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スキルを使ったら可愛い女の子じゃなくてオネエに捕まった件

 「ぴぎ(暇だなあ)」


 スライムに転生して5日。

 僕は未だ檻の中に閉じ込められ、店先で売られていた。

 もう、ちょー暇。


 暇すぎてうとうとしていた時、背後からしわがれた声が聞こえてきた。


 「おう、おめえ飯食うか?」


 「ぴぎっ(食べるっ)」


 売られている僕には勿論売り主がいるが、雑貨屋を営むお爺さんだ。

 昼時なったので、店先に出てきて昼飯を食べるのだ。

 その昼飯の一部をいつも僕に分けてくれる。

 

 僕が同意の意思で鳴き声を上げると、お爺さんは手に持ったパンを引きちぎり、それを僕がいる檻の中に投げ込む。

 目の前に投げ込まれたそれを僕は体内に取り込んで消化をする。


 うん、うまい。

 スライムでも味覚があってよかった。


 「おめえもなかなか売れねえなあ。」


 「ぴぎ(そうですねえ)」


 ちなみに【魅了】のスキルはまだ一度も使用していない。

 だから売れないというのはあまりにも情けないが、事実その通りなので本当に情けない。


 お爺さんは呟く。


 「値下げはしたんだけどなあ。」


 「ぴぎー(焼け石に水ですよ)」


 現在、僕の値段は2キルから1キルへと値下げされていた。

 この五日間でこの世界の通貨単位キルが大体どのような価値なのか大体把握している。

 僕の予想によると大体1キル=10円程だ。


 つまり僕の価値は10円ぐらいということだ。

 この世界ではスライムの価値はこんなにも低いというのか!

 僕の価値はう○い棒一本と同程度ということか!


 ・・・まあ、スライム=1キルというわけではなく、どうやら僕の現在のLvも関係があるみたいだ。

 なにせ僕のLvは1だからね。

 お爺さんの口ぶりからすると、野生のスライムでも平均してLv10はあるみたいだから、一層僕の価値は低いんだろう。


 「じゃあ、わしは中に戻るからの。おめえも媚びを売って、良い飼い主に買って貰えよ。」


 パンを食べ終わったお爺さんはそう言って中に入っていった。


 「ぴぎー(そろそろかな)」


 このまま檻の中で外を観察しても得られる情報がほとんど無くなってきた。

 それにこれ以上、食費という面でお爺さんに迷惑をかけるわけにはいかない。


 このあたりが納め時だろう。

 僕は【魅了】のスキルを使って、可愛い女の子に購入して貰う!

 


 僕は可愛い女の子を見逃さないように通りを凝視し始めた。



◎◎◎


 

 二時間後。


 「ぴぎ(こない)」


 なかなか可愛い女の子が通りかからない。

 もともとこの場所自体があんまり大きい通りじゃないから、通る人が少ないんだけれども、こんなに可愛い女の子が通らないものなのか。


 異世界の常識というべきか、ほとんど美形なこの世界だけれども、まず女の子自体が通らない。

 通るといったら、おっさんとか、おばちゃんとかそういうのばっかだ。


 今日は諦めるかと思い始めた頃、遠くから女の子達の声が聞こえてきた。

 僕は思った。


 遂に来た!

 しかも数は複数。声からすると五六人の女の子の集団のようだ。

 これはラッキーだ。

 女の子達に纏めてスキルを掛ければ一人くらいは掛かるだろう。

 数打ちゃ当たる理論だ。


 やがて、数分もせずに女の子の集団が見えてきた。

 人数は六人。

 剣や鎧を装備した娘や、杖を持ってローブを着ている娘などそれぞれの格好はまちまちだが、共通している点が一つある。

 それは全員戦闘を行う者の格好だということ。


 おそらく女の子の冒険者パーティーだろう。

 ・・・よし、やるぞお。


 「でさあ。」


 「うんうん。」

 

 女の子達は話に夢中で僕の方を気にも止めていない。

 まずは注目を集める!


 「ぴぎっ!(えいっ!)」


 ガンッ!


 「えっ、なに?」

 

 「あ、スライム。」


 檻に体をぶつけて女の子達の気を引く。

 そして僕は【魅了】を発動した。


 スキルを発動したが自分の身に何も変化がないので発動したという実感がわかないが、女の子達の反応は劇的だった。


 「きゃー、このスライム可愛い!」


 「すごく可愛いわ!」


 「ほんと!」

 

 ふひっ。

 おっといけない。思わず気持ち悪い笑い声が出てしまった。

 だけど、この反応は僕の予想以上だ。

 【魅了】のスキル凄い。


 「あれ、このスライム売られているみたいよ。」


 「1キル?安すぎない?」


 そうだ。

 僕は安いから早く買って。

 買って一緒にお風呂に入れて下さいお願いします。

 

 女の子達が僕の思惑通りに僕が入っている檻に手をかけようとしたとき、野太い声が響き渡った。


 「なにそのスライム!ちょー可愛い!!」


 口調は女の子っぽい。

 だが女の子達を押し退けて現れたのは身長二メートルにもなる筋肉ムキムキの大男だった。


 「この子ちょー欲しいんですけど!」


 突然現れた大男は両手をあわせ、くねくねと揺れる。

 僕は恐怖を感じた。


 ヤバイ。

 僕、オネエに目をつけられた。


 

 

 


 

 

 

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