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お父さんの手紙と優しい言葉

「娘へ

俺はもうすぐ死ぬだろう。後のことはこの座敷童子の青年に任せてあるので、仲良く暮らすんだよ。座敷童子は家を幸せにしてくれるらしいから父も安心だ!!ちなみに彼、体がすごく弱いから追い出しちゃったら死んじゃうかもしれないよ?死んじゃったらいつきちゃんの責任だから!!

P・S 父がいないからといってイチャイチャしすぎはダメだぞ!!なーんちゃって

父より」



おいっ、父親!!喧嘩売ってんのか!!なーにがイチャイチャだ、なーんちゃってだ!!

いきなり意味がわからんわ。しかも父親もこいつのこと座敷童子って言ってるし騙されてんだよ!!しかも、追い出して死んだら私の責任になるのか!!


ダメだ・・・・。ツッコむ事が多すぎて追いつかない。とりあえず、この手紙をなかったことにしてしまおう。


「あーっ、いつきちゃん手紙燃やしちゃダメだよ!!」


そう言われて我に返ると手にはライターが。現実を拒否したいために極端な行動に走ってしまったらしい。

「えと、いつきちゃんとりあえず落ち着いて。深呼吸、深呼吸」

すーはーすーはー。おおきく深呼吸をしてみると少し落ち着いた。


「まず、父とは知り合いなんですか?」

「うん。仕事関係でちょっとね。手紙にもあったと思うけど僕は君のお父さんと約束したんだ。お父さんが亡くなったらいつきちゃんを守るって」

「ふざけた内容ばかりで、そんなこと一言も書いてませんけど・・・」

「そうなんだ・・。事情はちゃんと書いておいてって言ったのに。君のお父さん適当なとこあるから」

それには同感だ。あの父親は大概ちゃらんぽらんで計画性なんてまるでなかった。


「まあ、ともかく僕は君をお父さんから頼まれた。法律上も有効みたいだし、お父さんの代わりに君を一番近くで守らせてほしい」

今までののほほんとした顔から真剣な顔になって、まっすぐにこっちを見つめてくる。その真剣な瞳に思わずドキっとしてしまいそうになる。というか、このセリフってプロポーズみたいじゃない?

そう気づいてしまったら一気に顔が赤くなる。


「い、嫌です!!第一、若い男女が一つ屋根の下って不健全ですよ」

「なんで?」

銀髪が不思議そうに問いかける。

おおーう、そう来るか。私なんて女のうちにも入らないということですね。よし、その喧嘩受けてたってやるよ!!


「私だって一応、女ですし。あなたに危害を加えられるかもしれないからです」

「ああ、そういうことか。それは、ないよ。だって僕は座敷童子でいつきちゃんを幸せにするためにいるんだから傷つけるなんてありえない」

満面の笑顔で言い切った。よかった、一応女の子だという認識はあったみたい。というか、座敷童子設定まだ引っ張るんだ。


「とにかく、私は今までも一人みたいなもんでしたし、これからも一人で生きていけます」

だから、帰ってくださいという意味を込めて言ったのに銀髪は首を傾げてわかってない感じ。うん、これはきちんと伝えた方がよさそうだ。

「だから!!」

「でも、一人で生きていけるって一人でも寂しくないって意味ではないよね?」


唐突に紡がれた言葉が先ほどの言い知れぬ感覚を思い出させる。

誰も帰って来る事のない家、使われることのない食器、お父さんとの思い出・・・・。

そう考えてしまってからブンブンと頭を振って思考をストップさせる。私なら大丈夫、うまくやっていける。それに寂しくもないから。


「いいえ、私は寂しくありませんから、あなたは必要ありません」

きっぱりと言い切ると銀髪がまっすぐ見つめ返してきた。


「嘘。いつきちゃんは強くなろうって思って寂しさから目をそむけているだけだよ。それじゃあ、いつまでたってもお父さんの死に向き合えない」


「あなたに何がわかるのよ!!私は寂しさなんて感じてないの。それにお父さんが死んじゃったってことは痛いほどわかってるのよ!!」

図星をさされたような気がして頭に血が上る。そして、そのまま思いつくままに叫んだ。


「あのね、いつきちゃん。寂しさと向き合うってことは、その人がいなくなったことと向き合うってことなんだ。君が寂しくないのはお父さんの死から目をそむけているのと一緒なんだよ。大好きなお父さんがいなくなって寂しくないはずないんだから」

「そんなの屁理屈です」

「うん、屁理屈かもしれないね。でも、寂しさと向き合わなきゃ一生お父さんの死を受け入れられなくなるよ。いつきちゃんは、まだお父さんの死を現実だと思いたくないんじゃない?だから、寂しさも実感できない。確かに寂しさと向き合うのは辛いことでそのままでいいって思うかもしれないけど僕はそれじゃあお父さんがかわいそうだと思うよ」

「お父さんがかわいそう?」

「うん、寂しさを認めてそれを乗り越えることで、死も乗り越えられるんだ。僕だったら死を乗り越えて生きていって欲しいと思うから」


そう言われてストンと納得できるものがあった。

ああ、今まで父親の死に現実味がなかったのは、私が死と本当に向き合ってなかったからなんだ。そして、あの言い知れぬ感覚は寂しさだった。私はその感覚に襲われそうになると強くならなきゃと寂しさから逃げていた。そして、父親の死からも逃げていたんだ。

じゃあ、辛いけど私も前に進まなきゃ。


「やっぱりお父さん死んじゃったんだ?」

「うん、残念だけど」

淡々としているけど優しい声が私の心に沁み込んでいき、父親の死を実感させる。今までも他の人からさんざん父の死を悲しむ言葉をかけてもらったのに彼の短い言葉には一番思いがこもっている気がする。

そして、父親の死を自覚するのと同時に寂しさが襲ってくる。

「お父さん、死んじゃったら私、一人になっちゃう」

「大丈夫。君がお父さんの死を乗り越えて寂しくなくなるまで傍にいるよ。なんたって僕は君を幸せにする座敷童子なんだ

だから、無理に強がらないで寂しいって言っていいんだよ」


まだ、座敷童子って言ってんのかよってツッコみたかったけど、ただただ優しい言葉に涙がこぼれそうになる。

「あれ、おかしいな。泣くつもりなんてないのに・・」

慌てて涙をぬぐおうとするとその手を掴まれて抱きすくめられた。

「ちょ、ちょっと!!」

あわあわする私の背中をポンポンとあやすようにたたく。

「泣いていいよ。いつきちゃん、どうせ泣いてないんでしょ?」

背中をたたくリズムと体温が心地よく、安心感に包まれて涙がぽろぽろと止まらない。とうとう子供みたいに泣いてしまった。


「お父さん、死んじゃいやー!!さみしいよー」

「よしよし、やっと言ってくれたね」

泣きじゃくる私に優しく笑う銀髪。あたたかい空気が2人を包んでいる。


ああ、きっとコイツは私を幸せにしてくれる、そう直感した。そういう意味では本当に座敷童子なのかもしれない。



「すっきりした?」

しばらくして落ち着いてきた私は頷く。ヤツは私が泣いている間ずっと抱きしめていてくれた。

まだ、父親の死を受け入れきれないけど見つめ合う覚悟はできたと思う。これからは、私も死を受け入れて変わっていかなきゃいけない。でも、私ひとりじゃ無理だ、そばにはアイツにいて欲しい。

直感を信じて、ちょっと恥ずかしいけど勇気を出して言ってみようか。


「あ、あのさ。別にここにいたいんならいてもいいけど・・・?」



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