始まりは、レジェンド・レアと共に──
俺は、とあるサイトで小説を読んでいた。異世界系のチート主人公話だ。これがまた、面白いわけよ。読み終わった俺は、思わずぼやいた。
「あーあ、俺もチート主人公になって、俺TUEEEEしてーなぁ」
そんなことを考えつつ、ネットサーフィンを再開する。なんか面白い小説あっかなぁ……ん? 探っていると、気になるタイトルを見つけた。
『貴方も異世界転移してみませんか?』
「なんだこれ? 相手に問いかける系? 珍しいタイトルだな」
思わず、クリックしてみた。すると、
『貴方はこれから異世界に転移します。そこは、『ガチャ』で強さの全てが決まる世界です。貴方がよく遊んでいるソシャゲと同じです。まず、チュートリアルを受け、最後にガチャをして装備を手に入れる事が出来ます。頑張って下さい』
なんだ、この文章。ますますおかしい。変わった小説だなぁ……と、俺が思っていると──。
急に。世界が切り替わった。
何が起こったのか。さっぱり、わからなかった。俺は、自分の机でネットサーフィンしながら、小説めぐりをしていたはずだ。なんだ、ここは。
目の前には、大きな『ガチャ』があった。その横に、誰かいる。女の人だ。その人はこちらをみて、にっこりと笑みを浮かべた。
「おはようございます。未来の英雄さん。ここは、『マナディア』。夢と希望の溢れる世界です。貴方には、これからチュートリアルを受けて貰うことになります。この世界のシステムについて説明致します」
チュートリアルって……あ、さっきの小説の内容か。これ。もしかして。おいおい、マジかよ。え? ほんとに? てことは、オレ……異世界に来たってこと!? マジ!?
「準備はよろしいですか?」
「え、あっ、は、はいっ!」
うっわ、めっちゃ緊張してるーっ! 声がうわずってるよ! 憧れの異世界に、とうとう俺が来てしまったんだ! ひゃっほーっ!
すると、またまた背景が切り替わった。
「戦闘について、ご説明致します。戦闘は通常攻撃と、スキルを使います。スキルはレベルによって習得するものと、装備に付与されているものとあります。スキルポイントはレベルが上がると貰えますが、振り直しは出来ませんのでご注意下さい。スキルポイントの振り方によって、自身の成長が変わって行きます。貴方のなりたい英雄を目指して下さい。以上です。これより、戦闘が始まります」
え、戦闘? いきなり? まあ、チュートリアルだから問題ないだろうけど。
「それでは、好きなように戦って見て下さい」
すると、草原にモンスターが出現する。あー、これチュートリアルだわ。あるある。雑魚モンスターを倒す定番のチュートリアルまんまだわ。
いつの間にか、俺の手には剣が。これで戦えってことね。オッケー。
「いくぜ!」
俺はモンスターに向かって走り出した。うお、体が軽い! さすがチュートリアル! いきなり高レベルや最高レア装備の状態になってることが多いんだよなー。
「おりゃ!」
「グォオオオオオオッ!」
一撃でモンスターを仕留めた。よし! ま、倒せて当たり前なんだけどな。
「タイミングよく、スキルを繰り出すことで『チェイン』させることが出来ます。チェイン数が多くなるほどクリティカル率やダメージが増えて行きます」
なるほどね。これまたよくある奴だわ。
「次に『スーパーブレイク』について説明します。自身のステータスが右上に表示されているのがわかりますでしょうか?」
どれどれ……あ、マジだ。右上にステータスが表示されてる。半透明で。
「そこのSゲージがMAXになった時に、『スーパーブレイク』と呼ばれる必殺技を使う事が出来ます」
へー。お約束的なやつね。で、今からそれを使えと。
「では、今からゲージをMAXに致しますので、使ってみて下さい」
「よし。行くぜ! 『スーパーブレイク』!」
体が勝手に動いた。剣を上に掲げると、天から光が降り注いだではないか。その光は、モンスターを貫いた。
「グォオオオオオオオッ!」
「おぉ……すげえ。カッケー!」
背景が切り替わる。どうやら、これで終わりのようだ。
「以上でチュートリアルを終了致します。それでは、これから……『ガチャ』をして頂くことになります。この世界は、『ガチャ』であらゆることが決まります。装備の入手もガチャで決まります。つまり、『ガチャ運』こそが全ての世界です」
いいねぇ、それ。ゲームっぽくてさ。めんどくせーことすっ飛ばして、ガチャして強くなれるわけだろ? 最高じゃん! でも、逆にいうと運が悪いととんでもないことになるな……これ。
しかも、ゲームみたいに『リセマラ』できねえ。結果がクソだったとしても、それを受け入れないといけない。うん、結構まずくね? はー、マジただのレアとかやめてくれよ。
「あの、このゲームのレアリティとガチャ率について教えてくれませんか?」
