精霊王の使者
サンローズの町まで戻って来たが……検問が厳しくなっている。当然か。俺たちの件もあるが、外ではベイザスが暴れているんだ。出入り禁止になっていてもおかしくはない。
「儂に任せておけ」
そうか! インビジブルか! たしかに、あの隠れ蓑を使えば、ここを突破するのは容易いかもしれない。
そうして、町の中へと入ることに成功。さて……リリィ達はどこにいるのだろうか。まあ、普通に考えれば、病院かギルドだろう。ギルド本部には避難所や、救急医療も完備されていたな……ギルドへ向かうか。しかし……お尋ね者の俺たちがギルドに行くのは、色々と問題がありそうで困る。背に腹は代えられないか。行こう。
ギルド本部に到着。やたら騒がしくなっていた。当然か。
「皆さん! 緊急クエストを発注します! 獣王ベイザスとその一味を討伐すること! 成功報酬は活躍に応じて、別途支払います! 冒険者の方は奮って、ご参加下さい!」
なるほど。ま、騎士団と違って冒険者は国の為に動いているわけじゃないしな。こうやって報酬を出すから、戦えってことか。呑気というか……一国の危機なんだから、手ぐらい貸してもいいだろうに。特に、この街で生計立ててる奴なんて。
ま、それはいい。とにかくリリィ達を探そう。この人だかりだ。俺らのこともそこまで目立たないだろう。好都合だ。
避難所に足を踏み入れると、リリィとサーシャの姿を見つけることができた。よかった、無事だったか。
「リリィ、サーシャ」
「コタロー!」
「コタロー様!」
「よかった、無事だったんだな。色々と思うことはあるかもしれないけど、俺たちは今のうちにこの町を出ようと思う。君らはどうする? 残りたいなら……」
「……残らないわよ。わざわざ戻ってきて、私たちを助けてくれたのに、そのお礼もしない内に、別れられるわけ、ないでしょ!」
「私もです。コタロー様についていきます」
「そうか……わかった。ぐずぐずしてられない。脱出しよう!」
その時だった。
「あれ……まさか、コタロー君!?」
やばい、見つかった!? レイラさんか!
「佐藤小太郎!? 貴方、よくここに戻ってこられたわね! 私たちを騙しておいて!」
もう一人、この前の受付嬢もいた。くそ、面倒なことに!
「弁解する気はありません。それではっ!」
「あっ、ちょっと! 待ちなさい! 誰かッ!」
『おい、あれ! 佐藤小太郎じゃねえか! 国王陛下を謀って、報酬を得ようなんざ、とんでもねえ野郎だ!』
『おい、みんな! 集まれ! お尋ね者の佐藤小太郎がいるぞ!』
やばい。ギルド本部だけあって、冒険者や兵士の数が多い……! このままじゃ……。
『誰か、行けよ! やっちまえ!』
『無茶いうんじゃねえよ。あのガキだけなら、いざしらず。横にはあのヴァンパイア・ロードがいるんだぞ? 俺はまだ死にたくねえ』
『お前が行けよ!』
『お前こそ!』
「なんじゃ、ギルドの連中は腰抜けばかりじゃのう……」
ネウは呆れ果てていた。
それより、周囲を囲まれてしまった。連中は誰が仕掛けるかで揉めているようだが……今のうちにどうにか出来ないだろうか。正面突破しかないか……!
