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飼い主に鷲掴みにされて敵モンスターに投げつけられた件

 早朝、僕は目を覚ます。

 

 「ぴぎ(よく寝た)」


 僕はアレックスの巻き付けた腕から抜け出し、窓際に寄って朝日を浴びる。

 このスライムの体にも大分慣れた。

 手足がないので不便だが、不定形なこの体はかなり自由が利いて意外と良い。

 特に毎日あんなに走ったり、筋トレしたのに筋肉痛がないのは特筆するべき点だと思う。


 僕は朝日に照らされる街の景色を眺めながら、脳内でステータスを見る。


 『名前 シリウス・β・スラニウム十二世


  種族 スライム


  Lv25


スキル


 【吸収】【分裂】【魅了】』


 Lv25。

 この一週間のアレックスによる地獄の訓練で僕のレベルは25も上昇した。

 レベルを上げる為の経験値はモンスターを倒すだけではなく、筋トレや戦闘訓練を行うことでも得られるというのはアレックスに教えてもらった事だ。

 高レベルになるとレベルを上げるためには莫大な経験値が必要になるから訓練だけでは殆どレベルが上がらなくなるらしいけど、逆にいえばレベルが低いうちは訓練だけでもかなりの効果が見込めるらしい。

 

 だから、レベルが低いうちは下手すれば死んでしまう危険性があるモンスター狩りよりも訓練でレベルを上げる方が安全で効率も良いらしい。

 アレックスがこの一週間、僕に訓練ばかり施したのもそういう理由があるからだ。


 しかし、今日は訓練はない。

 

 「あら、シーちゃん早起きね。」


 僕が起きて間もなくアレックスも目を覚ます。


 「始めての実戦だから緊張しているのかしら。」


 「ぴぎ(はい)」


 アレックスは起き上がると、いつもはそのままの格好で僕をジョギングに連れていくのに、今日はそうはせずテキパキと箱の中に仕舞っていた鎧を身に付け始めた。

 そして、いつもは部屋に立て掛けたままの巨大なハンマーを背中に背負って、最後は肩に僕を乗せる。


 そう、今日はいつもと違う。

 今日は僕にとって初めての実戦。

 初めてのモンスター狩りだ。


 「さあ、行くわよ。クエストにGOよ。」


「ぴぎっ(GO)」


◎◎◎


 「今日はシーちゃんのためのクエストなのにあんたたちも付いてくるなんてねえ。」


 「ぴぎぴぎ(僕は嬉しいです)」


 僕とアレックスは街から外れて数キロ場所にある森にいた。

 アレックスが受けたクエストは『オークの討伐』。

 本来はアレックスのサポートを受けて、僕が討伐対象であるオークと戦闘を行うという予定だったが、僕たち二人の他にクエストに付いて来る者がいた。


 「クエスト手伝ってくれるって言ったじゃないですかー。」


 「そうそう。」


 それは女の子の二人組。

 戦士風の赤髪の気の強そうな女の子と杖を持った魔法使い風の黒髪の女の子だ。

 その二人には見覚えがあった。

 

 一週間前、僕が【魅了】のスキルを掛けた女の子達の内の二人。

 生憎、突如乱入してきたオネエによって邪魔されなければ僕の飼い主になるかもしれなかった娘達だ。

 ぐぬぬ。

 このオネエさえいなければこの娘達の清らかな肢体は僕の物だったというのに。


 「それにしても、アレックスさんクエストにそのスライム連れてきたんですね。大丈夫なんですか?」

 

 「スライム弱い。死んじゃわない?」


 二人は僕に心配そうな視線を向ける。

 ギルドの猫娘もそうだけど、面と向かって弱い弱い言うのはさすがに失礼じゃないだろうか。

 まあ、言葉が通じるとは思っていないのだろうけど。


 「大丈夫よ。シーちゃんは私がこの一週間鍛えに鍛えたのよ。そこら辺のスライムとは訳が違うわ。」


 「アレックスさんに直々に鍛えて貰えるなんて・・・」


 「・・・羨ましい。」


 二人が僕に羨望の視線を向ける。

 確かにアレックスはオネエだけど、トップの冒険者でそれなりに人望も厚い。

 流石にスライムに羨ましがらないでよとは思う。


 「それよりあんた達、パーティーメンバーはどうしたのよ。」


 「今日はオフです。」


 「私たちは暇だったから付いてきた。」


 「あんた達ねえ・・・まあいいわ。敵が来たから話は後でね。」


 アレックスがそう言って、背中のハンマーを構えた直後、森の奥から四体の豚頭の人型のモンスターオークが現れた。

 付いてきた女の子二人もそれぞれの武器を構える。


 次の瞬間、アレックスの腕が伸びてきて肩に乗っていた僕をむんずと掴んだ。

 え、なんですかいきなり。


 「殿はシーちゃんよ。さあ、行きなさい!」


 「ぴぎっ!(え、ちょっ!)」


 アレックスは思い切り振りかぶり、オーク達に向かって僕を投擲した。

 まるでカタパルトに生身で発射されたような恐怖を全身で味わい僕は一番先頭のオークの顔面に激突した。

 オークの頭蓋骨がバキバキと砕ける音が僕の身に響き、おそらくオークが絶命したことを僕は理解した。


 「ぷぎー!!」


 オークの顔面に激突した僕は持ち前の弾力を生かし、アレックスの足元に転がり戻る。

 アレックスは無事帰還した僕にニッと笑いかけた。


 「よくやったわシーちゃん。」


 はあはあ。

 よくやったわじゃねえよ、このオネエ。

 


 


 




 

  

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