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俺と勇者リリエ~FlankieFlanker~  作者: 加藤雅利
俺と勇者リリエとモンスター倒してるっぽい日々
8/12

俺と勇者リリエの膝枕

いつもの畳敷きの部屋に入った俺が目にしたもの。

和室用のテーブルの向こうに、コミック本を読みながら寝っ転がっているリリエの姿。ここまではいつも通りの風景だ。

それを見て俺は、勇者ともあろうものがこんなだらしなくていいのだろうか、と毎度ながら思う。

しかも今日のリリエときたら、この前仲間にしたばかりの委員長の膝を枕にして横になっている。

俺の口からは、思わずため息が漏れていた。

「はあ」

吐息の音だけではないく、しっかりとした発声を伴う溜め息が出た。楽譜だったら、フォルテだとかの記号が付いているに違いない。より強い、というやつだ。

俺の声を聞いて、リリエと委員長がそれぞれ口を開く。

「なんだいきなり。今日返されたテストが最悪だったのをまだ気にしてるのか」

「今回の数学はクラス平均も低いから落ち込んじゃだめですよお」

「確かに48点でしたが、そのことじゃないですって。あと委員長の点数は平均より遥かに下じゃないですか、むしろ少しは動揺した方がいいですって」

俺は上履きを脱いで、和室に上がる。

リリエは視線をコミック本に戻し、ページを捲り始めた。くつろぎ100%といったところだ。

「リリエ、それは何ですか」

「それって、何が」

「委員長の膝枕ですよ。委員長がここにいるのは仲間だから分かるとして、どうしてそんなことさせているんですか」

「漫画読もうとしたら、丁度よさそうな枕が見えたんだよ」

「仲間を枕扱いしないでくださいよ」

確かに、リリエの頭の重さを優しく受け止めている委員長の太ももは、丸めた座布団などとは比べ物にならないほど柔らかいことだろう。

けれども、委員長があまりにもおおらかな性格だからといって、扱いが粗末すぎではないだろうか。旧知の知り合いでもなく、今までの学校生活ではあまり会話したこともなく、仲間になって数日だ。

委員長がもっと意識の高い、正義に燃える聖騎士などだったら、初仕事が膝枕だと聞いた瞬間に悪落ちするかもしれない。

「委員長、勇者の仲間だからって、命令に従わなくてもいいんですよ」

俺は一応、そう言っておく。

「おいおいー。委員長がそんなの気にするわけないだろー」

「それは、頼まれたことを断らない性格なだけじゃないですか」

言葉の応酬を続けるリリエと俺。委員長はといえば、呑気そうな顔に穏やかな笑みを乗せて、俺たちのことを見ている。

のんびりとした雰囲気の委員長を見ていると、俺がリリエにあれこれ言っているのが、なんだか馬鹿らしくなってきた。

太ももだけではなく、性格含め全体的に柔らかそうな委員長には、癒し効果でもあるのかもしれない。

「なー、も委員長の膝枕使ってみろよー。すっげー寝心地いいからさー」

と言って、リリエは身体を起こした。そして、今まで頭を乗せていた場所を指差す。今まで圧力を受けていた布地に、微かな折り目が付いていた。元に戻ろうとする太ももの膨らみを受けて、緩やかにスカートの生地が動いている。

とても、柔らかそうだ。

リリエに突っ込みを入れた手前だというのに、ついつい見入ってしまう。

「クーヤはさ、気にし過ぎなんだよ。委員長もリリエにどうぞどうぞって言ってるぞ」

「言ってないじゃないですか」

そう話していると、すかさず委員長が、

「どうぞどうぞー」

と笑顔を向けて来る。

「新たな仲間を加えた直後に、交替で膝枕をするパーティなんて、聞いたこと無いですよ」

「やったな、世界初だ」

そういうことが言いたいわけじゃないのに。

じーっと、リリエと委員長の視線が、俺の眼球を貫き続ける。

静かな間。校舎の外からは、野球部のランニングの掛け声が聞こえて来る。

「もしかして、クーヤは委員長が嫌いかな」

「……そういうプレッシャーのかけ方にきましたか。分かりましたよ、そこまで言うのなら」

結局、委員長の膝枕に僅かながらも誘惑を感じていた俺は、和室を進み、腰を降ろして横になる。

「お、おっ」

つい感嘆符が漏れ出てしまう。

柔らかい。一度包み込まれたら離れられないほどの、極上の枕だった。

驚きに目を見開いたところを、リリエにばっちりと見られる。

「ほら言っただろ、委員長はスライムのクオーターだから凄く柔らかいんだって」

「く、悔しい。ミイラ取りがミイラになるを実践してしまった」

「ええーっ、クーヤさん、アンデッドモンスターだったんですか」

「いや、慣用句ですって……」

気持ちの良さを味わう感動はすぐさま過ぎ去り、俺は目を閉じたくなった。眠気に耐えて授業を受けた放課後でもあるためか、意識をもってかれそうになる。

これはもはや、人をダメにする枕だ。

敗北感と共に、俺は委員長の腿肉を堪能する。温かいが暑苦しくはない絶妙な感覚。視線を動かせば、さらに柔らかそうな胸部のナイスメロン。女同士とはいえ、手を伸ばしてしまいそうになる。

なんだこれは。楽園か。

幸福感に包まれる。

その最中においても、俺の他人への気配りが鎌首をもたげた。

「ところで委員長、この部室に来てますけど、放課後は委員会があるんじゃないですか」うっかり聞いてしまった。

「あ!」

という、今まで聞いたこともない委員長の声と共に、俺は宙に浮いた。急に立ち上がられて、膝枕は強制解除だ。

俺の頭は戦闘機の脱出座席のように射出される。

ゴン。

テーブルの角に額を打ち付け、幸せ気分が、目の前に光った星と共に痛みに変わった。

委員長は持ち前の天然さをもって、俺が頭をぶつけたことに全く気付くことなく、和室の玄関で靴を履き替え始めた。

「放課後に委員会があるのわすれてました、いってきますっ!」

ぱたぱたと廊下を走り去っていく足音が聞こえる。

「うう、痛い」

ごろごろと畳の上を転がった俺は、その先に座っていたリリエに接触して止まった。

「委員長、たまに凄くすばやいんだな」

リリエが感心したように言う。

「気になるのそっちですか。俺のことも心配してくださいよ」

「それを言えるうちは大丈夫だろうと思ってさー。クーヤが動かなくなったら心配するよ」

「委員長の膝枕は確かに心地よかったですけど、幸福度はこれでプラマイゼロってところですよ。ぶつけたところ、切れてませんよね?」

仰向けに寝たままで、リリエに傷の様子を見てもらう。

「赤くなってるだけだぞ。ぶっ飛び方が面白かったから、私は幸福度プラスプラスだ」

「それは、ひどいですよ」

不満を言うと、足を投げ出すようにして座っていたリリエが、足をたたんで姿勢を正した。

「しょうがないなあ。じゃあ委員長の代わりに、私が膝枕させてやるよ。それで少しはプラスにしろって」

「はいはい、分かりましたよ。えっ?」

いつものリリエの適当さに合わせる形で、自然に応えてしまってから気付く。リリエの膝枕に乗ることになっているではないか。

「なに驚いてるんだよ。不満なのかー?」

「いえ、よくもまあ、そんなことを軽く言って来るものだなと思っただけですよ」

その後は、リリエの小さな膝に頭を乗せ……。結構、恥ずかしかった。

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