「ガチャの内容によって確率やレアリティは違いますが、基本的なレアリティは、LR、UR、SSR、SR、R、Nとなります。今回のガチャの確率は……LR・0.000017%、UR・0.0006%、SSR・0.15%、SR・5%……」
おいおい、なんだその確率は。まるで、宝くじの一等と同じ確率じゃねーか! こんなの、当たるわけねーだろ! SRですら、5%かよ……一番現実的なのは、SRぐらいだな、こりゃ。RやNだけはやめてくれ、マジで。
「当たれば、『人生が変わる』ほどのアイテムですから。UR以上については。それを売却するだけで、一生遊んで暮らせるぐらいですよ」
そりゃ、そうだろうな……それだけありえない確率だ。何百万分の一って。当たり前だが、俺は生まれて一度も、宝くじが当たったことはない。俺が今までやったことのあるネトゲで最低確率だったのが、0.012%だ。それすら当たったことはない。そんな俺がそれ以上に低い確率のアイテムを手に入れられるとはさすがに思わない。
なんせ、『リセマラ』不可能だからなぁ……可能だったとしても、そんな数値じゃ狙うだけ無駄だが。
さて……運命のガチャだ。つっても、無料で貰えるガチャってだけで、金払えば出来るガチャが用意されてるだろうから、これでゴミが出たとしても、そこでどうにかすればいいだろう。
気楽に引くか。しかし、バカでけーなぁ……このガチャ台。
「それでは、どうぞ」
「はい……ふぅー」
別に緊張する必要はないのだが。深呼吸して。一気に回した。すると、でかい機械に光が灯り……動き出す!
お、おぉ……すげえ演出。中央の光が銅から銀に、銀から金に変わる。お、これって……SRか?
すると……金にヒビが入って……紫に! SSRキタコレ! よっしゃ、いきなり0.15%のSSR当てるとか、マジついてるじゃん! 最高!
と、喜んでいると……その色が……赤に変わって……おいおい……。
「ま、まさか……」
「そんな……本当に!? だ、誰か! 支配人呼んできて下さい!」
ガチャ台の横にいたお姉さんが慌てだした。どゆこと? なんかエラーとか? 不具合かよー。赤く光ったからおかしいと思ったら……あーあ、ぬか喜びじゃねーか。俺のSSR返してくれよー。
すると──。
赤が、虹色に……!
「え──」
ビキーーーーーーーーーン。
虹色に光った中央の玉の色。それが、勢い良く音を出して……そこから、アイテムが飛び出した! そして、ゆっくりと……俺の手の上に、乗った。
「け、剣……だよな。これ」
「れ、レジェンドレアだーーーーーーーーーーー! レジェンドレアが出たぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「え? え? ええっ!?」
いつの間にか、ギャラリーでいっぱいだった。大騒ぎである。
「お、おめでとうございます! マナディア・チュートリアル支社の支配人でございます。いやはや、ここ百年ほど出ておりませんでしたが……私も初めて見ましたよ。レジェンドレアが出る瞬間というものを!」
そんなに珍しいものだったのか……。どおりで人が集まって来たわけだ。
「その剣をご売却なさいますか? すれば、人生を十回は軽くやり直せるだけの資金が得られますが」
想像以上のヤバさだった。どうすんの? これ……売るべきなのか? 売れば遊んで暮らせる……いや、でもなぁ。やっぱこの武器を誰かに見せびらかしたいじゃん? となれば、売らずに持っておくべきっしょ。
「いえ。俺はこの武器で旅に出ます!」
「おぉ! 未来の英雄よ! 貴方の活躍を期待しておりますよ!」
「どもども~」
「「未来の英雄に栄光あれっ!」」
大喝采の下、俺は支社を出た。いやあ、気分がいい。まさか、LRのアイテムが当たるとは。
「ふんふんふーん♪」
最高のスタートだった。武器は申し分ない。後は防具とかアクセサリーとか、スキルとか。そういうのもガチャで当てていかないとな。
さて、これからどうする? あてのない旅に出るか、この町でしばらく過ごすか。いくら、最高レア装備を持っているからといって、右も左も分からないこの状況で、飛び出すのも危ないか。取り敢えずはこの街で生計を立てよう。
その時だった。背後に気配を感じたのは。
「ん……?」
振り返ると、そこには男の集団。5~6人はいるだろうか。
「へへ、その装備を置いてきなっ!」
「それがあれば、一生遊んで暮らせるからよぉ!」
いかにもすぎる、ヤンキー風の男たちがそこにはいた。こいつら……俺の当てた装備を狙いに来たってことか。チュートリアルが終わったばかりの冒険者に目をつけてレアリティの高いアイテムが出たら、そいつを付け狙う。なるほど、悪くないやり方だろう。
が、そんな奴らに俺の装備をくれてやるわけにはいかない!
