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真の恐怖と向き合う心

 リリィ達の村に到着した俺たち。幸いにも、まだ無事のようだ。しかし──。

 瞬間、ドラゴンの咆哮が聞こえてきた。


「リリィ!」

「コタロー!? どうして……」

「そんなことはいい! 早く逃げろっ!」


「ダメ! 村には体の不自由な、子供や老人が沢山いるの! 助けないと!」

「そんなこと言ったって……」


「もう、無理じゃな。来よったぞ」

 竜のブレスが一斉に、村に向かって飛んで来た! まずい!


「リリィ、避けろ!」

「えっ──」


 くそ、間に合えっ!

「シャイニング、ブレード!」


 この前に使った光の波動のことだ。何か、スキル名みたいなものをつけて置いたほうが、イメージしやすい為、発動しやすくなるってことだ。

 光の波動を持って、リリィに向かっていたブレスを吹き飛ばすことに成功する。

 その間に、リリィに駆け寄る。


「無事か!」

「え、ええ……ありがとう。コタロー」


『フン、虫けらどもが……まとめて消し飛ばしてくれるわ!』

「いかん!」


 ネウは俺たちの下に駆け寄る。その時だった、上空からドスのきいた声が響き渡って来たのは。これは……まさか!

 俺は上空を見上げる。すると、ベイザスが詠唱を開始していた。


『我が命ずるは、怒りの炎。全てを焦土と化す、炎よ。来たれ。深淵の中より、我が盟約に従い、その力を解き放て──』


 ネウは、真剣な表情で上を見つめながら、詠唱を開始。


「聖杯よ。我が血を持って、ここに盟約を結べ。そして、我が生命に息吹を与え、祝福せよ。契約に従い、いでよ! 円卓の守り手よ!」


『メキド・ノヴァ!』

『ブラッディー・プロテクション!』


 お互いの詠唱はほぼ同時。大量の巨大な火球が天空から降り注いた。

 そして、ネウの手から大きな赤いシールドが発生する。


「くっ……!」

『ほぉ……我が魔法を防ぐか。この魔力、人間ではあるまい。どうやら、そちらの狩りの邪魔でもしてしまったか? ククッ……許すがいい。我に敵対心はない』


「調子に乗りよって……この若造がぁ!」

「む、村が……い、いやぁあああああああああ!」


 獣王ベイザスの魔法は凄まじく。ネウのシールド範囲以外は、地形が変化するほどの衝撃と熱量を受けていた……ようするに、壊滅状態だ。


 それを見たリリィが、悲鳴を上げたってこと。何を俺はこんな冷静でいられるのだろうか。他人事だからか? いや……案外、頭が本当に真っ白になると、何も考えられなくなって、静観するしかなくなるのだろう。よくみると、手が震えてるじゃねえか。


 だらしねえ。けど、当たり前だろ。なんだこれは。周り一帯が火の海だ。地面は崩壊してるし、周りから泣き叫ぶ声も聞こえて来た。そして、遠くから馬の足音が聞こえてくる。


 おそらく、騎士団の連中だろう。おせーよ。もう、終わっちまった。村の連中は……ほとんど、全滅だ。俺は何も出来てねえ。ネウに任せっきり。


 しょうがねえだろ……想定してねーよ、こんなの。これが、本当の……地獄。

 生死をかけた戦いですらない。ただの一方的な、殺戮だ。


「これは……む、あれは……手配中の! まさか、ベイザスと手を組んだのか! おのれ!」

「ハハッ……」


 こいつは傑作だ。あのバケモンと俺たちが手を組んだように、見えるらしい。バカが!

 こんなんだから、人間って奴は……!


「コタロー様」

 ちくしょう……体が、動かねえ! 動け、動けよ! 立ち止まってる場合かよ!


