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吸血鬼、月子さんの日常(仮)  作者: 半信半疑
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3 夜の公園は集会所になり得る

 マンションの出入り口。その道の両側には花壇があり、目を向けると、不羅宇が植えた花々がたくさん咲いているのが見える。色とりどりの花々は、見る者を楽しませてくれる。

 マンションの住人には心やすらかに過ごしてほしい、と彼女は言っていた。出入り口には最初何も無かったのだけれど、不羅宇が善意で花壇を造ったのだ。

 

 そんな花壇の間を抜け、マンションの敷地外、その一歩手前で立ち止まる。腕を組んで考えごと

 さて、散歩ついでの見回り開始だ。


 辺りはすっかり暗くなっている。昼間の騒がしさも、今はどこかに消えてしまっていた。町の中心に行けば居酒屋なんかがあって、まだまだ賑やかなのだろうけれど、うちのマンション近くは静けさが居座っている。そうだよ、夜は静かな方が良い。見回りを兼ねた散歩の時は、静かな方が心地良い。どんちゃん騒ぎも悪くないのだけれどね。


 静かな夜のお散歩といえば。


 最近やったホラーゲームに、夜の町を懐中電灯片手に散策するというものがあった。あのゲームも静かな雰囲気で、面白かった。ゲーム開始時点で石を投げてしまったことを後悔してしまうが。ストーリーの進行上、仕方ないのかもしれないけれど、あの演出は多くのプレーヤーにトラウマを植え付けたはず。まぁ、でも面白かったよ。違う恐さだったけど。


 プレイ中、私は突然出てくる妖怪たちに終始驚いていた。いきなり出てくれば、吸血鬼であってもびっくりするのだ。そこは人間と同じ。ゲームのマップで道路を歩いていた時に、人体模型が走ってきて殺された時は、本当に驚いた。


 …まさか、現実で出てきたりしないよね? 人体模型は学校の備品だから、こんなところで走っていたりしないよね? ね?

 私は割と臆病なので、何だか心配になってきた。効くか分からないけれど、台所の塩を持ってくればよかったな。戻るのも面倒なので、そのまま行くけれど。


 立ち止まって考えていると、生温い風が頬をなでた。今日は少しばかり風が吹いているみたいだ。無風よりは良い。わずかに。ほんのわずかに。

 雲がゆっくりと動いている。月はまだ隠れたままだ。


 さて、散歩のコースだが、今日はどこに足を伸ばそうか。あんまり遠すぎても帰りが面倒だしな。飛んでしまえば楽なのだろうけれど、飛ぶのも労力使うし、できるなら省エネ行動でいきたい。灰色の生き方とまでは言わないけれど。


 近場で済ませたいところではあるけれど、それじゃあ見回りの意味が薄い気もするしなぁ…。

 よし。公園とコンビニ、それと、ちょっと遠いけれど町はずれの空き地を見回りしとくかな。

 移動中に他の場所も確認できるだろうし、それでいこう。

 私は、夜の町に足を踏み出した。月はまだ隠れたままだった。



▼△▼△▼



 まずは近場の公園だ。

 マンション前の道路を東に向かって進む。公園は、マンションから歩いて約五分の所にあって、近所に住む子供たちが夕方ごろに遊んでいるほど活気のある場所だ。寂れてはいない。錆びてもいない。

 公園の周囲はフェンスが囲んでいて、道路との区切りがはっきりしている。公園の中には幾つかの遊具もあり、大人が走り回れるくらいには広い。小学校の運動場ほどではないけれど、結構な広さを誇っている。ただ、野球は禁止みたい。近所の家の窓ガラスでも割ったのかな。かみなり親父は今でもいるのだろうか。


 最近は、ゲームやら何やらで、家の中で遊ぶ子供が多いらしいけれど、風の子もしっかりと存在している。少し前の夕方ごろ、コンビニに向かう途中でこの公園にさしかかり、走り回っている子供たちを見かけたのだ。鬼ごっこでもしていたのか、無邪気な笑顔で走っていた。


 記憶を思い出しているうちに、公園に着く。

 公園の名前は【階樹かいき公園】。レンガ塀でできた入り口に、同じ名前が書かれた鉄のプレートが埋め込まれている。名前の由来は、知らない。階段の樹? かいき、貝…、何か思い出せそうな気がするが…何だっけ? 


