久しぶりにスキルを使った件
背中に羽根が生えた蜥蜴のようなモンスター、デミドラゴン。
全然ドラゴンっぽくないていうかただの羽根が生えた巨大な蜥蜴そのものなんだが、明らかに僕より強いから馬鹿に出来たものじゃない。
まあ、大体のモンスターよりも弱いんだけどね。
「ふ、んっ!!」
「GYAA!!」
デミドラゴンが降り下ろした尻尾に対し、アレックスが手にもったハンマーを打ち付ける。
まるで金属どうしが激しくぶつかりあったかのような甲高い音が響き、火花が飛び散る。
衝突の衝撃でデミドラゴンの尻尾は真上に跳ね上げられ、アレックスの体は地面を抉りながら、数十センチほど後退する。
「古竜の骨から削り出した一品よ。ドラゴンもどきの蜥蜴ちゃんの尻尾攻撃くらいじゃびくともしないわよお。カモンカモン。」
「GUGYAA!」
「あらよっと!」
アレックスは人差し指をくいくいと動かして、デミドラゴンを挑発する。
デミドラゴンはその挑発を理解しているのかいないのか、唸り声を上げながら、前足を降り下ろすが、アレックスはその図体に似合わない身軽さでその攻撃をよける。
肩に乗せられている僕はその動きに振り回されっぱなしだ。
どうにか振り落とされないように、アレックスの肩にしがみついて耐える。
これがスライムの体ではなく、人間の体だったら僕は吐いているだろう。
「しかし、これじゃあだめねえ。」
デミドラゴンの猛攻をよけながらアレックスはそんなことを呟く。
一体何が駄目なんだろうか。どっからどうみてもアレックスはデミドラゴン相手に苦戦していない。
スキルも使っていないのに、単純な肉体の性能だけでデミドラゴンと渡り合っている。
スキルを使えば、一瞬とは言わなくても大した時間をかけずに倒すことが出来るだろう。
「ぴぎー?(どうした?)」
「いやね、このまま倒してもシーちゃんには経験値が入らないのよねえ。かといってシーちゃんをぶん投げてもシーちゃんのほうがダメージ受けちゃうし。」
まあ、そうだろう。
デミドラゴンの鱗は先ほどのぶつかり合いでもわかるように金属のよろいのように硬い。
そして、僕は柔らかい。そんな僕がデミドラゴンにぶつかっても毛ほどもダメージは与えられないだろう。
つか、死にます。
「ダメージが与えられないとなると、毒とか麻痺の状態異常を相手にかけるとかかしら。いやでも、シーちゃんはまだ普通のスライムだからそんなスキル持ってないでしょう?」
確かに、僕は普通のスライムだからそんな相手を状態異常にできるようなスキルを有していない。
ポイズンスライムとかパラライズスライムとかだったらそんなスキルを持っているけど、上位個体だ。
ん、いやいや持ってた持ってた。そういえば、僕には女神さまから頂いた【魅了】のスキルがあったんだ。
買われた時以来使ってなかったから、忘れかけてた。
「ぴぎー!(ある、あります!)」
「あら、どことなく自信ありげねえ。」
鳴き声を上げて、アレックスに訴える。
言葉はあいかわらず通じないが、僕の意思はどことなく伝わったようである。
さっそく、スキルを使いたい所だがしかしデミドラゴンは僕に注目していない。
奴が見ているのはアレックスの方でその肩に乗っている僕には全く興味がない。おそらく、視界にも入っていないだろう。
今の状況では【魅了】のスキルの効果は発揮できない。
相手の敵対心をさげるにしろ、好感度を上げるにしろ、相手に注目されてなければ当然のことながら効果が発揮しない。
僕がいきなり発光したりすれば、簡単に注目をひけるのだが生憎スライムの体はそんなに便利なもんじゃない。半透明だし、光ったりしそうだけど。
では、僕がデミドラゴンの注意をひくにはどうすべきか.....簡単だ。
「ぴぎー!!(前進じゃー!!)」
「えっ、近づけばいいのね?」
体を前のめりにして、アレックスに意思を示す。
これが飼い主とペットの絆というべきか、アレックスは即座に僕の意思をくみ取り、全身をばねのようにしならせ思い切り跳躍し、デミドラゴンの眼前に着地した。
デミドラゴンの体表は強靭な鱗に覆われていてとても硬い。僕の体は柔らかく、体当たりなんかで攻撃すれば僕の方にダメージが来てしまうのは一目瞭然だ。
しかし、それはデミドラゴンの体表にぶつかればの話である。言ってしまえば、鱗がない硬くない場所に攻撃すれば、僕でもデミドラゴンにわずかながらにダメージを加えることが出来る。
そう、例えば.....目とか。
眼前に着地され、デミドラゴンの体が身じろぎして動きが止まる。
その隙に、僕はアレックスの肩から飛び出して、その見開いた瞳に体当たりを仕掛けた。
「GYAAAAA!!!」
体に衝撃がはしり、跳ね返される。
直後にデミドラゴンの絶叫が響き渡って、僕の攻撃が効いたことにちょっとほっとする。
「ナイスよ、シーちゃん。でも、まだダメージが少ないわ。」
「ぴぎー(まだまだ)」
即座に回収しに来たアレックスの手に掴まれ、肩に乗る。
ダメージは少ない、わかっている。強烈な痛みこそあれ、目をつぶしたわけでもなしデミドラゴンは対してダメージはくらっていないだろう。
けれど、ダメージを与えることが目的ではない。注意さえ引ければそれでいいのだ。
頭を振って、デミドラゴンがこちらを向いた。その瞳は先ほどよりも明らかに敵意に染まっていて、アレックスの方ではなく、僕の方を向いていた。
どうやら、相当痛かったらしい。
「ぴぎー(よし)」
注意は引けた。
あとは.....【魅了】発動!!
スキルを使用した瞬間、デミドラゴンの動きが停止する。
僕はデミドラゴンの瞳を観察するが、その瞳には完全に敵意が失われていて、僕は自分の作戦が成功したことを確信した。




