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俺と勇者リリエ~FlankieFlanker~  作者: 加藤雅利
俺と勇者リリエとモンスター倒してるっぽい日々
5/12

ある日の放課後~ゲーセンに行く女子高生勇者たち~

普段は剣を握っているリリエが、いまは銃を握っている。少し離れた画面の中に湧き出てくるゾンビの群れに向かって、引き金を引いているのだ。

俺とリリエは放課後、商店街にある小さなゲームセンターに来ていた。

学校からこの場所までは、気軽に徒歩で来れるくらいの距離しかない。だから、町に出現するモンスターを退治しに行く前に、こうして時間を潰すために立ち寄ることが多いのだった。

今日の俺たちは、ゾンビをマシンガンで撃つゲームをしている。

太鼓でドンドンする音ゲーなどに興じる方が似合っているのかもしれないが、リリエは敵を倒すゲームの方が好きなようだった。持って生まれた勇者としての素質なのか、それとも単に彼女の嗜好なのかは、いまいち判断できない。

「おっ、ハイスコアの点が動き始めたぞ。やったな、私たちが一番だ」

ゾンビを薙ぎ倒しながら、リリエは俺に話しかけて来る。

「“私たち”って、俺は始まってすぐにゾンビに八つ裂きにされてますよ」

そうなのだ。リリエ同様に俺もまた、ゲーム筐体とコードで繋がったマシンガンを持っている。しかしプレイヤー2側はすでに死んでしまっているので、片手だけでグリップを握り、銃口を床に向けてぶらぶらとさせていた。開始早々、ゾンビの波状攻撃を受けてコンテニュー回数も使い切り、ゲームオーバーになってしまったのだ。画面には、コインを入れるがよい、と英語で表示されている。

傍から見れば、可愛いらしく小さなリリエに比べて、目つきが少し鋭く身長タッパもでかい俺の方が、戦うゲームでは高得点を出しそうに見えることだろう。実際は全くの逆なのだけれど。

「このボスのパターンはこんな感じか、楽勝だなー」

リリエはそんなことを言いながら、画面に表示される羽虫の群れを迎撃していく。彼女はゲームが上手い。勇者であるせいかは分からないけれど、剣と魔法が出てくるような、所謂いわゆるファンタジー世界を題材にしたネットワークゲームでは凄まじい活躍をしたらしい。ギルド戦では複数人のプレイヤーに囲まれながらも無双し、勇者扱いされている。

さらに以前リリエは、

「ゲーム引退するときにレアアイテムを配りまくったら『神』とか言われた」

と言っていた。現実の勇者は、電脳世界では勇者どころか神格化すらされてしまっているようだった。

ゾンビを撃つゲームは終盤に入り、工場の建物を砕きながら迫る竜のゾンビが画面に出現した。弾け飛んだコンクリートブロックがこちらに飛んできて『DANGER』と表示されるが、リリエは冷静かつ的確に撃ち落とす。そこに難しそうな

ああこいつは、現実でもゲームでも、竜と戦う勇者様だな、と思ってリリエをみていると、突然俺の方に視線を向けてきた。同性だというのに愛くるしい上目遣いの瞳に見上げられて、俺は見つめ返したまま、動けなくなってしまった。

時間にして1秒程度。長くはないのに、不自然に間が出来てしまって気まずい。

やがてリリエは画面に視線を戻し、竜が腕で弾き飛ばしてくる岩の塊を難なく撃ち落した。そしてゲームをプレイしながら、俺の名前を口にする。

「クーヤさー」

「な、何ですか」

「私だけじゃ勝てそうもないや。生き返ってよー」

「圧勝そうに見えますよ。今のも棒読みでしたし」

「あー負けるー」

俺に見せつけるかのように、リリエはトリガーを引く操作を止めた。被弾して敵の猛攻を受け、一見ピンチになる。もちろんわざとだ。コンテニューしてゲームを再会しろということらしい。

しょうがないなと筐体の上に置きっぱなしにしていた財布を手に取った。女子高生は、そう何度も生き返っていられるほどお金を持っていないというのに。

リリエに催促され、プレイヤー2側のコインスロットにお金を入れる。ピョコーン、と景気のいい音がして、ゲーム画面の端にマシンガンが持ち上がって来る。俺が操作するべきキャラクターが復活したのだ。

