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屈辱

 俺たちは地下にある訓練場に向かう途中だった。

 その途中で売店を見つけたので、少し立ち寄ったんだけど。


「お、主よ。ガチャがあるぞ」

「そうだな。引いてみるか?」

「では、主から引くがよい」


 それじゃ、お言葉に甘えさせて貰うとするか。さーて、何が出るかな……また、レジェンドレアが出たりして……二度あることは三度あるっていうしなー。いやー、楽しみだなー。


 そう思って、ガチャを引いた。

 結果は──。


「……Rの防具」

「なんじゃ、しょぼいのう」

「はは、まあこんなこともあるさ」


 ま、当然だよな。そんな都合よく毎回、レジェンドレアが出るわけないし……。

「なあ、ネウも──」

 その瞬間だった。



『──お前の運は、ここまでだ』



 ──ぞくり、と。した。


 なんだ、今の……。悪寒が……。声……? なんだ、一体。気の所為、なのか?

 横にいるネウの顔を覗き込む。表情は変わっていない。何かを感じたわけでもない。

 俺だけ?


「どうした? 主よ。結果が悪かったからと、そんなにめげることあるまい。どれ、儂が引いてやろう」

 ネウはガチャを回す。すると。

 ガチャ台は虹色の輝きを増した。まさか。


「おぉ、ついにレジェンド・レアが出たぞ! かかかかっ! どうじゃ、儂の運は?」


 ネウに、レジェンド・レアが出た。たしかに、ネウの運の高さを考えれば当たり前だ。むしろ、今まで連発でレジェンドレアを出していた俺がおかしかったのだ。


 おかしかった? じゃあ、なんだ。

 もしかして──誰かに、



 意 図 的 に 引 か さ れ て い た ?



「ははっ……」

 まさかね。そんなわけ、ないだろ。じゃあ、さっきの声はなんだ。いかん。落ち着け。タイミングの悪さだ。最悪のタイミングで変な声が聞こえて来たから、動揺しているんだ。


「よ、よし。俺も、もう一回引くわ……」

「ん? そうか」


 ネウにどいて貰って、もう一度、ガチャを回す……当たれ!

 しかし、結果はまたもやRの装備だった。


「ネウ、悪いんだが……金を貸してくれないか」

「なんじゃ、女に金を借りるのは嫌なんじゃなかったのか?」

「いいから、頼むよ」

「? 仕方ないのう……」


 今度は一気に十連出来る方を選択した。

 しかし……結果は全てNとR。SRすら、出なかった。


「……」

「ふむ……随分と、ついてないのう。主」


 偶然、なのか? 本当に? いや、SRの確率だって相当低い。この結果が確率的には、普通のはず、なんだ。

 あの声だけが……どうしても、引っかかる。



『──お前の運は、ここまでだ』



 くそっ! なんだってんだ! ダメだ。落ち着け。考えるな。いいじゃないか。仮に今後、レジェンドレアが出なくったって。すでに剣と服があるんだ。それだけでも、儲けものだろ? そもそも、普通の人じゃ一生かかっても、出ることのない装備を二つも持っていること自体が異常だったんだ。そうだ、そうに違いない。


「ふぅー……」

 深呼吸した。……が、落ち着かない。仕方ない。さっさとこの場を離れるとしよう。

 これ以上、ここにいるとおかしくなりそうだ。


「お、なんじゃ。どんどん出るではないか。ハハッ、見ろ。主よ。儂は全身レジェンド・レア装備になってしもーたぞ。はははっ」


「……」

「あ、主?」


「はっ……」


 いかん。俺はなんて目で、ネウを見ていたんだろう。

 ──憎悪だ。


 紛れもない、憎悪。嫉妬でネウを睨みつけていた。バカか。ネウは、俺の仲間だぞ。

 仲間がレジェンドレア出して、嫉妬? 喜ぶところだろ、そこは!


