ふつうとたんき
「お兄様。」と聞こえた、聞き慣れてない言葉はとてつもなく子供の声では無かった。
「あ、矢藺菜か。」
くるりと男が振り返ったので、俺も見ることにした。
しかし、振り返った途端飛んできたのは掌だった。
バチン!と頬に掌が当たる。だが、それを受けても男はびくともしない。
「あなた、私の部屋に入りましたね!乙女の秘密が詰まった、部屋に入るなんて死に値しますわよ!!」
「矢藺菜、そんな怒るなって。鍵かけてなかったお前も悪いんだから~」
なんか色々話してる内に顔でも確認しようっと。
__え~っと、あれ?普通の顔だ。ニキビもあるし、目がぱちくりしてる理由でもない。
一般的なお嬢さまの想像図とはまた違うな。こりゃ。
「それじゃ私は行きますよ。」
「おう、じゃあな。」
お嬢さまは廊下の端っこに歩いていった。
「あれが、お前の妹?全然似てないじゃん。」
「似てないけど、妹なんだよ。そいや、お前の事なんて呼べばいいんだ?」
「鐘道とでも呼んでくれればいいよ。」
「ぬいぐるみに鐘道なんて言う男がいるかよ!」
- そもそも、ぬいぐるみに名前を付けている時点で変な男だし、その名前でぬいぐるみと話していること自体変じゃないのか?と思った。
「あ~!もういいや!鐘道で!」
てきとうだなぁ。と呆れた。
「そういえばまだお前の名前を聞いてないな。」
と言った。いつの間にか歩き出してて、その方向は男の部屋だった。
「 鶯谷 倭斎隗 それが俺の名前だよ。へっ!馬鹿親が偉そうな名前付けやがって!」
男改め、倭斎隗 は壁を蹴り飛ばした。なんつー短気な男か。
「お前、この後はどうすんだ?」倭斎隗 は聞いてきた。
「しばらくぬいぐるみのふりで部屋に居るさ。」と答えた。
らしくねーな。と倭斎隗 は笑った。初めてみる笑顔は理由を気にしない程に心地よかった。