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最後の侍、異世界で幼女になる  作者: 井戸正善/ido
第一章:辺境の小さな侍
11/51

10.幼女、同情する

用事があって、今回は少し短めになりました。

よろしくお願いします。


※12時にも更新しております。ご注意ください。

「ワシは聞いておらん」

 ヴィーとテランスの間に身体を滑り込ませるようにオディロンが割り込み、ヴィーを殺すことは罷りならんと断言する。

「彼女は幼い。罪あるにしてもそれを公明正大に判断せねば、王国の法を蔑ろにすることになってしまうではないか」


「オディロン。お前はそうだから声がかからないんだよ」

 間近に迫るオディロンの髭面を見上げて、テランスは吐き捨てるように言う。

「これはビジネスなんだよ。俺たちは騎士。貴族の最下層として上の指示に従っているのが当然なんだ。そうすることで、安泰に生きていける。息子に役を継がせることができる」

「爵位の話は、この娘を害することと何の関係も無かろう」


「石頭め」

 切っ先がヴィーからオディロンへと向かうが、彼は微動だにせず、変わらずヴィーを庇うように立っていた。

「どけ。お前のような奴は一生そのままでいるんだろうが、俺たちを巻き込むな。上の連中に睨まれたら、息子は結婚すらできないかも知れないんだぞ!」


 いつしかテランスの声は怒りをにじませた叫びに変わっていた。

「やめておけ。ここでこの娘を殺したところで、お前の騎士としての正義に傷が残るだけだ」

「傷? 経歴に傷が入るのはお前の方だぞ、オディロン。騎士としての正義は、上の言うことに従って、貴族社会を守ることだ。お前がやっているのは、うまく回っている組織を邪魔することになるんだぞ」


 何と言われても、とオディロンは立ちはだかる。

「もう、良かよ」

 ヴィーの力無い声に、オディロンは驚いて振り向いた。

「あんた、良か人やったばいね。おいのことは良かけんが、あんたは自分の家ば守りんしゃい」

 家を守るという意味は、オディロンにはすぐに分かった。流されろと言っているのだ。


「お前……。まったく、こんな子供に同情されるとは。騎士も落ちたものだな。いや、もっと言えば貴族社会そのものか」

「オディロン。その言葉は聞かなかったことにしてやるから、そこをどけ」

「……致し方あるまい。少し待て」

 オディロンは格子の鍵を取り出し、扉を開けた。


「それで良いんだ。お前のことはちゃんと上に報告しておいてやるよ。そろそろ結婚しておきたいだろう?」

 百五十センチほどの高さしかない入口に向かって膝を曲げたテランスの言葉に、オディロンは答えなかった。

 その代わりに、背を向けたテランスに向けて両手の拳を思い切り振り下ろす。


「ごあっ!?」

 肺の空気を思い切り吐き出し、カエルのように床にべったりと倒れたテランス。彼の落とした剣は、ヴィーが蹴り飛ばしてしまった。

「オディロン、あんたやっぱい、良か男やね」

「騎士として、当然のことだ」


 ぴくぴくと震えながら呻いているテランスを牢の奥に蹴り飛ばしたオディロンは、ヴィーに出てくるように伝えた。

「良かとや?」

「緊急避難だ。ここに置いていては、いつまたテランスのような馬鹿がやってくるかわからぬ。お前と戦っていた男といい、今回の件はどうやら普通ではないらしい」


「結婚は?」

「高位貴族が連れて来る女なんぞ、監視役と何も変わらぬ。息苦しいだけだ。嫁が来ないなら、我が家は潰える。それだけのことだ」

 髭をしごいて語るオディロンに苦笑いで牢を出て来たヴィーは、彼から返却された剣を腰に提げた。牢にはすぐ鍵をかける。


「心ん引き締まっね。こん重み」

「無罪放免というわけではないぞ。まずはお前が言っていた連れを保護するとしよう。どうもきな臭い状況になってきた」

 話している間に、どうにか回復したらしいテランスが、先ほどまでヴィーがそうしていたように、格子にしがみついてきた。


「こんな真似をしても、すぐに誰かが来て開ける! 悪いことは言わないから、開けろ、オディロン!」

「断る。それに、誰かが来たとしてもこうすればすぐには出られまいよ」

 牢の扉をがっちりと固定している錠前の小さな鍵を、オディロンは両手で摘まんで力いっぱい曲げた。


 信じられない行為にテランスは驚き、その握力にヴィーが驚く。

「凄かねぇ」

「な、なんてことをしやがる!」

 わめいているテランスを放置して、ヴィーとオディロンは詰所を出た。出入り口はしっかりと施錠して、最奥の牢からの声は外へ漏れないようにする。


「これで良い。夜までは大丈夫だ」

「急がんばいかん。コレットが心配けんね」

「コレット、というのがお前の連れなのだな」

 足早に歩きながら、ヴィーは頷いた。

 彼女が襲われているところを助けたところから、何者かに追われていることを説明し、改めて助けを乞う。


「あんたない、信用でくっけん(できるから)、こんだけ話しとく。ばってんが、本当に付いて来っない(来るなら)、覚悟せんばいかんよ」

「そんなものは、騎士として家を継いだ時に……いや、父の姿を格好いいと感じた時に、すでにできている」

「格好良かねぇ。そん言葉、信じとっけんね」


 それにしても、とヴィーは憤っていた。

「太平の世が続くとは良かことばってんが、上から腐っていくぎんた()、どがんもならんね」

「本来はそれを糺すための騎士なのだがな。王家直轄の近衛騎士であれば多少はマシなのだろうが、町にいる騎士ともなると、良くも悪くも高位貴族の影響は計り知れん」


 その貴族たちの手が、裏からだけでなく表からも堂々と影響を及ぼし始めた。

「騎士として、正義を行うとすれば今かも知れぬ」

「然様さ。なぁに、上手に行けば良し、頑張ってでんどがんもならんぎんた(どうにもならないなら)、おいとオディロン、二人(ふたい)腹ば斬っぎ済むくさ」

「……そういうものか?」


 聞き覚えのない責任の取り方だが、ヴィーがあまりに当然のように言い切ったので、オディロンは正面から否定できなかった。

「ばってんが、コレットんごたっ(のような)良か娘さんば巻き込むぎいかん。死ぬにしたって、まずはあ()子ば助けてやらんば」

「であれば、急ぐとしよう」


「おおっ?」

 小柄なヴィーの身体を掬い上げるように抱え、オディロンはぐいぐいと進んでいく。

「瀬渡しんごたっね(みたいだ)。こりゃあ、楽かばい」

「この方が速い。道を示してくれんか」

「おうとも」


 快速で町を駆け抜けた二人だったが、到着した宿に残っていたのは、荒らされた部屋だけであった。

 ヴィーとコレットは、完全に行き違ってしまっていたのだ。

ありがとうございました。

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