第一章8
「まさかこんな所で会うとはな、兄弟!」
「ああ!久しぶりだな」
「場所を移そう、近くに酒場があったな」
場所を武器屋近くの酒場に移し、再び話し始める。
「この街に来たのは依頼か?兄弟」
「ん?ああ、まぁそんなとこだ」
鬼伐団に所属している事は他言無用。
それが鬼伐団のルールだという事を作戦会議の最後にグロウズ隊長が言っていたのを覚えていた。
話す相手が鬼人の可能性があるからだ。
「依頼の内容は?」
「狩りの手伝いらしい、詳しい事は後で聞きに行く。お前も依頼でこの街に来たのか?」
これ以上咄嗟の作り話では話を続けられず、話を逸らす。
「おう!そうだ。この国の大臣も参加するパーティーがこの街であってな、そのパーティーに参加する貴族に警護を依頼された」
クルストの依頼内容を聞いて驚きを隠しきれない。
だが、ルールに背く訳にはいかないためなんとか誤魔化す。
「へ、へぇ。でかい仕事じゃねぇか、良かったな」
「おう!久しぶりのでかい仕事だ、楽しみだよ。お前は狩りを楽しんで来いよ!」
「ハハ、そうするよ」
まさか同じ仕事内容とは思ってもみないだろう。
「そういや、仕事前に酒を呑まないのは変わってないんだな」
「ああ、どんな仕事でも気を抜きたくないんだ」
「ハハハ!本当に変わってなくて安心したよ!そんじゃ、そろそろ行く。また何処かで会おう兄弟!」
「おう、またなクルスト」
クルストは大きな瓶に入っていた残り半分くらいの酒を豪快に呑みほし、その場を後にした。
クルストが鬼人だという可能性はほぼ0だが、それでも任務の内容を話す事は出来ない。
それが、鬼伐団という組織のルールなのだ。
「任務までまだ時間があるな」
任務は夜にあるが、まだ昼だった。
「少し歩くか」
酒場を出て大通りに出ると、ある店の前で騒ぎが起きていた。
「気になるか?」
「なんでここにいるんだ?ヘンリー」
もうもはや、その声は聞き慣れた。
「ん?暇だったから歩いてたらお前を見かけたんでな・・・・・・ちょっと来い」
「なんだ、おい!」
騒ぎが起こっている場所に連れていかれ、見てみるとそこでは殴り合いを繰り広げていた。
「今殴り合いで十五人と素手で戦っているのは鬼伐団精鋭部隊の一人だ。名は、ダン・ハンター。格闘術の天才だ」
そこには、鬼の様な形相で敵を叩きのめす男の姿があった。手は血で汚れ、地面には顔の歪んでしまった男達が横たわっている。
「ハァァ!オラァ!よし!お前で最後だな!」
「待ってくれ!悪かった、喧嘩売った俺達が悪かった!だから許してくれぇ」
「喧嘩売ったんなら最後までやり切れ。クソ野郎!」
歯と血が飛び散って、最後の一人は地面に倒れた。
「終わったみたいだな?ダン」
「あ?ヘンリー居たのか、ちょっと待ってろ。おいお前ら見世物じゃねぇぞ!帰れ帰れ!」
騒ぎを見に来ていた人達は怯えて皆帰って行った。
「よお、あんたがルークか。作戦会議の時にチラッとは見かけたが、見れば分かる、あんた強いな?な、いっちょ拳で語り合おうぜ」
「やめとけ。任務前だぞ、怪我されちゃ話にならないだろ?またにしろ」
「チェッ、分かったよ」
目は血走っていて、闘う事を好んでいるのが見て取れる。
「任務まではまだ時間がある。二人共少しでも休んだ方がいいぞ」
ヘンリーに言われた通り、集合時刻まで家で休む事にした。
剣を研ぎ、装備を整え、後は出発するだけ。
「全員集まったな。よしいいか、参加者の中から鬼人を捜し出せ。不審な動きをするものがいたら報告しろ、以上。作戦行動開始!配置に付け!」
『はっ!』
屋外で行われるパーティーの会場では、ご馳走が並び、名の知れた貴族や金持ちが語り合っている。
魔法を駆使し、会場の監視が始まる。