表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の侍、異世界で幼女になる  作者: 井戸正善/ido
第一章:辺境の小さな侍
13/51

12.幼女、助けを乞う

お待たせいたしました。


※いろいろとご意見をいただき、今回から、ハードコア佐賀弁だった方言を少しマイルドに変更し、一部読み取りが難しいと思われる方言側をルビにする方式にしてみました。

よろしければ、感想にてご意見をいただければ助かります。


↑につきまして、色々とご意見を頂戴しました結果、『全ての台詞をハードコア佐賀弁で書き、基本すべてにルビで標準語を書く』ということに落ち着きました。

ご協力いただきました皆様、ありがとうございます。

この部分も、近々修正いたします。

「……落ち着かぬ」

 通された部屋の中で、オディロンは椅子にも座らずに立ったままで室内を見回していた。

 正反対に、ヴィーの方はリラックスした様子でソファに身体を預け、紅茶が満たされたカップを傾けていた。

「鬱陶しか。少し落ち着いて座っとかんね」


 緑茶が懐かしいと思いながらも、肉体が変わると味覚の記憶もどこか“他人事”になってしまっているのを奇妙に感じる。

「この身体だと(ぎんた)飲んだことが無かけんやろうね。つくづく、奇妙な(おかしか)ことになっとるて思うばい」

「何の話をしているのかさっぱりだ」


 説明しても味ないことよ、とヴィーは聞き流した。

「どうしてお前はそんなに落ち着いていらるのだ」

「おいにはオディロンの方が不思議ばってん。一応貴族なんやろう?」

 しかも王都勤務といえば、一応はエリートではないかとヴィーは考えを述べたが、そういうわけではないらしい。


「何度も言うようだが、貴族といっても騎士爵などはいて捨てるほどいる。平民ではないが、貴族というには貧しく、権利も弱いものだぞ」

 その一つとして、王城への立ち入り制限というものがある。

 子爵以上の貴族家当主であれば、城への出入りは基本的に自由である。もちろん、王や大臣などに用があるのであればアポイントが必要なのは変わりないが。


 ちなみに、以前は貴族であろうと事前に王の許可が必要であったが、数代前に貴族院の圧力と当時高齢であった王の負担軽減を理由に現在の状況まで緩和され、以降そのままになっている。

「城に入るなど、正式な叙任を受けたとき以来だ。その前は騎士訓練校の卒業の時だから、これでまだ三回目だぞ」

「おいは二回目ばい」


「……やはり、お前……いや、君は貴族なのか?」

「お前て呼んで良かよ。貴族ていうても“元”ばってんな。前に来たときは、父上の首ば届けに来た時たいね」

「そうか、元なのか……首?」

 聞き捨てならない内容を聞いたような気がしたオディロンが口を挟む前に、二人がいる控えの部屋にノックの音が響いた。


 続けて、ドアの向こうにて控えていた騎士の声が聞こえる。

「近衛騎士隊長、イアサント・ムイヤール様がお越しです」

「良かよ。入ってもろうて」

 落ち着いた様子で立ち上がったヴィーは、イアサントが来たと聞いてアワアワとしているオディロンの尻をぴしゃりと叩く。


「鬱陶しか」

「す、すまない……」

 少し迷ったオディロンがヴィーの少し後ろに下がって敬礼の姿勢をとったところで、イアサントが入ってきた。

「数日ぶりですね、ヴィオレーヌさん」


 さわやかな笑顔を見せるイアサントは、オディロンの存在には触れなかった。

 同じ騎士ではあるが、オディロンが言うとおりに格が違うのもあるが、今回はヴィーの依頼であり、オディロンは彼女の護衛のような扱いとなっている。立ち位置を隣ではなく後方にしたのもそのためだった。

 会話すべき相手はヴィーであり、交渉するのもヴィーの役割なのだ。


「ご無沙汰ばしとります」

 などと定型文であいさつはするものの、まだ数日と経っていない。

「ブリジットから説明を受けました。まずはおかけください。私たちからの回答をする前に、もう少しお話を聞かせてください」

 ヴィーは元のソファに。オディロンは彼女の後ろに立つ。


 向かい合って腰をおろしたイアサントは、ドアの前で待機していた騎士にお茶の用意を頼み、以降は外で待つように伝えた。

「急いでいるのは理解しておりますが、私としても軽々に騎士を動かすことはできませんので……」

「そいはわかってる(とっ)。どこまで聞いたとね?」


 イアサントがブリジットから聞いたのは、コレットというヴィーの連れとなった少女が、宿からいなくなったというところまでだった。

 そして、盗賊団などというケチな犯罪者集団ではない、もっと大きな組織の存在が匂わされるような出来事が起きているということも。

「大きな組織……東三番門での騒動については私の耳にも入っておりますが、それは兵士たちによって鎮圧されたと報告を受けましたが、そのようなことがあったとは初耳でした」


 ブリジットもその現場にはいたのだが、会話などまでは聞いていなかった。近くで様子を見ていただけで、男がどこかへ去ったのも見ていたが、重要視はしておらず、追うこともしていない。

「おそらく、王城への報告が届く途中で、情報が改竄されているのでしょう。信じがたいことではありますが、それだけのことができる人物が関与していることの証明でもあります」


 まずこの件についてイアサントは調査を行うことを明言した。街中で悪さをする組織であれば、オディロンら騎士や兵士の仕事になるが、王政府を含めたシステムの問題となれば別だ。

