10 ヤムチャしやがって・・・
月子さん以外の視点ありです。
どうにかこうにかマンションの敷地内までたどり着いた。ここまで長かった。実際はそんなに長い童貞、失礼、道程じゃなかったはずなのに。
足は重いし頭は痛いしで、散々な気分だ。外を歩いているうちに悪化したのかもしれない。こんなことなら家で大人しく寝ていれば良かった。
誰だ、コンビニに行こうとか言いだした奴は!
……私か!
正確には声に出していないけれども! 思っただけだけれども!
いかん。興奮したら更に悪化したみたいだ。パターン青、酷い風邪です。
あぁ、もう、意識が……。
結果。
私はとうとう倒れてしまった。伝説の幼兵のごとく、奥義『地球大好き』を発動させている(別名は『ヤムチャしやがって…』)。
マンションのエントランスで、戦えるモンスターもおらず、目の前が真っ白になってしまった。お金、落としていないと良いな……。
▼△▼△▼
私用でマンションから離れているうちに、日が沈んでしまいました。
可亜徒さんと協力して町のお掃除をしていたのですが、中々綺麗にならなかったのです。
まぁ、こればかりは、どうしても時間をかける必要があります。すぐに解決するものではないので、もどかしいものがありますが。
それよりも今はマンション管理です。渚なぎさ様から頂いた腕時計を見ると、七時半を過ぎて八時に近づきつつあります。これは早く帰らなければいけませんね。マンションに住まわれている方々は、夜の方が行動を活発になさいますし、注意しておかなければなりませんから。
足早にマンションへ向かうと、エントランスで見知った人を発見しました。いえ、彼女は吸血鬼ですが。
「おや? あそこにいるのは月子さんでしょうか?」
ポニーテールにしていますが、あの後ろ姿は月子さんで間違いありません。今日は、お外に出たのですね。
ちらりと見えた耳元に、白い線のようなものがあったので、マスクをしているのでしょうか?
最近の女性は、風邪をひいていなくてもマスクを付ける人が多いですから、それにのっかっているのかもしれません。
少しお話でもしようと、私は後ろから彼女に呼び掛けてみました。
「月子さーん」
と同時に、月子さんが倒れてしまいました!
い、いったい何が起こったのでしょうか? 新手のスタンド使いがいたりして?
辺りを見渡しても、私たち以外に誰もいません。魔力を探っても、マンション内に住民の方々がいるだけで、不審な点は見当たりませんでした。
「と、そんなことよりも、今は月子さんです」
走って彼女の元に近寄ります。
見ると、月子さんは目をつぶって倒れていました。白目はむいていません。
「月子さん、大丈夫ですか?」
声をかけても、反応がありません。気を失っているのでしょう。
月子さんのお顔を見ると、頬がやや赤い気がします。私は右手を彼女の額に当てました。
「熱い。これは、風邪でしょうね…」
もう、月子さんったら、風邪なのに外に出るなんて…。体調が万全の時は外に出ないのに、こういう時に限って外出なさるんですから。まったくもう!
「このままではさらに悪化してしまいます。移動しましょう」
私は、月子さんをおんぶしました。
「軽いですね…」
月子さんの体重がやけに軽かったので、思わず呟いてしまいました。月子さんのことですから、ゲームなどに熱中して、きちんとご飯を食べていないのかもしれません。そのせいで風邪をひいたのでしょう。睡眠不足も原因かもしれません。ちょっと注意しておかなければいけませんね。
私は月子さんに言うべきことを考えながら、自室に向かって歩き始めました。