あらかわ
__さて。 続きをしますかね。
俺はまた、鏡に向かって歩き出した。一回離れると、部屋が広いから大変。
「ほんとにかわいい姿にねえ?」その声は自分の声のはずだが、非常に癒される声だった。甲高い訳では無く、かと言って高すぎずでも無い。
「こりゃ、三毛猫だな。しかも、瞳はパッチりと来てやがるわ。」
前世の自分とは全く違う姿にため息を付く。そりゃオッサンからネコのぬいぐるみになったら反応するか。
「う~ん、まっ姿も良く分かった事だし部屋でも散策するか。」
ぬいぐるみは歩いた。歩く姿も愛おしい。あまりに慣れてないので、一旦立ち止まったりして、また歩き出した。
「しかし、随分と広い部屋だな………俺の家より大きいんじゃねぇのか?」
前世は随分と金の無かった事を思い出した。そんな生活早く抜け出したかったなぁ。
「っ……ひゃ!」
驚いて、その場に一旦停止する。
そこにあったのは、血液が所々着いた「バット」だった。
「ここは、部屋の端っこか。見つかったらマズイねかね。」
バットを見て、ヤバイ男だとは思った。が、俺には気になる事があった。それは、あの驚きぶりだ。あの顔であんなに驚くとは絶対に何かあるに違いない。
と、そこへ足音が聞こえた。数人は居る。だから、急いで元の棚に走った。そして、元の様に座った。
__「ぬいぐるみが動くってそんなわけないじゃないの。」
_「確かに動いてたんだって!ほら!」
ドアを開けて、入ってきたのはさっきの男と一回り小さい女の子だった。
「っ…あれ?」
「何よ。何ともないじゃん。変なお兄ちゃん。」
先に女の子は出て行った。どうやら、恥をかいたようだな。かわいそうに………
「おい。」
男はコチラを見ている。
「お前、絶対動くだろ!」
そして、コッチに歩いてくる。
「ほらっほら!」俺は今、ひどく揺さぶられている。
ダメだ!表情がキープ出来ない!
「やっぱり、目廻してる。てか、もう隠さないでいいぞ。」
その言葉に甘えたのか、俺はつい喋った。
「あんまり意地悪するのはやめてください。まだ、慣れてないんです。」
「慣れてないってどうゆう事だ?」
ああ、初めて話すのはこんな男ですか。悲しいです………