第一章5
大都市クラリズ。王国の中心地にして、魔法が生まれたと言われる街。
「ここがクラリズです!どうです、大きくて綺麗な街でしょう!ところでお客さん、この街には何をしにいらっしゃったんで?」
「・・・・・・仕事だ。なんでも屋でね」
「なるほど」
クラリズへの交通手段は、三つある。
一つ目は徒歩。
二つ目は馬車。
三つ目は船。
徒歩では遠く、自分の馬もなく近くに波止場もない場合は、料金は少し高いが今回のように馬車に乗って行くしかない。
「さあ、着きましたぜお客さん」
街は活気に溢れ、喋る御者の声が掻き消される程賑わっている。
それでも、金を早く渡せという意思は顔を見れば伝わってくる。
「まいど!そいじゃまたごひいきに〜」
「・・・・・・ここがクラリズか」
あの日隠れ家に戻ってすぐ、ある手紙が届いた。
手紙にはこう書かれていた。
「鬼伐団本部は、クラリズの中心にある商店街のコーネルの酒場という所にある。詳しい事は店主に聞け。気が変わったら来い。待ってる。」
自分でも自分の中でどういう気持ちの変化があったかは分からない。
ただただ、気が変わっただけだ。
「ん?ありゃなんだ」
行き交う人々を押し退けながら、男が猛スピードでこっちに向かって走って来る。
誰かに追いかけられているようだ。
「泥棒だ〜!!そいつを捕まえてくれ〜!!」
四方八方から追い詰められた泥棒は急停止し腰にぶら下げてたナイフを持った。
「どけチクショーー!!」
「なる、ほど、な!!」
ナイフを振り上げた泥棒のその腕は掴んできたもう一つの腕によって振り下ろす事を許されず、骨の砕ける音を鳴らしながらおかしな方向に曲がった。
「うぎゃぁぁぁ!!?!俺の、俺の腕がぁぁぁ!!」
「ほら。盗んだ物を出せ!」
「クソ!分かったよ」
男が取り出した袋からは酒が出てきた。
「助かったよ。我がコーネルの酒場に置いてある最高級の酒をこいつが盗みやがったんだ」
「え、もしかしてあんたコーネルの酒場の店主か?」
「そうだけど?」
こんな偶然があるのだなと思った。
「なら酒場に案内してくれないか?」
「ああ、喜んで!こいつを捕まえてくれた恩もあるしな!奢るよ」
「・・・・・・実は、鬼伐団に入団しにきたんだ」
「あーなるほど。じゃあ、あんたもしかしてルーク・ブレイバーンか?」
「ヘンリーから聞いたのか?」
「ああ、そうだ。ついて来い、案内してやる」
言われるがままその男に付いて行き、数分歩くと、看板に大きく"コーネルの酒場"と書かれた店に着いた。
「ここだ」
「だろうな」
店の中に入るやいなや、二階に上がり一つの部屋に案内された。
「中に入ったら、クローゼットを開けて下に降りろ。じゃあ俺は仕事に戻るよ」
「ああ、ありがとう」
部屋に入り、クローゼットを開けると梯子があった。
降りると目の前に見覚えのある男。いや、ヘンリーがいた。
「来ると思ってたよ」
「そうかよ・・・・・・最初はなにをすればいい」
「試験だ、入団試験」
「試験は何をすれば?」
「ある人と戦うだけでいい。安心しろ、落とされる事はほぼない」
鬼伐団本部は酒場の地下にあり、上にある酒場よりも敷地が広い。そこで何十人も剣や魔法の訓練をしている。
階段を降り、一つの扉の前に到達した。
「ここの部屋だ、今からお前が戦う相手は目が見えない」
「!?戦えるのか」
「ああ、鬼伐団精鋭部隊の剣術師範だ。誰も彼には敵わない」
扉がギシギシと音を立てながら開き、部屋が全貌を見せる。
明るく広いその部屋は部屋の中心に立つ男の殺気に溢れていた。何故かその殺気は懐かしくも恐ろしい、身に覚えのあるものだった。
「・・・・・・ヘンリーとそしてもう一人。なんの用だ」
「新人です、グロウズ師範」
耳を疑った。その名は決して忘れない。
「師匠」
「!?・・・お前は、まさかルークか!
目にバンダナを巻いているところだけ昔と違うが、紛れもなく自分に剣術を叩き込んだ、師匠だった。
その静かな殺気は、今も昔も変わらない。