「はー、はっ……」

「なんじゃ……主よ。なんか、おかしいぞ。お主……何があったのじゃ?」


「なんでも、ない……」

「あっ……」


 俺は逃げ出すように、その場を走り去った。


 ◆ ◇ ◆


 訓練場へとやって来た。今からここで、ナユラと決闘を行うことになっている。

 正直行って、そんな気分になれなかったが、むしろ体を動かすことで気分も晴れるかもしれない。そう思うことにした。


「佐藤小太郎。覚悟はいいか? 全力でかかってこい!」

 ナユラが構えを取る。隙がない。ナユラの戦闘能力は未知数だが、いくつか確認していることがある。

 一つは、光系の上級魔法の使い手だということ。城で見たあの魔法の威力はかなりの物だった。ネウだから、防げたに違いない。


 もう一つは、剣の腕。これもわずかではあるが、この目で見ている。明らかな実力者だ。

 魔法と剣を得意とする職……魔法剣士。恐らく、ナユラは魔法剣士だろう。正直いって、厄介だ。あらゆる面で俺の上位互換の可能性。


 ……まあ、分析はこれぐらいにした方がよさそうだ。まずは、様子を見るべき。

 俺は一歩下がった。


 その瞬間だった。ナユラが突進して来たのは。

 早いっ! 俺の足が動いた瞬間を狙っていた!?


「くっ!」

「はぁっ!」


 ナユラの持つ黒い剣が、俺の剣にぶつかる。物凄い衝撃が走った。

 な、なんて重さだ……早い上に、一撃が重い!


「どうした? かかってこい! 貴様の力は、そんなものか!」

「くそっ!」


 俺は反撃に出た。しかし、軽々と回避される。さらに、剣でいなされる。

 空を切っているようだ。当たる気がしない……ここまで、ここまで差があるのか?

 俺だって、激闘の中、ここまで来たんだ。レベルも上がっている。なのに、どうして?


「こんなものか」

 カチン、と。来た。


「くそぉおおおおおおおおおおおお! シャイニングぅううううう、ブレードォオオオオ!」

 俺は渾身の力をこめて、シャイニング・ブレードを放った。しかし……。


「プロテクション」

「なっ……!」


 ナユラの周りにバリアが展開され、それは簡単に防がれてしまった。

「主よ! 魔法剣士は、高い魔法障壁と魔法抵抗を兼ね備えておる! 魔法での攻撃は不利じゃぞ!」

「余計なことを……」


 ナユラがぼやく。

「ふん、貴様と主では、戦闘経験の差が歴然じゃろうが。これぐらいの補佐はして当然よ」


 ネウ……俺はあんな目で、お前を見たっていうのに……お前ってやつは。

 魔法は通用しない。剣の腕も歴然の差。なら、もう。気迫しかない。

 せめて、一撃でも当てて見せる!


「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!」

 俺は、勢い良くナユラに向かって突きを食らわそうとした。


「甘いな」

「なっ……」


 しかし、ナユラはそれを剣の柄で受け止める。嘘だろ……そんなことが。

 そして、剣を大きく振って俺を吹き飛ばした。


「うあっ!」

「これまでだな」


「……」


 ナユラに剣を突きつけられた俺は……。状況を飲み込めていなかった。

 しばらくして……。ようやく、俺は口を開いた。


「俺の、負けだ……」


 ナユラは剣を鞘に収める。


「貴様は、『装備』に頼りすぎだ」


「!」


「それはお前の力ではない。装備の力だ! お前はあまりにも、装備に頼りすぎている!」

「……」


 何も反論出来なかった。まったくもって、その通りだからだ。

 レジェンド・レアの装備が出て、うかれて、そのまま戦いに参加して。なんだかんだでやって来れてしまった。慢心。わかっていたんだ、そんなこと。でも、思い上がってしまった。


「真の戦士は、装備などに頼りはしない! 己の力を出し切って戦うものだ!」


 耳が痛い。

「お前に一つ教えてやろう」


 俺は、ナユラの顔を見た。

「私の使っていた剣は、Rの『鉄の剣』だ」


「えっ──」


 うそ、だろ……R? 低レアの武器? 冗談だろ? そんな武器で、俺と戦っていたっていうのかよ。それで、あんな早くて、重い攻撃が出来るなんて……そんな、バカな……。


 ステータスの差は歴然のはず……どうして? 何故? わからない……。

 すると、ナユラは俺に向かって鉄の剣を放り投げた。それは、俺のすぐ近くの地面に転がった。ガシャンという音を立てて。


「理解出来ないようだな。ならば、理解しろ。今日からお前は、その剣を使え。レジェンドレアの装備を使用することは一切、許さん!」


「そんな……」


 あんな剣で……どうしろっていうんだ。出来ねえよ……俺には。出来ねえ。

 同じことが出来るわけ、ねえだろ……!


