神隠し
この世界には小人がいる。
そんな昔話を聞いたことがある。
『ガリバー旅行記』や『白雪姫』なんかが有名だけど、僕が触れたのは童話のような、軽々しいものではない。
記憶に焼き付いてしまうほどの、リアリティ溢れる物語。語り部は……誰だったか。なにせ幼少期に一度だけ聞いたものなんだ。思い出せそうにない。
そんな物語。
曖昧のくせして鮮明な。
これから独り言を話すけども、いいかい?
どうやら人と小人は、身体の大きさ以外、大きく違うところはないらしいんだ。
しかし互いに干渉せず、別の知的生命体として。共存共栄を図ったのだと昔の人は言う。だから勿論、僕はそんな小人を目にしたことはない。
何故干渉しないのだろうか?
共存共栄と無干渉は、矛盾しているようにしか思えないのだけど。
まあその解も、とっくに結論づいているらしいんだけどね。
人間は破壊し、小人は再生する。
人間が環境を破壊するように、小人も環境を再生しないことには生きてゆけないらしい。
消費者と生産者の関係じゃないけどさ、なかなか都合よく出来てるよね。世の中って。
つまりはどういうことだろう?
僕達は生きていることで小人に何かを提供し、それが小人のためになっている。
あれ? 共存共栄?
僕達って何か提供されたっけ。
まあどうだっていいや。
危害もないし、何かのためになっているってのなら気分は良いものだ。
あ、そうそう。
小人。
うん、体調が十センチくらいの。
今さっき小人を見たことがないっていったけどさ、もしかしたらそれっぽいのに触れたことがあるかもしれないんだ。
ハイハイを覚えたくらいかな……。
だからハッキリとしないんだけど。
最初は人形かなって近づいたんだ。
でもひとりでに動くし、挙句の果てには話し出すし。
気づいたらいなくなってた。
大人になった今だから思う。友達になれれば世界が変わっていたのだろうな……。
ま、夢だったんだろうけどね。
***
それじゃあ僕からも。
重ねるようで申し訳ないね。
この世界には巨人がいる。
そんなことを毎日、痛感させられている。
『ジャックと豆の木』それに、『ガリバー旅行記』はこちらでも有名な童話だね。
でも僕は物語を聞いた訳じゃないんだ。そういう意味では、記憶に焼き付いてしまうという点は、同じかもしれないね。
語り部は君たち全員。
何度だって、嫌というほどに五感全てで体感してる。
そんな実体験。
曖昧のはずがない、鮮明な。
これから独り言を話すけども、いいかい?
どうやら人と巨人は、身体の大きさ以外、大きく違うところはないらしいんだ。
しかし干渉してくるのは一方的で。別の知的生命体なのに。共存共栄を図ったと巨人は言ったらしい。だから勿論、僕はそんな巨人を毎日訝しげに見つめてる。
何故干渉してくるのだろうか?
答えは簡単。共存共栄って、言葉だけは立派だよね。
それが解。結論なんて考える必要も無い。
巨人は破壊して、僕達人は再生する?
巨人が環境の破壊を生業にしているのなら、全く同じ構造の僕達も、破壊が仕事だろう?
似たりよったりの生物なら僕達も言えたもんじゃないけどさ、都合良く考えるよね。巨人って。
つまりはどういうことだろう?
僕達は君たちが壊し尽くしたものを無言で再生し、その努力が巨人のためになっている。
あれ? 共存共栄?
僕達まで滅んじゃうから、仕方なく行っているだけなんだけどね。
簡単には見過ごせない。
危害が流れ込んできて止まりそうもないし、気分は常にズタズタだよ。
あ、そうそう。
巨人。
うん、大きさまでは分からないなあ……。
気づかれちゃったんだよ。その存在にさ。
ハイハイを覚えたくらいだったね。
僕はハッキリ覚えているよ。
最初はおもちゃのフリをしていたんだと思うよ。
でも逃げようとしたのも、助けを呼ぼうとしたのも失敗だったね。
君に食べられちゃったよ。
それが眼前で、速やかに行われたんだ。友達? 無理だよ、自分の行動を見直しなよ。
ま、きっと夢が覚める頃には終わってる。
火種を作ったのは、君だよ。
お読みいただきまして、本当にありがとうございます。
異世界もの以外を初めて執筆しました……。
いかがでしたでしょうか?
感想なんかいただけると、とても嬉しいです(汗)
連載小説のほうは、これとは打って変わってコメディーになっています。
もしよろしければ、そちらもご覧下さい〜。