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哀刀  作者: KY
2/2

蕾はまだ青く硬い


 「神風聞いてんのか!」


 先生の言葉でびくっと起きた神風は、堂々とあくびをしてみせると頭を掻きながら答える。


 「いや……見ればわかるでしょ。私寝てたじゃん」


 先生は呆れ顔を見せると一度溜息をして授業を進めた。今やっているのは歴史だ。


 「二十年前、政府が武器を手に取ったきっかけは国の借金だ。お前ら政府に属さない一般人がもっと金を出せば武器を取らなくて済んだわけだ。お前らのせいなんだから素直に国の為に働け!」


 反政府組織に入るなんてもっての他だと先生は言った。別に誰も何にも言わない。

二十年前はどうやら憲法九条という武器を持たない、持ってはいけないルールがあったらしいのだけど、今では銃を持ち歩くのが当たり前な世界になっている。


 ――武器を持つのが当たり前――


 みんながそれぞれ命を守っている。命を守っている。


 ――それが普通――


 しかしこの彼女これを普通だと思っていない。

 机をバンと叩くとこう言い放った。


 「そんなの間違っているね。私は卒業したら哀刀を受けに行く。そんで憲法九条だっけ?取り戻してやる!」


 悪いのはあんたら政府の人間だ。

 神風はそう言い放った。


 神風かみかぜ 白葉しらは 、十八歳の女の子。

 身長153センチ。体重42キロ。

 髪は肩に少しかかるくらいの茶色。

 目の色は黒。二重。

 歯の色は白。歯並び良。


 好きな食べ物、ハンバーグ。

 嫌いな食べ物、玉ねぎ。(ハンバーグに入れた際には半殺しもの)


 長所は根性と集中力があること。


 夢はスナイパー使いになることだと大声で三年最初にやる恒例行事の自己紹介で言ってのけた。もちろん反政府組織、哀刀のスナイパーになりたい。

 白葉には取り返したいものがある。


 兄の仇。


 なぁに言ってんの?や本当に女かよ?そんな罵倒が周りの女子を筆頭に白葉に飛ぶ。

 学校は政府の管轄だ。校内での武器の使用がいくら禁じられていようと、ここにいるのは政府に味方する奴がほとんどで、将来は国のもとへと決め込んでいる奴ばかりだ。


 しかし白葉は、そんな逆境に歯向かうようにして椅子から跳ね上がると先生に指を向けて怒鳴るように言った。


 「政府なんか私が壊してやるんだから!」


 「バカかお前!!」


 生徒の笑い声が教室に響く。そんなことで揺らぐ思いではないのだけど……

 辛いものは辛い。

 放課後、先生に白葉は反省文を十枚書くように言われた。


 「ハゲ頭め……」


 誰もいなくなった教室でただ一人、白葉は反省文を書き始めた。何故か涙がポロポロとこぼれる。反省文が少し涙で濡れてしまう。


 「……あれっ?」


 その声ももちろん誰に届くこともなく虚しく消えている。濡れたところをシャーペンで黒く塗りつぶすとちょっと穴があいた。セロハンテープでとめたけど、穴は見えたままだった。自分の心に穴が空いたように思えた。


 学校を出て最寄駅ホームに着いたのは十八時。女子バスケ部が終わるのは二十分前。そろそろホームに降りてくる頃の時間だった。足音が私に近づく。独り言のように足音に向かって呟いた。


「何よあのハゲ先生、私にばっかつっかかってきてさ、気持ち悪いって―の」


 「つっかかってたのはあんたでしょうに……」


 白葉の言葉に突っ込みを入れるようにその女は言った。


 「あぁ、やっぱり舞菜か。バスケ部終わったんだ」


 「何よ、そのめんどくさいオーラ満々のオーラは!もう」


 ふふっ、と彼女は上品に笑てみせる。

 夕立ゆうだち  舞菜まいな こちらも十八歳の女性で、白葉のタメにあたる。

 身長163センチ 体重は秘密

 瞳は淡いブルー 髪は腰ほどまであり、黒に薄い紫が栄える。

 長所 容姿と頭脳


 「短所は性格、こいつは酷いぞ」


 「私のプロフィールに変なものたさないでね?」


 見るから危険な笑顔で、それも右手に銃を持ちながらいう。


 「そんな物騒なものをこんなとこで、しかも友人に向けてだすなよ!」


 そう。これが本当の彼女の姿である……

 やっぱり憲法九条を取り戻した方がいい。白葉はさらにその思いを強めた。

 舞菜は容姿端麗ながら、その行動とのギャップにホントに驚かされる。そのためあってか男も滅多に寄り付かない。


 「それでさぁ、」


 舞菜はそう続けてさっきの学校での話を持ち出した。


 「哀刀に入るって本気なの?」


 舞菜はさっきまでとはまるで違う真面目な顔をした。白葉は彼女のその顔が苦手である。過去に痛い目に合ってるからだ。

 舞菜の様子をうかがうようにしながら白葉は言った。


 「本気……ですよ?」


 駅のホーム。ベンチに座る白葉の目を舞菜はこれでもかと言わんばかりに見つめる。


 「……むむぅ」


 舞菜の威圧感に顔を背けそうになる。舞菜はぱちくりと大きなまばたきを二回してみせると軽く言った。


 「そっかぁー」


 ギャップのせいか以前より優しく感じる元の目に戻った舞菜は耳に髪をかけるとこう続けていく……


 「私も受けようかしら」


 「へっ?」


 驚きのあまりベンチから飛び跳ねた白葉の膝に乗っていたカバンが落ちる。中身が散らばり線路に落ちそうになる筆箱に飛びつく。


 舞菜が入ったら敵に討たれるどころか自分の命が本気で危ない。命大事に……。


 「あわわわっ」


 「あなた一人じゃ私は心配だもの」


 「……お前は私のママかっ!大丈夫だから」


 本音を言うとむしろくんなっ!

 私の言葉と思いを受け流すように、なぁに言ってんのと舞菜は私にでこぴんすると続ける。


 「私はあなたの守護神よ。神様よ?一人で行かせわしないわ」


 ベンチにふんぞり返り指をさして舞菜は言う。


 「なぁに言ってんのお前は!って、あれ?」


 白葉の目から涙が一つまた一つとこぼれた。


 「私も守りたいものがあるの。あなたは一人じゃないのよ」


 「えっく……ばかぁ」


 白葉は彼女の胸に顔をうずくめた。舞菜は優しく白葉の頭をなでる。彼女の胸に隠しいれてある銃が邪魔だった。憲法九条を取り戻そう。そしたらまたうずくまってもいいよね?


 「……ありがとう」


 「一緒にがんばりましょうね」


 この日この時、二人は哀刀に入ることを決意した――――

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