「コタロー様!」

「はっ……!」


 振り向くと、そこにはサーシャがいた。真剣な眼差しで、こちらを見ていた。

「しっかりして下さい。私たちには、まだ、出来ることがあるはずです」

「出来る……こと」


「村は……救うことが出来ませんでしたが……まだ、町の人たちは無事です。彼らを助けるのが、コタロー様のやるべきことではないんですか」


「!」


 サーシャ……君の方が、辛いはずなのに。村が全滅して、気丈に振る舞って……そうだ、俺は人間だ。人だ。たとえ、犯罪者のレッテルを貼られたからといって、こんな状態を見過ごしていいはずがない! 俺なら、出来るはずだ。


 俺には、この装備がある。力がある。仲間もいる。なら、やるべきことは、たった一つだろうがっ!!


「サーシャ! 君は、リリィと一緒に残された人たちの避難を!」

「はいっ!」


「ネウっ!」

「わかっておるわっ!」


 瞬間、ネウは飛んだ。ドラゴンの密集する場所へ。そして、手に入れたウルトラ・レアの武器で、竜の首を跳ね飛ばしていった。凄い……!

 俺は剣を強く握りしめる。震えは止まった。行ける……!


「うぉおおおおおおおおおおっ!」

 俺は走り出した。地上に降下して来た竜たちを倒す為に。


「パワァアアアアアア、スラァアアアアアアシュッ!」


 俺はドラゴンの首目掛けて、攻撃を行う。すると、ドラゴンは腕でそれをガードしようとする。その腕ごと、俺は、両断した。


「グガァアアアアア!」

 ドラゴンが吠える。瞬間、俺は目を見開いた。ヤバイッ! 直感的に、そう感じた。

 瞬間、ドラゴンのブレスが俺の顔目掛けて飛んでくる。それは、直撃し、俺は後ろへ吹き飛ばされた。


「ぐあっ!」


 しかし、俺の顔は無傷だった。どうして?

 そうか……この防具。大英雄の服のおかげか。これには、全てのダメージを50%軽減する効果に加えて、ブレス耐性・極までついている。また、レジェンド・レア装備に助けられちまったな。だが、これなら!


 その時だった。弓矢がこちらに向かって飛んで来たのは。

 俺はそれを剣で弾き返す! 飛んできた方向には、騎士団の連中! くそ、こんな時だっていうのに! 俺よりも、ドラゴンの退治を優先しろよ! そんなに手柄が欲しいのか、この連中は!


「おいっ! 俺は逃げも隠れもしねえ! 俺を狙う暇があったら、ドラゴンを倒せ! いいなっ!」


 おそらく、聞く耳を持たないだろう。あいつらにとっては、どっちも敵。隙を見せたら、後ろからやられる。騎士団とドラゴン、両方の相手をしなくちゃならないなんて!


『貴様……ヴァンパイア・ロードか! 何故、人間の味方をする! 我が、魔王様との確執……知ってはいるが、だからとて! このような真似をする輩とは思えん!』

「フン……貴様のような飼い犬に話す舌など、持たんわ!」


『そうか、ならば死ねぇいっ!』

「魔王の犬風情が、この儂を倒せると思わんことじゃな!」


 上ではレベルの……次元の違う戦いが繰り広げられていた。ネウの奴……俺と戦った時は、本気じゃなかったんだな。とてもじゃないが、入り込めそうもない。


 そもそも、飛ぶことが出来ない。飛行系の魔法習得スキルは……あった! これか。ハイウィング……けど、俺が混ざっても足手まといにしか、ならないだろう。


 いや、でもこの装備の効果は……くそ、一か八か! ハイウィングのスキルを習得!

「風よ……我が身に纏いて、集え! ハイウィング!」


 飛んだ!? これが……魔法! すげえっ……。俺、飛んでるのか。空を。

 おっと、感動している場合じゃなかった。ネウの援護に向かわないと!


「ネウっ!」

「む、主かっ!」

「ぬ? 貴様、何者だ!」

「敵に名乗る名前なんか、ねえよ!」

「揃いも揃って……同じようなことを!」


 ベイザスと対峙……俺のレベルはこれで、105にベイザスのレベルをプラスした状態になるはず……!


