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プロローグ
白い、冷たい部屋だった。
辺りに漂うのは特異な消毒の臭い。
消して心地いいとは感じられない部屋の中、真新しいシーツが轢かれたベッドの上にその少女は横たわっていた。まだ幼さを色濃く残した少女。しかしながらその顔は白を通り越して青に近く、年ごろから考えればふっくらしているはずの頬もやつれていた。乾いた紫色の唇からは微かな息遣いが聞こえてくるが、それが無ければもしかしたら死んでいるのかもしれない。
不安に思う程に少女は身動ぎ一つしなかった。
この間、声を発したのはいつだったか――ベッドの隣で見つめるのは少女の母。疲れ切ったその双眸には悲しみしか浮かんでいなかった。もう、長くない。そう言われて誰が諦めきれるだろうか。誰が希望を捨てるだろうか。だから、いつもの様に母はその病室で語りかける。こうなる前に少女が好きだった物語を――。
少女自身が作った終わりなき物語を母は語り続ける。
また再び娘が世界を紡げることを信じて。