 まぁいいか。

 よく見れば、入り口から少し離れた所に掲示板がある。近所であったことや標語、注意喚起の張り紙などがしてあるみたい。暇なので見てみよう。





◯階樹公園掲示板


・公園利用者の皆様へ

 当公園において、野球は禁止されております。もし野球をしている方を見かけましたら、注意してください。

 

・八月の標語

 朝が来た。忘れるべからず、朝ごはん。

 太陽光も浴びてゆくべし。


・不審者情報

 八月初め、小学校付近で不審な人物が目撃されております。保護者の方はお子さんに注意喚起をお願いします。





 今は、三つほどしか張り紙が無かったのですぐに読み終わってしまった。 

 野球はやっぱり禁止されているみたい。掲示板にも張り出すことで、知らなかったという言い訳を防ぐつもりだろう。まぁ、それでもやってしまう奴がいるから注意してあげましょう、ということか。


 墨で書かれた標語は、何だか私へ喧嘩を売っているように感じる。普通の人間は日光に当たらないと精神が不安定になるらしいから、それを心配しているのだろうか。この標語を考えた奴は、最初に「早寝早起き朝ごはん」を思いついて、それではひねりが無いからと改変したのだろう。私からすれば、改変というより改悪な気がしないでもない。それと、世間的には夏休みの時期だから、子供たちに向けて書いたのだろうが、ちょっと命令口調が強すぎる気もする。


 そして最後の不審者情報。やっぱりそういう人間がいるのか。業が……深いな。対象が幼いのは病気です。物語では、ギャグやキャラづくりでそっちの要素を持つキャラクターがよく出てくるけれど、現実で実際に対面するとなると、ちょっと恐いと思う。訂正、ちょっとじゃなくて、とても恐い。私の今の容姿もアレなので、決して他人事ではない。


 こういう張り紙を見る時、私はいつも可亞徒べあどさんを思い出してしまう。

 可亞徒さんはバックベアードという妖怪だ。通常時は、黒い球体に大きな一つ目を持った姿をしている。でも、たまに人型になって町をうろついてるみたい。


 以前、この公園で子供と楽しそうにふれあっているのを見たことがある。あれは相当な子供好きだろう。可亞徒さんに「子供が襲われている」などと言った日には、血眼になって奴らを探し出し、制裁を下すだろう。容易に目に浮かぶ。


 不審者が出ているという情報を、可亞徒さんは知っているのだろうか? 今度会った時に話してみよう。


 掲示板も見終わったので、チラリと公園内を見ることにした。見ると言っても、入り口から中の様子を伺うくらいの簡単なものだ。幸いにして、私は目も良いし夜目も効くので、入り口からでもちゃんと園内が見えている。


「にゃーお」

「うん?」


 今、猫さんの鳴き声が聞こえた気がする。


「うなーお」


 ほら、確かに聞こえた。さっきの子とは違う鳴き声だ。

 私は鳴き声のする方へ目を凝らした。すると、そこには十匹くらいの猫さんたちがいるではないか!  思わず鼻息が荒くなってしまう。鼓動も心なしか速い。

 今の私が近付くと逃げてしまうかもしれないので、ここから様子を見てみよう。


「にゃん」

「にゃーお」

「にゃーおん」

「にゃー、うなーお」

「にゃー、にゃーお、にゃーん」

「うにゃーお、うなー」

「なーお、なーおん」

「にゃーお」

「にゃにゃー」

「にゃーご。にゃーおん」

「「「「「「「「「「にゃーおん」」」」」」」」」」


 あら、猫さんたちの夜の集会はもう終わってしまったみたい。残念、もう少しあの可愛い声を聞いていたかったのに。最後に一斉に鳴いたのが、閉会の合言葉だったのだろう。猫語は分からないけれど。


 集会が終わると、猫さんたちは、それぞれ別の方向に向かって歩いていった。その内の二匹が私の横をすり抜けるようにして去っていく。ふりふり揺れる尻尾がとてもキュートだ。あぁ、あの尻尾をしゅっしゅっと扱きたい。喉を優しく掻いて、リラックスさせてあげたい。

 そんな風に考えている間に、猫さんたちは遠ざかっていく。仕方ない。間近で彼らの姿を見れただけでも満足しよう。


 見えなくなるまで猫さんたちを見送った後、再び園内に目を戻す。特にこれといった異常はない。家無き子も、家を失いし者もいないみたいだし、ここは大丈夫だろう。孤独なダンボール戦士は、ここにいない。


 ブランコがキーコキーコと揺れているが、何も見えないので風のせいだろう。

 誰もいない空間を見つめる趣味はないので、私は移動することにした。

 次はコンビニだな。


◯猫語翻訳


「にゃーお」(何か人っぽい匂いがしない?)

「うん?」


「うなーお」(そういえば)


「にゃん」(あっちに誰かいるみたいだよ)

「にゃーお」(どうする?)

「にゃーおん」(集会は見られない方がいいんでしょう?)

「にゃー、うなーお」(そうだな、今夜はやめとくか)

「にゃー、にゃーお、にゃーん」(いや、一度解散して、もう一度集まればいいんじゃない?)

「うにゃーお、うなー」(そうすれば、どこかへ去っていくだろう)

「なーお、なーおん」(そうだな、そうしようか)

「にゃーお」(ではそういうことで)

「にゃにゃー」(異議なし)

「にゃーご。にゃーおん」(では、解散したのちもう一度集合ということで。猫又様のご加護があらんことを)

「「「「「「「「「「にゃーおん」」」」」」」」」」(猫又様のご加護があらんことを)

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