その時だった。取り囲まれた周囲にいる人達をかき分けて、現れたのは……。
「コタロー君」
「貴方は……リタさん」
ギルド長だった。
「どうして、ここに戻ってきたのかね?」
「……俺は、俺のすべきことをする為にここへ来ただけです」
「ちょっと! コタローは村を救うために、獣王ベイザスと戦ったのよ!」
リリィは叫んだ。両手を振って、周囲に向かって。
『あん? 本当かよ? また、嘘じゃねえの? そういって、俺たちを騙そうなんてよ!』
リタは真剣な表情で俺だけを見つめてくる。俺も、リタさんから視線を外すことはなかった。
「……そうか。では、何故君はモンスターと行動を共にしている? モンスターと人間が共存出来るとでも思っているのかね」
「はい。そう思っています」
「そこのヴァンパイア・ロードが過去に何をしてきたのか、君は知っているのかね? この国だけではない。世界中の国家が、そのモンスターの被害を受けているのだぞ」
「犯罪者が永久に犯罪者かといえば、そうじゃないでしょう? たしかに、ネウのしてきたことは、許しがたいことかもしれませんが……今はそうじゃない。少なくとも、俺と行動を共にしてから、ネウは一度たりとも、人を殺めたことはありませんよ」
「……君の行く道は、茨の道だぞ」
「わかっています。けど、俺は行きます。誰に何と思われようとも」
もしかしたら、俺がこの世界に飛ばされた理由は……モンスターと人の架け橋になること、かもしれない。なんとなくだが、そう感じた。
「コタロー……お主」
一人の老人が、立ち上がる。
「ワシは……このヴァンパイアによって、大切な家族たちを奪われた。しかし、そのヴァンパイアに村の最後を救われるとは……皮肉なもんじゃの」
「……」
全員が、黙りこくった。
「どいて、くれませんか?」
「それは出来ない。君たちの捕縛命令が国からも出ている」
「今はそんな時じゃないでしょう。国の危機ですよ? 俺たちのことより、獣王ベイザスの相手をするべきじゃないんですか?」
「優先順位はたしかに、ベイザスの方が上だ。だが……だからといって、目の前の君を放置すると私が思うのか?」
ダメだ。話が通じない。こんなことをしている場合じゃないだろうに!
リタの登場で、場の空気が変わってしまった。冒険者全員の統率を取るのには、うってつけの人物。彼女が俺たちの捕獲命令を出せば、ここにいる冒険者達全員を敵に回すことになる! どうしたら……!
『佐藤小太郎!』
「え──」
「ここにいたか。私と戦え!」
あれは……城内で出会った……女騎士の、たしか……侍ジャパン? じゃなくて、ナユラ・サムラ・イジャパーンか。くそ、さらに面倒なことに!
ナユラは周囲を見渡しながら、こちらへと歩いてくる。
「この者の身柄は私が預からせて貰う」
「何を……そんな権限が君にあるのかね? 何者だ?」
「某は、ナユラ・サムラ・イジャパーンだ。ここにいる佐藤小太郎の力を某は見極めなければならぬ。見たところ、一触即発の模様。ここで剣を抜くことは許さん」
『んだぁ、このアマ! いきなり出てきて何言ってやがる! ひっこんでろ!』
『そうだ、そうだ!』
「黙れっ! この紋章が目に入らぬか!」
そういって、紋章を取り出したナユラは、それを突き出す。
「あの紋章は……聖なる守り手の……イルギスの紋章か」
「聖なる守り手って……ミルグ族にだけ許されたマナの木の守護者……!?」
リタの発言に、レイラが驚く。聖なる守り手?
「帝の勅命である! 頭が高い!」
「精霊王の……しかし、こちらも国家罪を引き起こした男を、みすみす引き渡すわけには……」
「その発言は、『教会』を敵に回すということでよろしいな?」
「……」
「……」
睨み合う二人。緊張がこちらにも伝わって来る……。
なんだ、どうなっている? 国家罪の次は、帝だなんだと……もう、わけがわからない。俺はどうなってしまうんだ? 逃げられる状況でもない。
「少しだけ、お待ちを……連絡を取りますので」
そういって、リタは魔法を使って通話を開始した。おそらく、元老院に連絡を入れているのだろう。
「……はい。かしこまりました。そのように。……連絡がついた。佐藤小太郎の身柄を引き渡すそうだ。手続きを行うので、書類にサインをして頂けないだろうか」
「わかった。佐藤小太郎! 逃げるんじゃないぞ!」
正直、逃げたい。が……それは、話を聞いてからでも遅くないだろう。彼女の目的は一体……。背後に、大きな組織がいることだけはわかったが……。
「コタロー、私たち。どうなっちゃうのかしら」
「わからない。けど、ナユラの話を聞いてみてから判断しても遅くないと思う」
「そうね……一応、助けてくれたみたいだし」
「面倒じゃのう。こんなやつら、まとめて消し飛ばせば済むことじゃろうに」
「それはダメだ。争いは争いを生む。そういうのは、最終的手段でないと」
「フン……これだから、人間は嫌いなんじゃ」
俺は、どうやらとてつもなく、大きな出来事に巻き込まれようしているのでは、と。
直感的にそう思ったのだった。




