スライムの扱いはやっぱり酷かった件
「ほら、あんた達!シーちゃんが体をはって殿を務めたのよ。さっさとオーク共の相手をしなさい!」
いたいけなスライムを野球ボールが如く投擲した鬼畜オネエは、腕組みをして少女二人に指令を出した。
なんという野郎だ。
自分はペットのスライムを投げただけで、戦闘に参加しないなんて。
「スライムってあんな使い方あるんだ。」
「ミチ、戦闘準備。」
僕とアレックスに引っ付いてきた冒険者の少女二人は前に出てオーク三体と戦闘を始める。
ミチと呼ばれた戦士風の赤髪の女の子が前衛、黒髪の魔法使い風の女の子が後衛だ。
ミチちゃん、スライムはそんな使い方しないから。
お願いだから、勘違いしないで。
「ぷぎー」
「ぷぎーぷぎー」
「オーク達はアレックスさんの一撃で動揺してる。今のうち。」
「わかってる!」
おい、僕の体の張った一撃はアレックスの功績かよ。
酷くない?
僕が投げられて、僕がオークにダメージを与えたんだよ?
アレックスは投げただけじゃないか。
「はあっ!」
「ウィンドアローズ。」
二人の戦い方は、戦いのたの字も知らない僕からしても様になっている。
後衛の魔法使いの女の子が他の二体がミチちゃんに近づかないように魔法で牽制し、その間にミチちゃんが一対一でオークと戦闘をこなしている。
オークの武器は丸太から削り出したような太い棍棒だ。
それに対し、ミチちゃんの武器は小振りの片手剣。
オークの体は筋肉巨人のアレックスにも匹敵する程の巨漢で、女の子でも小柄な体格のミチちゃんと比べると二回りは巨大だ。
「ぷぎー」
「えいやっ」
まともに打ち合えば必然的に打ち負けるのはミチちゃんの方。
だからミチちゃんはオークの振り回す棍棒を手に持つ片手剣で巧みに受け流し、オークに生じた隙にすかさず剣戟を叩き込む。
女の子だから一撃一撃の攻撃は軽く、オークに対して致命傷にはならない。
けれど、僅かだけど確実に積み重なるダメージにオークの動きは目に見えて鈍くなっていった。
「とどめっ!【切断】!」
「ぶぎー!!」
ダメージが限界に達したのか、オークが大きく体勢を崩す。
その隙をミチちゃんは見逃さず、剣を大きく振りかぶりスキルを発動。
振りかぶられたミチちゃんの剣はオークの首を見事に切り落とした。
「次っ、キルト!」
「ミチ、一体は私が始末する。あなたはもう一体に集中して。」
「わかった!」
あの魔法使いの女の子、キルトちゃんて言うのか。
後二体になったオークに二人はそれぞれ一対一で向かい合う。
ミチちゃんの戦法は変わらない。
キルトちゃんは魔法を使って、遠距離から一方的にオークを攻撃している。
二人の戦いに危うげな雰囲気はなかった。
後少しすれば、二人ともオークを難なく倒すだろう。
僕は二人が戦う光景を離れた場所で、アレックスと共に観察していた。
いやあ、ミチちゃんの程よく焼けた肌を濡らす汗といい、キルトちゃんの魔法の余波で翻るローブの奥から覗く真っ白な素足といいたまらんですなあ。
戦闘系女子いいわー。
もう、よだれ出そう。ほんと。
「あの二人、成長したわね。」
アレックスが唐突にそんな事を言い出す。
時々、黄昏た目で名言っぽいこと口走るからなあこの人。
「一年前はスライムにぴいぴい言ってたくせに。」
あの、さりげなく僕をディスるの止めて貰えませんかね。
「オーク相手に立ち回るようになるなんて・・・全く、歳もとるはずだわ。」
歳をとるって。
あなたまだ三十代ですけど。
アレックスが今と同じような事言って、ギルドの猫娘がそう突っ込んだのを僕は覚えている。
妙に老成してるよな、オネエだからかな。
「でも、詰めが甘いのはご愛敬かしらね。」
アレックスがそう言った直後、キルトちゃんの相手をしていたオークが魔法を振り切り、隣で戦闘をしていたミチちゃんに棍棒を振りかぶった。
「ミチっ、危ない!」
「え、ちょ!」
キルトちゃんの警告でオークの接近には気づいたけど、今のミチちゃんの体勢はオークの攻撃を回避できる状態じゃない。
あのままではミチちゃんはオークの攻撃をモロに受ける。
やばくないかとアレックスの方を振り向こうとしたら、僕の体をがっしりと掴む手があった。
あ、これデジャヴ。
「女の子のピンチは漢の見せ所よ。シーちゃん。」
スライムって性別なかったよね。
確かに転生前は男でしたけれども。
今は無性ですよ。
そんなこと言っても目の前のオネエには通用しないんだろうなあと思った。
「さあ、行きなさいシーちゃん!」
「ぴぎー!(またか!)」
先程と同じくアレックスによって全力で投擲された僕はミチちゃんに襲いかかろうとしていたオークの後頭部に直撃した。