 俺はナユラを睨みつけた。無意識の内に。


「不服そうだな。だが、これは決定事項だ。悔しければ、強くなれ。この一ヶ月で、貴様を強くしてやる」


 俺は──。

 そういって、ナユラは立ち去っていった。

 しかし、それを静止したのは、サーシャ達だった。


「なんだ?」

「あの……私たちにも、特訓をして下さい!」

「何?」


 ナユラは眉を顰める。


「なんていうかさ、ほら。あいつの世話になりっぱなしでいたくないのよ。足手まといになりたくないの。だから……」


 サーシャ、リリィ……あいつら……そんなこと、考えていたのか。


「……」

「「お願いします! 私たちを鍛えて下さい!」」

「……いいだろう。ただし、私の特訓は厳しいぞ。わかっているな?」


「「はいっ!」」


「待て」

 今度は、ネウが割り込んできた。


「今度は、貴様か。なんだ?」

「三人も面倒見ていては、主の成長が遅れるじゃろうが。そこの娘、お主は儂が面倒見てやる。お主には、闇魔法の方が合っておる」


「え? 私、ですか?」

 サーシャは驚いていた。驚いたといえば、ネウが自らあんなこと言い出すなんて、思っても見なかった。


 それだけ、俺が不甲斐なかったのかもしれない。想像以上に、ショックだった。

 俺は……強く、なりたい。そう思った。初めて。


 誰かのためじゃなく、自分自身の為に。胸を張っていられる為に。


「なら、その娘はお前に預ける。今日はこれで、解散だ。特訓は明日から行う。覚悟しておけ」

 今度こそ、ナユラは去っていった。


「大丈夫、コタロー!?」

「あ、ああ……」


 俺は、リリィに起こされて立ち上がる。

 足元を見ると、鉄の剣が転がっていた。


「……」

「あんまり、気にしない方がいいわよ。私は、ほら……あんたのその剣に助けられたんだから……さ」

「……ああ」


 俺は、地面に落ちている鉄の剣を拾った。……重い。真剣の重さと同じだ。とても、片手では振り回せない。

 ナユラは、これをいとも簡単に振り回していた。


 レジェンド・レアの剣がいかに軽かったか、実感している。羽のように軽く、丈夫で、強い。

 それとは、完全に真逆の武器……それが、これ。


「……」

 俺に、扱えるのだろうか?


「それより、お前ら……いいのか? 戦闘訓練だなんて。今後は、俺たちと一緒に戦うってことだぞ?」

「いいのよ。覚悟は出来てるわ。とっくの昔にね」


「はい。私はコタロー様の役に立ちたいんです。もう、見ているだけは、懲り懲りですから……」


 二人共、真剣な目をしていた。全てを覚悟した目。俺とは違う……。

 俺は、まだ……覚悟を決めることが出来ないでいた。


 自分が想像していた世界とは違う……殺し合いの戦場。一度は吹っ切れたはずだった。あの、獣王ベイザスとの戦いで。けど、まだ、楽観視していたんだ。なんとかなるって。


 この『装備』があれば、『死ぬ』ことなんて、ないって……そう、楽観視していた。

 それを、ナユラに全て見抜かれた気がして、ならない。

 だから、こんなにもショックなんだろう。


「コタロー……」

「悪い、部屋に戻らせて貰うわ……」

「うん……わかった」


 戻ろうとするところを、ネウに殴られた。


「いって……! 何するんだよ!」

「この、ばかたれが! 何をうじうじしとるんじゃ! みっともない!」

「あぁっ!?」


「情けないとゆーとるんじゃ! 我が主の癖に! 武器がどうの、装備がどうのと……そんなもん、関係あるまい」


「な……けど、ナユラが言ったことは正しい。俺は装備に、頼りすぎていたんだ……だから」

「だから、どうしたんじゃ」


「えっ──」


「だから、なんじゃというのじゃ。装備に頼って何が悪い。『力』とは、そういうもんじゃ。金、武器、地位、名誉、運、全て『力』じゃ。力は一つではない! 全て力なんじゃ! 力に良いも悪いもない! 頼って何が悪い! よいか、主よ。戦いにおいて、重要なのは『生き延びる』ことじゃ! 死んだらそれまでよ! 生きてさえいれば、何をしたって構わんのじゃ! わかったか、この阿呆!」


「ネウ……」


「ぜぇ、ぜぇ……ったく、あほたれが。あんな陰険剣士の言うことをなんぞ、真に受けてどーする。お主は、お主じゃろうが」


 ネウには、なんていうかな。助けられてばっかりだな。

 俺は、俺……か。そうだな……そうだとも。


 人は急には変われない。なら、俺らしく生きるしか、ねえだろ。

 鉄の剣を握りしめる。やってやるさ。見ていろよ、ナユラ!


 俺は、お前を……超えて見せるっ!


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