方言女子を書きたいという欲求があって始めた作品であることと、

半端に書いたところで違和感しか無いこともあって、この形になりました。

やはり半端はいけません。

()で標準語訳を後ろに付けるという御意見もいただきましたが、だらだらと長くなる感じになって、

文章から締りが行方不明になってしまったので、読み仮名として書かせていただきます。

ご協力ありがとうございました。

公開済み分は順次修正して参ります。


良かったら、今後ともよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
まあ色々試してこうと作者の方が決めたのならそれにしたがおう!
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