「主、気をつけよ! ここは儂に任せておかんか!」

「そうしようと思ったけどさ、ネウを一人っきりになんて、出来ないだろ!」


「……阿呆。惚れるじゃろうが」

「へへっ! いくぜっ!」

「生意気なガキめ!」


 ベイザスの攻撃を受け止める俺。瞬間、物凄い重力がかかって、下へと叩きつけられた。

「ぐほっ……!」


 がっ……な、なんだ……今の。パワー負け、した……のか? 手が痺れて……動かねえ!


「ククっ、口ほどにもないな。あんなのとつるむとは、ヴァンパイアの王も、落ちぶれたものよ」

「ぬかせ……次言うてみよ。貴様を地獄という地獄に突き落としてくれるわ!」


 どういうことだ……レベル差はほぼ同じになったはず。にも、関わらず。相手の方が圧倒的なパワーでこっちが押し負けた……。

 考えられるとすれば……俺たち人間とモンスターじゃ、レベルによるステータス補正に大きな差があるかもしれないってことだ。


 もしくは、何らかの方法でこちらのレベル補正が無効化された可能性。

 S級以上の相手はレベル補正が制限されるとか、な。ま、たしかにいくらレジェンドとはいえ、どんな奴にでも適応されていたら、理論上この武器は最強どころじゃなくなる。


 いくら、ガチャが全てとはいえ、剣一本あれば魔王ですら怖くない。みたいにはなってないだろう。今回のような相手には、このレベル補正をアテにしすぎるなってことか。


 となると、いよいよもって打つ手がない。ネウの援護をするぐらいか。

 いや、返って邪魔になるかもしれない。どうする?

 その時だった。一筋の光が、ドラゴンの群れを貫き、ベイザスに向かって突き進んで行ったのは。


「むっ!」

 ベイザスはその一撃を片手で受け止めようとしたが……。


「ぐ……うおおおおっ!」

 押し負けて、その腕が消し飛んだ。なんて、威力……。


『あれは……勇者ライナス様か!』

『……貴様が、勇者か。なるほど。魔王様が一目置くだけのことはある。我が左手を消し飛ばすとはな。相手にとって、不足なし!』

『……』


 勇者ライナス? この世界の勇者か。勇者は後ろに騎士団も引き連れている。

 それとは別に仲間もいるようだ。勇者のパーティーか。


 援軍……とは言い切れないのが、困る。俺たちはお尋ね者だ。一緒に成敗されてはかなわない。となれば、今のうちに退却するべきだと判断した。それは概ね正しいだろう。

 俺たちのような第三勢力がいると、余計な火種を生みかねない。


「ネウ、逃げるぞっ!」

「何っ!」


「後は勇者とやらに任せておけばいい! 俺たちは町の方に向かうぞ!」

「ええい、仕方ないのう!」


 悪いが俺は正義の味方でも、なんでもないんでね。そういうのは、本物に任せておくさ。リリィたちは避難した。これ以上、ここに居座る必要もない。俺は仲間の為に戦っただけなんだからな。


 ネウと俺は町に向かって走り出す。ハイウィングで飛んだ方が早いか? いや、危険だ。上空にはまだ大量のドラゴン達がいる。狙い撃ちにされかねない。騎士団の連中にも、だ。

 ふと、ライナスの方を覗き見ると……目が合った。


「……」


 お互いに、何かを言うわけでもなく、ただ、通り過ぎた。

 さすが、勇者様。風格が違うな。青い鎧がお似合いだぜ。まあ、俺も青い服着てるけど。


『勇者様、奴らは……』

 そういうと、ライナスは手を上げて、静止させた。捨て置けということか。


 何のつもりかはわからないが、助かった。あっちも、ヴァンパイア・ロードのネウと獣王ベイザスの二人を相手にしたくないってことだろう。優先順位的にも、ベイザスのが上。そう判断した結果か。騎士団の連中とは、さすがに違うな。


 逆に言うと、ああいう奴ほど冷徹で冷酷だ。容赦がない。敵に回したくはないな。

 とにかく、急いで町に向かおう。リリィ達が気になる。


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