俺は武器を構えて、奴らと対峙した。
「ははは! 俺らとやろうってのかぁ!? 無駄無駄ぁ! いくら、お前が最高レアの装備を手に入れたからって、たかが剣一本。レベル45の俺たちに勝てると──」
「ごちゃごちゃ、うるせえよ」
「は──?」
瞬間、俺は飛び出していた。チュートリアルで体感したよりも遥かに体は軽かった。まるで、羽のよう。連中は俺の動きについて来れていない。なら。
俺は剣の面となっている部分で、相手を叩いていった。
「があっ!」
「ぐげっ!」
一発、叩いただけで相手はノックアウト。やべーな、この剣。あいつらレベル45とか言ってなかったっけ? レベル1の俺が、レベル45の連中相手に、無双とか。
さすが、宝くじレベルの確率。レジェンドというだけのことはある。
そういえば、この武器の内容を見ていなかったな……どれどれ。
俺は剣のステータスを確認することにした。
■アルティメット・ソード
・相手と対峙した場合。対峙した相手のレベル分だけ、自身のレベルにプラスし、ステータスが調整される。
・パッシブ STR極
・パッシブ 状態異常無効
・スキル アルティメット・ブレイク
……ヤバくね? これ。自動的にレベル補正されるのかよ……くっそ、つえーじゃん。それにSTR極に、状態異常も無効とか。さすが、レジェンドレアだな。
これなら、いきなり上級のダンジョンに行くことも可能になるな。本来は、レベルをこつこつ上げて挑むところをいきなり、すっ飛ばせるってことだ。
人生を変えると言われるだけのことはある。武器自体のステータスは高いのか低いのか、わからないな。武器屋かどっかに行って、Nとかの装備を見てみないと、比較できない。
俺は、武器屋に行って見たものの……そこには、ガチャ台があった。そうだった。この世界は、全部ガチャで決まるの忘れてたわ……。これじゃ、確認できねーな。ま、いっか。
たぶん、とんでもない数値だろーし。相手よりレベルが高い状態で戦闘出来る上に、ステータスの高さ。そして状態異常無効。うーん、いいね!
俺が改めてこの剣の凄さに感動していると……声をかけられた。
「あのー。さっき、チュートリアルで最高レアを当てた人ですよね? よかったら、私たちとパーティーを組みませんか?」
見ると、くっそ可愛い女の子達だった。スタイルいいし、顔もいい。胸もある。うひょー! いきなり、こんなかわいこちゃん達に声かけられるとか、さすがレジェンド様!
俺の異世界生活はバラ色だぜ!
「勿論、オッケー! 行こうぜ!」
「やったぁ! ありがとうございます! 私はリリィ。こっちは、サーシャ」
「よろしく、リリィにサーシャ。俺は、コタロー。佐藤小太郎だ」
「コタロー様、よろしくお願いしますね!」
様! 様だってよ! ははっ。いいね、いいねぇ! このまま、ハーレムでも作るかぁ? なーんて。
「取り敢えず、どこ行く? 俺、チュートリアルが終わったばかりだから、この世界のことに関して詳しくないんだよね。よかったら、町を案内してほしいんだけど」
「いいですよ。それじゃ、私たちについて来て下さいね」
「おっけー、オッケー」
そうして、俺の順風満帆な異世界ライフは始まるのであった、まる。