11 おかゆ、うま
「う、うーん」
目が覚めると、見知らぬ天井が目に入った。あの名言を言うべきだろうか。
「いや、ここはマンションの部屋か…」
特徴的な文様が刻まれているので、私が住んでいるマンションであることは間違いない。「トレース・オン」と言ったら、武器を複製することができるかもしれない。
天井から視線を動かし、辺りを見渡す。
私の部屋じゃないみたいだ。誰の部屋だろう?
どうやら私は、布団で寝かされているみたいだ。羽毛は、私の体をふんわりと受け止めてくれている。
回想シーンを脳内で再生。
最後に覚えているのは、自分の部屋にたどり着く前に倒れてしまったところまで。おそらく、この部屋の主が運んで寝かせてくれたのだろう。きっと素晴らしい方に違いない。具体的には、茶髪ポニテのメイドさんのイメージが湧く。
というか、たぶんここは不羅宇の部屋だ。見覚えがあるんだもの(みつ◯)。
以前DVDを貸しに来た時に、見た気がする。
「そうか…、不羅宇に助けてもらえたのか…」
変態とかじゃなくて良かった。
安心したら、自分の体調がそこまで良くないことに気づいた。まだ風邪が猛威を振るっているのだろう。いかに吸血鬼と言えど、アロンαのような回復力はない。いや、一部の者は異常な回復力があるけれど、奴らは例外だ。
そうやって熱に浮かされた頭で思考していると、部屋のドアが開いた。
メイド服を着た不羅宇だった。いつも見ても癒しだ。癒しの不羅宇だ。
でも、今はその癒しの君の顔が曇っている。
分かっている。彼女に心配かけてしまったようで、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「目が覚めましたか?」
「うん。えっと、ありがとう。不羅宇が運んでくれたんだよね?」
「えぇ。丁度、私の目の前で倒れられたので、そのまま私の部屋に運びました」
そうだったのか。不羅宇の目の前で…。
ちょっと恥ずかしいな。
「本当にびっくりしたんですからね? 新手のスタンド使いによる攻撃かと疑ったほどです」
お小言が続くかと思ったら、ネタをぶっこんでくれた。私の表情が暗かったのかもしれない。気を遣わせちゃったかな? でも、こういう時に会話を明るくしてくれるなんて、不羅宇は本当にできた人だ。いや、妖精か。
だから私も、素直に流れにのっかった。
「あぁ、DVD見てくれたんだ」
「えぇ、面白かったです。続きがあればまたお借りしたいくらいに」
「それは良かった」
布教は大切だからね。
「新規ファン獲得か」なんて喜んでいると、不羅宇の顔がちょっと怖くなった。な、何を言われるんだろう。
「それよりも、月子さんに言いたいことがあります」
「な、何かな?」
「月子さんは、きちんとご飯は食べているのですか? 風邪をひくなんてよほどですよ?」
ぎっくり。腰はやられていないけれど、どこからかそんな音が聞こえた気がした。
日頃の生活習慣を把握されているから、そこから推測したのかな。
とりあえずの精神で反論してみる。
「も、もちろん食べているともさ。もりもり食べてるよ」
もぎもぎしたらもぐもぐするレベル。
「それじゃあ、あれですね。ゲームなどに熱中しすぎて睡眠時間を削ったりしてますね?」
「む、むむ」
「『むむ』じゃありません。しっかり寝ないから風邪をひいたりするんですよ?」
何となくそうだろうなとは思ってたけれど、他人からはっきり言われるとそれしかないと思ってしまうなぁ。
「今日みたいに倒れることもあるんですから、気を付けてくださいね」
「う、うん。心配してくれてありがとう」
「わ、分かってくれればいいんです。
ところで、お腹は空いていますか? おかゆを用意したのですが…」
「本当? 実はちょっとお腹空いていてね」
「食欲があるのなら良かったです。では持ってきますね」
そう言うと、不羅宇は部屋から出て行った。が、少し待つと、茶碗に盛られたおかゆを持ってやってきた。
ほかほかと湯気が立っている。
「お待たせしました」
「ありがとう」
それからゆっくりとおかゆを食べた。たまごがゆだった。鰹節がふりかけてあった。
さすがは不羅宇といったところで、おかゆがとても美味しくて、おかわりをしてしまった。不羅宇は笑ってくれた。So cute!
おかゆを食べ終わると、不羅宇が優しい声で一つの提案をしてくれた。
「風邪がしっかり完治するまでは、私のところで過ごしてください。月子さんが心配ですから」
そう言われると弱い。私の身を案じて提案してくれているのだ。それを蹴るなんてできるはずもなく、しばらく厄介になることにした。
▼△▼△▼
その後、汗を拭いたり着替え(不羅宇のもの)をしたりして、今日はすぐに寝ることになった。
不羅宇がお母さんのように見えて、ちょっと面白かった。
額に冷えピタを貼り、準備万端。
電気を消して眠りにつく。豆電球の小さな明かりが、静かに宙に浮かんでいた。
「おやすみなさい、月子さん」
「おやすみ、不羅宇」
何となく、今日は良い夢が見れそうだ。
熱でぼんやりとしながら、そう思った。
<月子さんが買い物した商品についての会話>
不羅宇「買い物袋の中にあった品は冷蔵庫に入れていますから、安心してください」
月 子「いやー、手間かけさせてすまないねぇ」
おわりんこ。