「幸いにも、手掛かりはあります。留置されていたあなたを襲った騎士が捕縛できているというのであれば、話は聞きだせるでしょう」


 あえて穏当な言い方をしているが、実際は監禁、拷問といった苛烈な方法を使って吐かせるだろうことはヴィーにも想像できたし、それが悪いとも思わなかった。

「同じ貴族でも、ちゃんと調査をする(ばすっ)とかね?」

「ご心配なのはわかりますが、今回は問題ないでしょう。むしろ彼の係累や付き合いのある貴族の方が進んで協力してくれますよ」


 貴族社会の中で問題を起こした人物が出たら、その関係者まで疑いの目がかかるのは当然のことで、社交界から締め出しを食らう可能性すら出てくる。

 そうなれば今後に多大な影響がでるので、人知れず始末することさえある。

 今回のように王城へ露呈してしまったとするならば、進んで調査に協力することで疑いを晴らそうとするのは自然なことだった。


「まあ、あの男ば斬首するなり腹ば切らせる(すっ)なりは王様が決めることやろうね。おいは気にしないから(せんけん)好きに(よかごと)して」

それよりも、ヴィーの頭にあるのはコレットのことだ。

「侍女騎士さんにも言うたばってん、誘拐されたコレットば探して欲しかとさい」

「……単刀直入に申し上げれば、協力は難しいでしょう」


 ブリジットの報告を受け、彼女には城内での待機を命じた上でイアサントは今の今まで王と相談を重ねていた。

 彼としてもコレットは可哀想だと同情するし、当人はどう思っているか不明だが、貴族の身分を失って初めての友人であったと思われる彼女を奪われたヴィーの気持ちも推察できる。


 だが、この騎士隊長として王の意向を無視するわけにはいかないのだ。

「ヴィオレーヌを貴族から排除したうえで自由にした理由を考えろ。王城が関わっていると表沙汰になるような真似はやめろ」

 と、王は判断した。

 一人の女性が犯罪に巻き込まれたことは悲劇だが、そのために王が目指す完全な中央集権への足掛かりを放棄するわけにはいかない。


「私にできることは、二人の人員を近衛騎士としてではなく、一協力者として手伝わせることだけです」

「……それでも(そいででん)、充分て思うべきなんやろうね」

 ヴィーは落胆した様子だったが、人を貸してもらえるだけでも助かる。口ぶりからして、近衛騎士を二人も貸してくれるのだから、心強い。多少の危険があっても問題ないということなのだから。


「ところで、コレットという女性はどこで出会ったのですか?」

「偶然、飯ば食べている(とっ)ときに襲われていたのを(襲われよったとば)助けたとさ。あん子は地図ば描くとが上手なんだ(かと)よ。フォーコンプレから来たばっかいで、これからっちゅう時なんよ……」

「フォーコンプレ、ですか。やはり……ところで、あの剣は役に立ちましたか」


 ヴィーが何かに気づいたようだが、畳みかけるようにイアサントが質問すると、にっこりと笑ってうなずいた。

「おうさ、何回も助けられたばい。宝石はおいの趣味じゃないから(なかけん)外したばってんね」

「あれを外したのですか。それなりに高価なものなのですがね」


 それなりとは言ったが、実際は王都にそれなりの邸宅が買える程度の価値がある。宝石そのものの価値に加えて、珍しい性質を持つ魔石としての価値が加わるからだ。

 もちろん、それを口にするわけにもいかないが。

「外した宝石は売ってしまったのですか?」


 売り払った先が分かれば、買い戻せる。その性質上、あまり余人の手に入るのはよろしくないとイアサントも王も考えている。魔石の片割れで追跡もできるが、すぐわかるならそれに越したことはない。

「いや、コレットにやったばい。世話になったけんね」

 ヴィーの言葉に、イアサントは沈黙して考え込む。


どうした(どがんした)ね?」

「いえ、少し考え事をしておりまして、申し訳ありません。それでは、さっそくコレット嬢を探しに行きましょう」

 立ち上がったイアサントは、部屋の外にいた騎士に命じて、ブリジットを自分の執務室へ呼んでおくことと、預かっていたヴィーとオディロンの剣を持ってくるように伝えた。


「ブリジットには、人探しに使える稀有な能力があります。それを使ってもらうとしましょう」

 もちろん大嘘だった。

 魔石の存在を秘匿するのに適当な言い訳がみつからなかったので、ブリジットには任務失敗の罰として、能力がある特別な人物として芝居をしてもらうことにする。


「おお、そいは助か()ばい! で、もう一人はどがん人ね」

「私です」

「……はぁ?」

 一瞬冗談だと受け取ったヴィーだったが、「門で待っていてください、準備したらすぐに行きます」と続けたイアサントの様子に、本気だと知る。


「近衛の隊長さんが、そんな(そがん)ことして良かとね?」

「組織に関する調査も兼ねているという理由もありますが……私なら、不逞な騎士や貴族が出てきたときに、その場で処断する権限を持っているという理由が大きいですね」

 さらに実際は、コレットに会うことができれば、確かめたいこともあってのことだ。ヴィーとは無関係なことなので、口にはしないが。


「陛下の許可はもらっています。いやあ、不謹慎ですが、王城の外で活動するのは訓練校以来です。では、後程また」

 足早に出て行ったイアサントを見送って、ヴィーはオディロンを見上げた。

「……近衛って暇かとね?」

「えっ、いや、そんなに仕事内容など知らないのだが、そんなはずは……」


 ありがたい協力に困惑しつつ、ヴィーはとにかく急ぐべきと気を取り直し、返却された剣を抱えて気合を入れなおした。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