災害級・A級モンスター
俺は女の子二人に案内されている最中だ。羨ましかろう。ふひょひょ。左を見ると、金髪のナイスバディのかわいこちゃん。右を見ると銀髪の大人しめだけど、むっちりとした体の巨乳ちゃん。こんな、可愛い子二人に囲まれて、天国かな? と間違うほどだ。……天国、じゃねえよな? ここ。
「ところで、どこに行くんだ?」
「えっと、まずはギルドへ案内しようと思います」
「ギルド? どういうところなの?」
「ギルドってのは、冒険者達の管理とか、クエストの発注とか、騎士団とか……色々あるんですけど、組合みたいなもんですね」
その辺は、ソシャゲのギルドみたいなもんと大差ないのかな。ギルドを経由して仕事の依頼を受けて、目的を達成すればそれに見合っただけの報酬が得られると。おそらく、ギルドに対しても手数料とか、仲介料を取られるんだろうけど。でないと、運営が成り立たないだろうしな。
「なるほど。取り敢えず、俺の名前をギルドに登録しておいた方がいいってことか」
「そういうことね。もうすぐ到着するから、手続きをちゃっちゃと済ませましょ」
しばらくして。俺はギルド本部に到着した。でけー。マジ、でけー。何坪あるんだろってぐらい、広大だった。さすが、本部……こんな巨大な組織だとは思っていなかった。
いかん。なんか、緊張してきたぞ。落ち着け。深呼吸だ。すーはー、すーはー。よしっ!
行くぞっ!
勢い良く、ドアを開ける俺。そこには、冒険者達がひしめき合っていた。すげえ人の数……これ、全員が冒険者かよ。とんでもねえな。
「びっくりした? ま、全部が冒険者ってわけでもないんだけどね。騎士団の人とか、調査団とか、役所の人とか、色々いるし。私も初めて都会に出た時はびっくりしたなぁ」
「ふふ、リリィったら。あたふたしてたもんね」
「ちょ。サーシャ! 言わないでよ! 貴方だって、びっくりしてたじゃない!」
「そうだったかしら?」
「もーっ!」
中の良さそうな二人だ。微笑ましい。さて、登録手続きをしてくるか。
「じゃ、俺はギルドに登録をしてくるから。二人はここで待っててよ」
「いいえ、私達もご一緒します」
「え? まあ、いいけど……」
何故か、二人もついてくるらしい。手続きの仕方とか、よくわからんし。二人に聞けば早いか。
そうして、俺は淡々と手続きを済ましていった。
「はい。これで、ギルドへの登録手続きは完了しました。今後、どこのギルドへ行ってもクエストの受注や、仕事等、様々なことを引き受けることが出来ますよ」
「ありがとうございます。よし……これで、俺も冒険者の一員かぁ……くー、やったぜ!」
「あのー、さっそくで悪いのですが。引き受けて貰いたいクエストがあるんですよ」
「え?」
申し訳なさそうな顔をしたサーシャが、俺に向かって一枚の紙を手渡して来た。
どれどれ……村に住み着いたヴァンパイアの退治……報酬、5千ジェム……なんだこれ。
「えーと……」
「ごめんっ! 騙すような真似をして! 実は、私達。隣町のはずれにある村に住んでいるんだけど……そこにヴァンパイアが住み着いちゃって。村の女の子達が次々に被害にあってるの! なんとかしたくて……でも、お金も全然なくて……誰も引き受けてくれなくて……それで……ううっ」
リリィは涙目になっていた。そう言われても、な……ヴァンパイアってどれぐらいの存在なんだ? そもそも……危険なのか? この、報酬5千ジェムってのも、どれぐらいかさっぱりわからんし。どうしろと……。
「お願いします! コタロー様! 私たちを助けてください! なんでもしますからっ!」
そういって、頭を下げるサーシャ。なんでも? 今、なんでもと言ったか?
なんでもということは……彼女達の体を、あんなことやこんなことで……ぐふふふっ。じゅる……はっ、いかん。何を考えているんだ、俺は!
けど、お礼にハグとか、き、キスぐらい……ほら、ほっぺにちゅっ。ぐらいなら……!
「わかった。引き受けるよ」
キリッ。
「本当ですかっ! ありがとうございますっ!」
「よかった! コタローなら、そう言ってくれると思ってた!」
そういって、手を取り合う俺ら。うーん、あったけえ。やわらけー。最高ー。
「女の子の悲しむ顔なんて、見てられないからな。村まで案内してくれ」
「うんっ、わかった!」
なんか、勢いに押されて引き受けちゃったけど、よかったんだろうか。
そういって、ギルドの外に出ようとした時。
『聞いたか。おい。またヴァンパイアの討伐に失敗したらしいぞ』
『聞いた聞いた。なんでも、ヴァンパイアの王が近くの村を襲ってるらしい。騎士団が討伐に向かったが、返り討ちにされたらしいぜ』
ん? は? 今、なんつった? ヴァンパイア? 騎士団? おいおい……俺が引き受けた案件と瓜二つなんですけど!
「その話、詳しく聞かせて下さいっ!」
「ああ? なんだ、このガキ……調査兵団の報告を受けて討伐に向かった騎士団の一員が全滅したって報告がさっき入ったんだよ」
「ぜ、全滅……騎士団が?」
「そうだ」
おいおいおいおい。なんだ、そりゃ! おかしいだろ! ちょっとまて! 騎士団って、戦闘のプロ集団だろ? そんな連中が、討伐に失敗して全滅するような奴と戦えってのか! マジで!? 冗談だろ!
「あの、この報酬の5千ジェムってどれぐらいなもんなんですかね……」
「あぁん? ったく……ヴァンパイアの討伐報酬、5千って……桁が三つか四つ間違えてるぞ、これ。ヴァンパイアつったら、『災害級』認定されている、A級モンスターだぞ。こんな額で引き受ける奴がいるわけねーだろ」
「あ、そ、そうなんですか……どうも」
……。えーと。
俺は、そそくさとその場を立ち去ろうとした……が。
「どこへ行かれるのですか? コタロー様」
「私たちの村はあっちよ。ちゃんと、ついてきてね♪」
その先に、立ちはだかる二人の姿があった。
「お、おいっ! ちょっとまてぇ! お前ら、さっきの連中の話、聞いてたのかよ! なんだよ、『災害級』って! 報酬量も桁が違うって! そう言ってたじゃねーか!」
二人はにっこりと笑みを浮かべたままだ。怖い。
「でも、引き受けて下さりましたよね?」
「男なら、一度引き受けた依頼を断るなんて……野暮な真似をしないわよね?」
「い、いや……でもな。ほら、俺! さっきこの町についたばっかりだし! レベル1だし!」
「その剣があれば、きっと大丈夫よ」
「いやいやいや! むりだろっ!」
「それにぃ~、ヴァンパイアを退治してくれたらぁ……私たちが、な・ん・で・も・してあげるのよぉ?」
そういって、俺に抱きついてくるリリィ。うわ、いい匂い……じゃなくて!
胸があたっ、あたるっ……! 当たって……ふぉあああーーーーー!
「引き受けてくれるのね!」
「……もう、どうにでもなれだ」
くそ、俺の欲望。なんで、静まらないんだー! あんな女子の誘惑に負けるなんて! 負けるに、決まってんだろー! 俺は男なんだぁあああああああ!
もはや、ヤケクソだった。
こうして、俺の初クエストは『災害級』Aランク・ヴァンパイア討伐となるのであった。