オークの次はドラゴン.....色々とばしすぎだろっ!な件
ああ、目が回る。
飼い主のアレックスに鷲掴みにされて投げられた。
プロ野球選手のそれよりも力強い投球、ならぬ投スライムにより、僕は見事に二人に襲いかかろうとしたオークの後頭部に直撃し、その頭蓋骨が音を立てて粉砕する音を聞いた。気味悪!
といっても、オークの頭を粉砕したのは二回目。
恐らく、オークの頭を粉砕したスライムなんて僕ぐらいのものだろう。
いや、僕だけの力じゃあないけどね?
あんだけ無茶苦茶な事をされれば、いくら便利なスライムの体だって目ぐらい回す。
揺れる視界の中、側でへたりこむミチちゃんの無事を確認して、安心する。
ミチちゃんのその綺麗な柔肌に傷がつかなくて、本当に安心。
ちょっと、変態っぽいね。
「た、助かったよ。シリウス君。」
あ、はじめて名前呼んでもらった。
地面に尻餅をついてへたりこむミチちゃんは少し涙目で、さっきまでの凛々しさはどこへやら。
下手したら、オークの攻撃をモロに受けていたのだから、やっぱり怖かったのだろう。
やっぱり、女の子なんだなあとほっこりしたのも束の間、僕はミチちゃんに抱き抱えられた。
「うー、失敗したあ!」
そんでもって、ぎゅーと抱き締められる。
お、おおおおおっぱいが!じじじじ直に!
ミチちゃんは戦士なので、革鎧越しのおっぱいになるけれども、僕にはそんなの関係なかった。
僕は幸せだった。
女神様、僕は幸福です。
しかし、この扱われ方はなんか、その、女子高生が自室でクッションを抱き締める的な?
僕はクッションか、まあ、嬉しいけど。
「ごめん、ミチ。私がヘマしたから。」
「ううん、私も目の前のオークに夢中だったから、キルトのせいじゃないよ。」
ばつの悪そうな表情で近づいてくるキルトちゃん。
あれ、そういえばもう一体のオークはどうなった?
ほら、ミチちゃんと戦闘してた奴。
「ブギッ!」
「ごちそうさまっ!!」
そう考えた瞬間、オークの途切れるような悲鳴と、意気揚々とした言葉が。
声がした方向を向くと、ちょうどアレックスが両手に持った巨大なハンマーでオークがぶちゅっと潰された。
身長が十分の一位になったオークは明らかに絶命していて、まるで風船が破裂したかのように血飛沫があたりに散らばる。
なんというオーバーキル。なんというスプラッタ。
僕は恐怖のあまり、ミチちゃんにさらに密着した。
「ふー、前菜にもならないわね。」
「私たちがうち漏らした敵を.....ありがとうございます。」
「気にしない、気にしない。一時的とはいえ、パーティーを組んでいるんだから持ちつ持たれつよ。」
ハンマーを肩に担いで近づいてくるおネエ。
不思議な事に返り血は一切浴びていない。
楽しそうなアレックスの表情とは裏腹に、二人の表情は浮かない。
ミチちゃんなんて、僕を抱き締めたまま、黙り込んでいる。
オークにやられそうになったことを気にしているのだろうか。
けれど、そんな二人の態度はアレックスの次の言葉で一変した。
「それにしても、あんたたち腕をあげたわね。オークとやりあってる姿、なかなか様になってたわよ。」
「ほ、本当ですか!?」
「やった。」
アレックスの言葉に先程までの浮かない雰囲気は吹き飛び、喜びあう二人。
うん、やっぱり美少女には笑顔だよね。
やっぱり、一流の冒険者であるアレックスに褒められるのは嬉しいんだろう。
「でも、MVPはシーちゃんね。だって、四体の内、二体を倒したもの。」
そんなアレックスの言葉に、二人は納得のいかないというような不満げな表情を僕に向けた。
僕はゾクッと快感に近い何かが体に駆け巡るのを感じた。
◎◎◎
そんなこんなで探索再開。
ミチちゃんの腕に抱かれていた僕は、飼い主によって引き剥がされ、いつのもの定位置である肩にのせられていた。
戦闘をアレックスがいき、後ろに二人が着いてくる。
探索を再開して一時間ほど。
魔物とは先程出会ったオーク以外には出会わず、アレックスは森の中を黙々と進んでいく。
一体、どこまで行くのだろうか。
「ねえ、アレックスさん。ここ、結構奥ですよ。そろそろ引き返さないと、日がくれるまでに帰れませんよ。」
僕と同様の不安を抱いたのか、ミチちゃんがそんな発言。
確かに、もう昼過ぎだから、ミチちゃんの言うことはごもっともだ。
「うーん、もうそろそろなんだけどねえ。あ、見つけた。」
何が?
「何がですか。」
何かを見つけららしいアレックスが静かにというジェスチャーを後ろの二人に向けて、人差し指である方向を差した。
そこには洞窟のような穴があって、その穴から何か巨大な生き物が存在するのが見えた。
なんなんだ、あれ。
「ど・ら・ご・ん。うふ。」
うふじゃねえ。