棒立ちでゲーム画面を見ていた俺は、コントローラの照準を画面に向けて、引き金を撃つ。リリエとの共闘が始まった。

竜のゾンビが毒液を吐く。足元のペダルを踏み、ゲーム内の俺を横にステップさせて、攻撃を避ける。

ゲームをしながら一瞬だけ、リリエの方を見る。さっきまで作業のようにゲームをしていたリリエが、少しだけ楽しそうに見えた。

リリエは俺と一緒に、ゲームをしたかったのだろう。俺は別に、リリエがゲームをするのを脇でみていてもよかったのだけれども。

友達だから、ただ一緒にプレイしたいだけなのか、それとも仲間だから、共に戦いたかったのか、それは俺には分からない。

こちらが優勢のまま、竜との戦いが進行していく。主にリリエが上手いためだ。俺はすぐに被弾して、ゲームオーバー目前になってしまう。

ゲームであろうと、現実の戦闘であろうと、俺はリリエのように戦えはしないのだ。

竜の爪が迫る。

「あっ、俺もう死にそうです」

そう宣言する。赤く点滅する俺のライフゲージは、どう見てもあと一撃でゼロになることだろう。

これでゲームオーバーになったら、またリリエにせがまれて復活するときに散在してしまうな、と俺は財布の中に硬貨があるかを思い出そうとした。そのときだった。

リリエが足元のペダルを小刻みに踏み、ゲーム内でサイドステップした。俺の前に、割り込んだリリエが、爪の攻撃を迎撃する。

守られる形で、俺の操作するキャラクターが生き延びたのだ。

「このゲーム、そんなことまでできるんですね」

「操作方法の端っこに、テクニックとか書いてあってさー。やってみたくなったんだよね」

と言って、リリエは筐体の一部を指差した。なるほど。サイドステップのやり方が書いてある項目の中に『熟練者向け:攻撃のブロッキング』という説明があった。

「へへへ、やってみたかったんだよね。熟練者向けとか煽られるとさー」

「単にそれがやりたくて俺を復活させたんですか」

「クーヤのプレイは下手だからね。私のブロッキングが出しやすいと思ってさ」

少しがっかりする。ゲームの技を試すためのダシに使われていたとは。

先ほどは、仲間を守ったリリエが、勇者のように見えて、いや彼女は勇者そのものなんだけれど、なんだか恰好良いと思えてしまった。それが俺を、悔しい気分にさせる。

「あーでも」

とリリエが続ける。騒がしいゲームセンターの中にあっても、綺麗に澄んだ声は俺の耳にしっかりと入って来る。

「たとえゲームでも、仲間がピンチになったら、私は守るぞー」

勇者の思考は、本能的に、そのように出来ているらしい。彼女の台詞を聞いて、やっぱり格好いいなと感じてしまう。勇者の特性として、他の人間に比べてカリスマが高いことも影響しているのだろうけれど、頭でわかっていても感動してしまう。

「じゃあクーヤ、ボス倒そうか」

「は、はい」

二人の十字砲火が、竜の頭部に吸い込まれていく。

画面がフラッシュして、敵の巨体が崩れ落ちる。ステージクリアの文字が表示された。

「よっしゃあああ」

元気に跳ねるリリエが、俺の眼前に手のひらを突き出す。

ハイタッチだ。ほとんどリリエ一人で倒したようなものじゃないか、と気後れしつつ、手を合わせた。

次のステージが始まる。

リリエが時々、俺を守りながら、ゲームが進行していく。

ゾンビを撃ちながら、せいぜい現実では、強敵と戦う時に彼女の足手まといにならないように、安全な立ち回りをしようと思った。リリエを上回るモンスターと戦ったことはないけれど、いつも彼女が俺を守れるとは限らないのだから。

勇者のカリスマ恐るべし。

こうしてゲームセンターで何気なく一緒に遊んだだけだというのに『仲間である以上は、リリエの足を引っ張らないようにしたい』という薄らとした思いが、俺の思考に根を張り始めて……いるような気がした。



「あっ」

俺の操作するキャラクターは、その後すぐに死んだ。

勇者の仲間ではあるけれど、どちらかと言えばフツーの女子高生にとって、ゲーム後半の猛攻は厳し過ぎるのだった。

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