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吸血鬼、月子さんの日常(仮)  作者: 半信半疑
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1 寝起きの吸血鬼

 夜。

 目が覚めると、既に太陽は沈んでいた。カーテンの外から光が漏れてこない。輝きは失われ、辺りには闇が満ちている。室内は電気を点けていないから暗い。

 ベットに沈めていた身体を起こし、欠伸を右手で隠しながら、大きく背伸びをする。筋肉が伸びて気持ちが良い。


 周りを見渡すと、いつもの私の部屋だった。現在私が根城にしている、マンションの一室。趣味でいっぱいの部屋。部屋のいたる所に、ラノベや漫画やフィギュアやCDなどなど。ちなみに、私はラノベだけを読むわけではない。一般文芸も好きだよ。


 いつもの部屋で、いつも通りの起床。見知らぬ天井の下で起きるという事は無かったようだ。まぁ、昨日は化物仲間との飲み会とか、気に入っている絵師さんの同人誌即売会とか、別に何にも無かった。ので、自分の部屋で起きるのは、当たり前のことなのだけれど。


 部屋の明かりを点けて、壁の時計を見ると八時過ぎ。よく寝たので、体の調子も良い。私は夜型なのだ。


 しかし、寝起きなので、咽喉が少しだけイガイガする。部屋を出て真向かいの洗面所に行き、うがいをすることにした。

 蛇口を捻ってコップに水を溜め、いざうがいをしようとなった時に、自分の姿が鏡に映ってしまった。背が低くて、少しばかり憂鬱になった…。

 鏡から目を逸らし、口に含んだ水をぺッと吐き出すと、不快感はいくらかマシになった。と、同時に咽喉が乾いた。すぐさま咽喉を潤したい。


 洗面所から離れて、台所近くの冷蔵庫の前に移動する。冷蔵庫は最新式らしいがよく分からない。チルドがどうとか野菜室がどうとか言っていた気もするが、そこまで気になるものでもない。重要なのは、私の背よりも高いので、上にある物は椅子を使わなければならない、ということ。重要というよりも…くやしい。


 この世界での私の身長は、魔力依存のもとで成り立っている。身体構成物質に魔力が含まれているので、自然とそうなる。魔力は空気中に溶け込んでいるけれど、昼間は魔力濃度が低くて辛い。ラノベの世界みたいにもっと魔力があってもいいと思う。


 渇望しつつ、冷蔵庫の扉を開けると、そこにあるのはたくさんの缶。中身は全部トマトジュースだ。トマトのジュースだ。大事なことだから二回言った。


 背伸びして、手の近くにあるものを一つ手に取り、プルタブを押し上げると、カシュッと音が鳴った。一気に飲むのは勿体無いから、一口一口味わうようにして飲む。

 あぁ、すごく、美味しいです。


 知り合いからは、ペットボトルサイズの方が捨てる時の手間が少なくて良いと言われた。掛かる費用も安くなるだろう、とも。けれど、あっちだと際限なく飲みそうだったので、私は缶に入っているものを購入している。一日一本、血液サラサラ。


 トマトジュースは、私の中で好きなものに分類されているけれど、トマトそのものは苦手だ。中身の、あの、ぐじゅぐじゅした感じがちょっと受け入れ難い。まぁ、飲み物になるまですり潰されていれば大丈夫だ。味は嫌いじゃないし。


 缶一本飲み終わると、中身を水でゆすぎ、飲み口を下にして流し台に置いておく。綺麗にして捨てないと怒られてしまうから。まぁ、それが人の世のマナーだというのだから仕方ない。マナーは大事だ。うん。面倒だけど。


 マナーと言えば、昔、一緒に酒盛りしていた仲間に好物を横取りされてキレた奴がいた。あの時の彼の顔は、私でも恐ろしいと感じたほどだ。日本の妖怪は、キレると恐い奴が多い気がする。ストレス溜めすぎなんじゃないだろうか。お国柄かもね。


 思い出から意識を戻し、時計を見ると八時半過ぎ。飲み干すのに三十分近くかかってしまった。やはり、トマトジュースを飲む時は時間の感覚が変になるな。


 潤いを得てひと心地ついた。お肌もツヤツヤ。気分も上々。

 キッチンのテーブルに置いていたテレビのリモコンを手に取り、ソファで横になる。まるで休日のサラリーマンのようにだらっとしながら、テレビの電源を点けると、お笑い番組が放送されていた。芸人さんは博多の二人組だった。私の好きな芸人さんだ。

 二人の漫才が終わった後、たまたま観覧席にカメラが向けられたが、その時に青白い影が端の方に映っていて、やっぱり死んでからも笑いたくなる時があるんだなと思った。


 そのままチャンネルを変えずにぼうっと眺めつつ、たまに笑いながら贅沢な時間の使い方をしていると、近くにあったスマホが鳴った。魔王のメロディが流れたので、電話だ。誰からだろう。


「もしもし」

『あぁ、もしもし、月子? 私だけど』

「…詐欺の人?」

『違うよ! 私だよ! わ・た・し‼ というか、着信で表示されるでしょう?』

「はいはい、渚ね。で、どうしたの?」


 渚は、人間の知り合いだ。このマンションに住めるのは彼女のおかげだ。その他にも、色々と手助けしてくれるので助かっている。私にとって、某青狸型(いや、猫型か?)ロボット的存在。私は眼鏡をかけていないけれど。


『あっさりしすぎぃ…。まぁ、いいわ。今日、あなた当番でしょう? 忘れていないかと思って電話したの』

「あぁ、見回りね。今日だったっけ?」


 すっかり忘れていたが、マンションに住む一部の者は、夜に見回りをしなければならない。もっとも、治安維持というよりは、私たち化物に必要だから見回りをしているというのが本音だ。夜は空気中の魔力濃度が高まるからね。

 さっき少し言ったけれど、昼間は薄すぎるのよ。それでも活動できる奴らはいるんだけれど…。


『もう。この前順番を決めたでしょう? 普通の日に自由散策するのは良いわ、禁止しない。でも、見回りの日は少しだけ治安維持を意識して外に出てほしいって言ったわよね。 …覚えてる?』

「うーん、覚えてる」

『その反応は覚えていない者のそれよ。はぁ、まぁいいわ。とにかく、今日はあなたの番だから、忘れずに見回りして頂戴ね。何かあったら連絡して』

「りょーかい」


 それじゃ、と言って、渚は通話を切った。スマホからは、途切れたことを知らせる電子音が空しく響いている。

 面倒くさいけれど、見回りをしなければならない。まぁ、こうやってマンションで悠々自適に暮らすことができるのも渚のおかげだ。少しは彼女の役に立たないと。


「よっこいせ」


 私は、重い腰を上げた。

 ソファが恋しいけれど、外出の為に準備を始めた。

<キャラクター情報>

・月子さんは、トマトジュースとお笑いが好き。

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