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神託の巫女

雪の性格がどんどん後ろ向きに……

(;゜Д゜)コミュ障発症中って。

 一般公開されている神殿の奥に一つの小さな扉があった。神殿の中でもごく限られた者しか入ることのできない『部屋』に続く扉だ。『祭壇の間』と言われ、巫女が『神託』を聞いたり、司祭が『祀りごと』を行うために設けられた部屋であった。所謂『聖なる場所』と言った所だろう。



 見上げれば張り巡らされたステンドグラス。そこからは淡い太陽の光が降り注ぎ荘厳な雰囲気を作り出していた。



 中心には円形の台座。それを取り囲むように八体の石像。そのうち七体は外を睨み付けている。まるで――内側を護るように。その外を睨む者すべては『人』ではなく、ライオンのような猛々しい獣の姿をしている。ただ、内側を見ている一体は美しい羽根を持った天使のようだった。



 その躍動的で美しい姿態は小型ではあったが『サモトラケのニケ』を彷彿とさせる。



 その台座の中心――そこに坐していたのは一人の少女だ。年の頃は小学高学年ほどだろうか。まだ幼さが色濃く残り、身体も折れそうなほどに細い。白と赤。コントラストが映える衣服はどこか『神社の巫女』を連想させたが衣服はヨーロッパとアジアを合わせて割ったようなものだ。その世界の人々が着るそれの延長にあるものだと思われた。



「レイチェル」



 ルナが呼ぶと閉じていた両眼をすっと開く少女。長い睫の奥には青い――コバルトブルーの瞳だった。



 どうでもいいことだが。雪は感じていることがある。それは劣等感から『そんなもの』ばかりに目がいってしまうのか、はたまた雪の目が変になってしまっただけなのか。



 ともかく、この世界の人間は『美男美女』が多いと言う事だ。それが『普通』と言わんばかりに神殿に来る人々もここで働いている巫女や司祭も端正な顔立ちが多かった。



 はっきり言って浮いている。ただでさえ黒髪、黒目で浮く――この世界では珍しい――と言うのに。浮きまくりの平凡に雪は項垂れ、ある意味でこの世界に来た不幸と共に、より一層望郷の念が強くなるのをどうしても感じてしまう。



 そうして、その例に漏れることなど何一つなく『レイチェル』は美少女であり、雪は『またか』と諦め気味の息を付くしかなかった。



 そんな事など気づくはずも無くレイチェルはふわりと柔らかく雪に笑いかける。化粧の為か元からなのか、その白い頬は子供らしく赤く染まっていた。



 現実ではありえない、銀にも青銅にも見える髪がさらりと揺れる。



「コンニチワ――hboiulnて、ウレシイ」



「え――いや。うん」



 子供相手にどう反応すればいいのか分からない。上から目線では少し違う気がして戸惑ったように曖昧に返した。



「ね、レイチェル。『神託』でなんか言われたの? こんなところに呼びつけて――また『世界を変える』みたいなくだらない神託を?」



 雪の思慮を簡単に飛び越えていくルナ。よく考えれば『同期』そう言っていたので気心は知れているのかもしれない。ただ、同年代ばかりがいる学校しか知らない雪にとって、『かなり年齢が違う同期』をよく理解していなかったが。



 それにしても『世界を変える』と雪にとってはた迷惑な事を言ったのも目の前の少女らしい。絶対にろくでもないことだと心の中で決定づけて雪は小さな少女に視線を向ける。当然視線が合う事は無いのだが。



 レイチェルは雪から視線を反らすとルナと司祭を窺うようにして交互に見つめた。ゆったりと開く薄い唇。言葉が紡がれるたびにレイチェルの表情から幼さが消えていく事に違和感を覚えていた。



「inhlhn:l]@眠るdcrserbおう;[phesrw世界se4dc@……」



 辛うじて聞き取れる単語も何一つ雪の名で言葉として繋がらなかった。けれどいい意味ではないことは明らかで、ルナは不快そうに眉間に皺。司祭は驚いた様子で聞いていた。



 増していく空気の重み。ここに関係の無い人間がいたら今すぐ逃げ出してしまうだろうがそう言うわけにもいかない。



「は? そんな馬鹿な神託あるわけないじゃん」



 雪が何かを聞く前に剣呑とした声が響いた。



「どれだけ、どれだけ皆が頑張って来たと思うの? どれだけの命が『虚無』の為に散ったと思う? 過去から今まで――なのに」



 雪に向けられた双眸には怒りが灯っていた。直接ぶつけられる敵意に身体が思わず反応する。その肩は驚いた様に揺れ、瞳孔は収縮していた。早鐘の様に鳴る心臓。乾く口許からは言葉など出てこない。本来なら『何故睨む』と怒るべきなのだろうが、雪は人と関わることを極力避けてきた為こうして敵意をまっすぐに浴びたことが無かった。どうしていいのか分からない。脅えた様に揺れる双眸に呆れ気味にルナがため息をついた。



 緩んだ敵意に雪ははっと息を吐く。



「これよ? 私が睨んだくらいで脅えるし。力だって無いのよ? 腕だって細いし。女の子みたいなのに。……イヨユキが世界の『中心』に行って『女神』を起こせば世界は変わるって、そんな馬鹿な神託ある? 神様はどうして頑張って生きてきた私たちにその使命を与えてくれなかったのよ?」



 だいぶ散々に言われているが気にしようとは思わなかった。力が無いのは事実だし、華奢なのは体質だから仕方ない。そんな事より『後半』の会話が気になる。



「……世界の中心――女神?」



 何がなんだか分からないまま呟くとルナが低く不機嫌そうに返した。爪を噛む癖があるのだろう。顔を顰めたまま、親指の爪をカリカリと噛んでいる。



「私だって初めて聞いたわよ……そんな事って無いわよ。それを教えてくれれば――」



「uhy人jhujmj;o/;-[P][-:J;:K\pl;神[@LP@;[ljhuytgrtuk……信じるljmk;,lp]po価値」



「うるさいです。司祭様。――分かってますよ。私だってこの神託の巫女でありこの世界の住人ですから」



 隣で少し困った顔を浮かべている司祭をルナは睨み付けた。それでも笑顔が消えないのは大物だからか、それとも自虐趣味か。



 それを無視するようにしてルナはまっすぐに雪を見つめた。意図していなかったことに目を反らそうとした雪。しかしそれは叶わない。ルナの発する雰囲気がそれをさせなかった。



 真っ直ぐに向けられた双眸は強い光を宿したまま、形の良い唇がゆっくりと開かれる。



「イヨユキ――この世界は、私達人類は滅びの道を辿ってる。本当に、イヨユキが『世界を変える』のなら――私達を助けてくれない?」



 一緒に――。



 そう言って差し出されたルナの手を雪はすぐに手を取ることは出来なかった。


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